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2016.10.21

インタビュー

【学園×警察ミステリー】女子大生5人、最も美しい捜査チーム結成!

「隠蔽捜査」「ST」シリーズなど警察小説の名手・今野敏が贈る、かつてないミステリー!

元ノンキャリ刑事の大学教授と少数精鋭のイマドキ女子大生が挑むのは、継続捜査案件、つまり「未解決事件(コールドケース)」。キャンパスで起こる様々な事件は、やがて、ある大事件に結びつき……。

その構想の裏側に香山二三郎が迫る。

女性を書くことの難しさ

『継続捜査ゼミ』 title=

──新作『継続捜査ゼミ』は元警察学校の校長が女子大の教授になってゼミを受け持ち、学生たちと迷宮入り事件に挑むお話です。読みどころはまず警察小説と学園ミステリーを合体させたことだと思いますが、このアイデアはどこから思いつかれたのでしょう。

今野 とにかく俺の小説は男ばっかりで女性が出てこないと常々批判を受けていまして、じゃあちょっと女だらけの小説を書いてみようかと。女性を出せば簡単にドラマになるんじゃないかという邪(よこしま)な気持ちもあって(笑)。男性作家が女性を書く場合、凄くバイアスがかかるんですよ。好みの女性しか出てこないという。今回も気を付けて書いたつもりだけど、女性読者から批判が集まるかもしれない。こんな子、いないわよって(笑)。それを覚悟のうえで書きました。

──舞台は東京・世田谷にある架空の女子大学、三宿女子大ですが、実際にはそこには昭和女子大学があります。物語で扱われる老夫婦殺しも、5、6年前に近所の中目黒で類似の事件が実際に起きていますが、そういう現実も取り入れられたんでしょうか。

今野 特に意識したわけじゃないです。ぶっちゃけ、よその土地で書くのはかったるいから(笑)。中目黒周辺のことはよく知っているし、昭和女子大も恰好のモデルになると思ったんで、大学の機構などは参考にさせてもらいました。たしかに老夫婦が襲われた事件がありましたが、それが元になっているわけではありません。ただ、もしかしたら潜在意識にあったのかもしれません。

──今回は現場を取材されたりは……。

今野 特にはないですね。自分の大学生の頃のことを思い出したりとか、女子大に行っていた人から話を聞いたりとか。

──作中の老夫婦殺しの事件は単純なようでいて結構奥が深い。警察は居直り強盗じゃないかという思い込みで捜査に当たるけど、それがかえってネックになってしまったりします。現実の捜査でも問題になったりしていますね。

今野 馴れってあるんですね。捜査官は全員が全員集中して捜査しているわけではなく、ベテランがこの事件はこうだっていっちゃうと、もう逆らえないみたいな部分もありますし。本人たちは真面目に捜査しているはずなんですが、見逃しがあったりする。継続捜査というのは、そういうところが重要なんだと思います。見逃してしまったところをもう1回洗い直してみるとか。事件を見直すことが出来れば、再審請求などにもつながる。

「警察×学園」というアイデアは

『継続捜査ゼミ』 title=

──主人公の小早川教授はノンキャリの元警察学校の校長ということですが、女子大でゼミを持つというアイデアは昔から温めていたんですか。

今野 いや、昔からというわけではないですね。今は新しいものを書いてくれといわれても、警察小説しか書けない立場にいますから(笑)。でも探偵ものは書いてみたかったんですよ、実は。アイザック・アシモフに『黒後家蜘蛛の会』って作品がありますよね、あれが昔からとても好きで、集団の探偵ものを書いてみたかった。

──探偵ものだと、老夫婦殺しの方で前代未聞の大トリックを考案したりとかは……。

今野 そういう気持ちはあったけど、やり切れなかったかな。実力不足ですね。申し訳ありません(笑)。アシモフの小説で面白いのは、会のメンバーが4人なら4人、皆ちゃんと推理をするんだけど、それが全部間違いで、給仕が本当のことを言っちゃったりするところなんですね。今回やりたくて出来たのは、集団で探偵をやるところだけでした。

──警察学校の校長先生には実際に会って話を聞かれたんですか。

今野 警視庁じゃないけど、別件で訪ねた広島県警の警察学校の校長先生には話を聞いてきました。

──地方の警察学校だと、東京とはちょっと事情が違うんじゃないですか。

今野 いや、同じ点も多くあるんですよ、組織としてやっていることは。

──小早川教授は丸いというか、温厚な人柄ですが、実際に会った方は……。

今野 丸いというか、リベラルな人でしたね。

──いっぽうの5人のゼミ生ですが、キャラクターを書き分けるのは大変でしたか。

今野 そうですね。男性作家が女性を5人書き分けるのって結構大変なんです。編集者からも、後半活躍するキャラクターが前半ちょっと弱いので補強してくれという注文もあったぐらいで、スタートした当時は書き分けが出来ていなかったんですよ。連載の途中でだんだん育ってきて、最後はバランスを取れましたが、前半はちょっと書き足しました。

──5人という人数は、『ST 警視庁科学特捜班』のメンバーを髣髴させますね。

今野 『ST』も少しだけ頭にありました。それぞれ得意分野がある女子たちという。歴史であったり、薬に詳しかったり、法律に詳しかったりとか。まだ全員が十全に能力を発揮出来てはいませんが、シリーズ化していただけるなら、追々育っていくと思います。

小説というバランスの中で

『継続捜査ゼミ』 title=

──ゼミ生の取り巻きというか、目黒署の安斎(あんざい)を始め、警察官も何人か出てきます。

今野 最初は警察官をあまり出すつもりはなかったんです。ただ物語上、犯罪の捜査をすることになるので、どうしても出さざるを得なくて。いちばん苦労したのは、継続捜査ということで昔の事件の捜査をするんですが、それだけだと間が持たないから、学園内の身近の事件も解決させるわけです。継続捜査だけだと、ただ書類を読んでいるだけ、皆で議論しているだけという作品になりがちなので、その兼ね合いというか、バランスの取りかたが難しかった。

──まず通しのテーマとして15年前の老夫婦殺しの捜査があって、その合間に女子大のサークル内で靴が盗まれたり、文学部の教授のスマホに身に覚えのない写真が送られてきたりする事件が起きます。

今野 この作品ではそういう書き方がいちばんいいんじゃないかと選択しました。ずーっと、老夫婦殺しの話だとホントもたないんですよ。かといって、学内の身近な問題だけだとそれこそ連作短篇みたいになっちゃうんで、両方のバランスを取りつつ、そのどっちに関心が振れるのか綱引きをさせながら書いていくのがちょっと大変でしたね。それがうまくいったかどうかは、読者の皆さんの判断に委ねるしかない。

──靴が盗まれる事件と、身に覚えのない写真が送られてくる事件というのは、いつの時代でもありそうな事件といかにも現代的な事件とを組み合わせたのでしょうか。

今野 更衣室で何かが盗まれるのって、いつの時代でも嫌なことだと思うんですよ。新聞に載るような事件じゃないけど、そういうのをゼミで解決していくのってひとつのパターンだと思いました。もういっぽうの写真のは、ネタを探しているうちに思い付いたという感じでしょうか。特に昔ながらの事件と新しい事件とを対比させようという意図があったわけじゃないです。

──そういう日常の謎に挑むいっぽうで、小早川が時効とは何かを講義したり、警察小説としてシリアスな部分も随所にあります。

今野 やっぱり扱うのが継続捜査ですからね、何で継続捜査が出来たかということも知ってほしかった。重大事件の公訴時効が撤廃されて、警視庁に特命捜査対策室が出来て継続捜査をするようになったんですけれども、その背景も大切です。本当に公訴時効を撤廃する必要があったのか、今でも時効はあったほうがいいという説もあるし、今後もそういうことを考えつつ考えつつ書いていくと思います。

──脇役で登場する文学部の教授が純情というか、真面目な学究の徒でいい味出していると思いました。

今野 結構好きなんですよ、あの人(笑)。大学ということで、アカデミックな味わいというか、大学というのは俗世間と違って学究だけやっててもいいんだよという雰囲気をどこかで出したかったんです。大学の役割というか。今の大学って皆専門学校化しちゃっているじゃないですか。でもそうじゃないんだよっていうところをどこかで出したくて、それをこのキャラに担(にな)って貰ったんです。

──文学論的なことも披露されます。

今野 文学論と、あと大学論ですね。

──その辺りは今野さんの持論なんでしょうか。

今野 結構ホンネは出ています。今回、大学を書いてみて思ったんだけど、意外に面白いですね。自分が学生の頃はあまり真面目に通っていなかったので、学内にいた時間は多くないんだけど(笑)、結構面白い空間ですよね。書きながらいろいろなことを考えました。こんなに私立大学が要るのかとか、本当に大学生になる必要があるのかとかね。

──ゼミ生たちも脇役もキャラが立っているし、これは本当にドラマ化しやすいんじゃないですか。

今野 女性が多いというだけでも、ドラマ化はやりやすいんじゃないかな。

「継続捜査」は終わらない!?

──今後の展開についてはまだ具体的には考えていらっしゃらない?

今野 今言ったように、大学というところは結構面白いなという関心が芽生えたんですよ。だからゼミ生の5人の女の子を中心に据えつつ、大学空間の面白さとかも滲み出てくるといいなと思います。あと継続捜査ですね。継続捜査って何なんだろう、何のためにやるんだろうということ。今回はあまり書き切れていないけど、継続捜査で大切なのはやっぱり被害者の遺族、関係者だと思うんです。そういうことも書いていかないといけないだろうと思います。まだまだこれからなんですよ、『継続捜査ゼミ』という作品自体が。

──今後も大きな事件と小さな事件とを組み合わせる形で書かれますか。

今野 いちばんは、その小さな事件が大きな事件に絡んでいくといいんですね。今回はそれが完璧には出来なかったんですけど、小さな事件が絡んで大きな事件が解決していくっていう流れが、いちばん理想的です。

──取材にも本腰を入れて。

今野 女子大へ行こうか(笑)。

──潜入取材したり。

今野 つかまったらどうすんだよ(笑)。


聞き手・文/香山ニ三郎(2番目の写真 左側)

今野 敏(こんの・びん)

1955年北海道生まれ。上智大学在学中の1978年「怪物が街にやってくる」で第4回問題小説新人賞を受賞。卒業後、レコード会社勤務を経て、作家業に専念する。2006年『隠蔽捜査』で第27回吉川英治文学新人賞、2008年『果断 隠蔽捜査2』で第21回山本周五郎賞、第61回日本推理作家協会賞を受賞。「空手道今野塾」を主宰し、空手、棒術を指導。他の著書に「東京湾臨海署安積班」シリーズ、「同期」シリーズなど。近著に『臥龍 横浜みなとみらい署暴対係』『防諜捜査』『マル暴総監』『真贋』『去就 隠蔽捜査6』がある。

継続捜査ゼミ

著 : 今野 敏

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