この記事を読んでいるみなさんは、おそらく「肩こりがひどく、頭が重い」「頭痛がなかなか治らない」と日常的に感じていらっしゃる方ばかりでしょう。クリニックのドアを叩いたものの、あまり改善しなかったという方もいらっしゃるのではないでしょうか。
こうした症状の場合、「緊張型頭痛」の可能性があります。なんと日本人の6人に1人の人が患っている、とてもポピュラーな頭痛なのです。
今回はこの悩ましい緊張型頭痛の種類と症状、その対処方法を丁寧に解説した、『頭痛をスッキリ治す本 いちばん多い頭痛=緊張型頭痛のすべて』から、緊張型頭痛の基礎知識と代表的な症状について見ていきましょう。
「緊張型頭痛」の3つの特徴
緊張型頭痛はかつて「筋収縮性頭痛」とよばれていましたが、1988年に発表された国際頭痛分類では名称が変わり、緊張型頭痛とよばれるようになりました。筋収縮性頭痛とは、首や肩の筋肉が収縮し、こりがひどくなっておこる頭痛のことです。
じつは、単に名称が変わっただけでなく、中身も複雑化して首や肩のこりによる頭痛だけを指すわけではなくなったのですが、現在でも緊張型頭痛と筋収縮性頭痛は同じだと思っている人が、患者さんはもちろんのこと、医療関係者にも多いようです。
この緊張性頭痛では、症状の程度の差はあれども日本国内で2000万を超える患者がいるといわれています。すなわち、日本人の6人に1人が緊張性頭痛に悩んでいる状況で、非常に「ありふれた」頭痛であることがわかります。
それでは、緊張型頭痛とはどのような症状をもって判断されるのでしょうか。次の3つが特徴的な症状として挙げられます。
【1】均一性の痛みを示していること
均一性の痛みとは、同じ強さの痛みがずっと続くことです。「ジワーッとした痛み」「ズーンとした痛み」とよく表現されます。
脈に一致してズキンズキンと痛む片頭痛や瞬間的にピリッとした痛みが間欠的に現れる神経痛では、時間とともに痛みが強くなったり弱くなったりしますが、そのようなタイプの痛みではないということです。
【2】頭の両側に痛みが出ていること
片頭痛では頭の片側の痛みであることが多く、両側が痛む人でも痛みの強さに明確な左右差があります。
しかし、緊張型頭痛では頭の両側に痛みが出て、痛みに左右差はほとんどありません。
【3】痛みが一定時間、持続していること
痛みが一定時間、持続します。これを非発作性といいます。
片頭痛では、「朝8時頃から痛みが出そうな前ぶれがあり、9時頃には頭がガンガンするほど痛み出し、ずっと痛みが続いたが夕方くらいからは少しよくなってきた」というように、いつ頃から痛みが出はじめ、いつ頃から改善しはじめたか、という具体的な経過を自覚することができます。このような痛みの出現様式を発作性といいますが、非発作性ではそういった具体的な痛みの変化を時間経過として把握することができません。
緊張型頭痛を治すには原因や背景にアプローチを
ひとくちに緊張型頭痛といっても、2000万人を超える患者さんがいるわけですから、ごく軽いものから治療に反応しない厄介なものまで、その程度にはかなりの個人差があります。しかも、緊張型頭痛をおこす原因や背景もさまざまです。
たとえば、首の筋肉が疲れたことによる頭痛、日本人にありがちな慢性の肩こり症からくる頭痛、精神的な不安感が影響する頭痛、もともとの片頭痛が悪化した頭痛など、実にさまざまです。頭痛が起きる背景が異なったり、痛みの程度や持続する時間などにも幅があります。
このように、緊張型頭痛をおこした原因や背景がそれぞれ違うのに、一律に鎮痛薬を投与するというような治療で全員がよくなるはずがありません。
緊張型頭痛の原因や背景を医師がきっちりと分析して見極め、適切な治療法を選択すれば、頭痛は改善され、患者さんは痛みから解放されるはずです。すべての患者さんにというわけにはいきませんが、70〜80%の患者さんには、従来よりも効果的な治療によって、改善が期待できるのです。
緊張型頭痛の3つのタイプ
本書『頭痛をスッキリ治す本 いちばん多い頭痛=緊張型頭痛のすべて』では緊張型頭痛を以下の3つのタイプに分けています。
医療機関で緊張型頭痛という診断を受けた人、あるいはインターネットなどで調べてみて自分は緊張型頭痛ではないかと思った人は、もう一歩踏み込んで、この3つのタイプのうちのどれにあてはまるのかをまず考えてみてください。おそらく大多数の人は、いずれかにあてはまると思います。
【1】肩こりタイプ
首や肩の筋肉が収縮してかたくなり、こりやつっぱり感、痛みが現れる「肩こり」は、日本人の国民病とも言われるほど、ごくありふれた症状です。この肩こりが頭痛にまで発展した状態が「肩こりタイプの緊張型頭痛」です。
この緊張型頭痛は日本人にはもっとも多い、いわば主流ともいえる頭痛です。
首から肩の筋肉に痛みやつっぱり感があることや、その痛みに左右差があること、頭部や肩の位置など姿勢の異常が見られること、精神的・肉体的ストレスが強いときに症状が強まるなどといった特徴が挙げられます。一方で、頭痛で夜中に目が覚めるといったことはありません。
【2】ストレスタイプ
精神的ストレスが強くかかわったと考えられる頭痛で、かつては心因性頭痛とよばれていました。肩や首のこりは伴いません。
痛む部位も痛みの特徴もはっきりしない、不定な症状の訴えが中心になっており、頭痛の症状も軽い場合が多いです。
診察室に入ると急におおげさに痛みを訴える傾向があったり、一方、無表情でなにを聞いても答えようとしない患者さんも。また離婚、近親者の死、夫婦の不和、仕事上のストレスやトラブルなども、頭痛をおこしやすい条件となり、精神科、神経科、心療内科への受診歴がある場合には、ストレスタイプの可能性が大きいと推測されます。受診態度は横柄か、逆に極度に神経質であったりします。
【3】片頭痛タイプ
若い頃からの片頭痛が、加齢や薬の影響で変化し、緊張型頭痛と区別がつきにくくなった頭痛です。変容型片頭痛ともよばれます。
片頭痛と緊張型頭痛の特徴を折衷したような症状を呈するのが平均的です。筋肉性の痛みが目立つときには緊張型頭痛の特徴である首や肩のこりを自覚することもありますし、痛みが強まったときには片頭痛の特徴である光や音に対する過敏性が見られることもあります。
タイプに合わせた適切な治療法を把握しよう
緊張型頭痛は極めてありふれた頭痛ですから、医療機関でMRIなどの画像検査、また血液や髄液の検査を受けても異常は認められません。すなわち、パッとみてはっきりとした画像化、数値化される異常がない頭痛は、すべて緊張型頭痛と診断されてしまうことが多いのです。
しかし、ありふれた頭痛であるからといって、健康な人に現れるわけはありません。なんらかの要因が影響しているに違いないはずです。要因となるなんらかの背景があるときに、頭痛となって現れてくるのです。
効果的な治療を受けるためには、まず皆さん自身の緊張型頭痛をよく見直し、どのような原因や背景があって頭痛がおこったのか、つまり、先ほど挙げた3つのタイプのどれにあてはまるのかを把握していただく必要があります。
なお、緊張型頭痛は高血圧や脳梗塞などの生活習慣病とは異なり、将来、生命を脅かすようなものではありません。これを知っただけで症状が軽減する人もかなりいますので、「将来、寿命を縮めるのではないか」などといった誤った不安を抱かないようにしてください。
本書『頭痛をスッキリ治す本 いちばん多い頭痛=緊張型頭痛のすべて』の著者であり、名古屋で寺本神経内科クリニックを開設して頭痛診療にあたる寺本純氏によれば、わが国での頭痛医療は、欧米に比較して10 年以上遅れているのだそうです。寺本氏が2005年にはじめて『臨床頭痛学』(診断と治療社)を刊行するまで、日本には頭痛医療の医学書は存在しませんでした。以来、寺本氏は頭痛に関する情報発信を精力的に行っています。
本書は氏の経験をもとに、緊張型頭痛をさまざまな症例を挙げながら、とくにわかりやすく、丁寧に解説した1冊。先に挙げた3つのタイプに合わせて、症例や症状の見分け方、頭痛の原因や治療法などを知ることができます。なかなか治らない緊張型頭痛に悩まされてきた人には、適切な治療法を探る大きな福音となることでしょう。
「頭痛を持っている人が正確な知識を持つことによって診断名に納得した結果、頭痛も軽減してしまうということはよくあります。とくに緊張型頭痛においては、その背景を知ることで適切な対処法を選択できるようになるからか、改善に向かう傾向が強いのです」とは、著者、寺本氏の言葉。この本で、煩わしい緊張型頭痛をしっかり、スッキリ治療しましょう。