映画化された『お引越し』『ごめん』など新機軸の児童文学を生み出し続けるひこ・田中さんの描いた小さな小さな恋の物語を、『りんごかもしれない』『りゆうがあります』などの大ヒットで飛ぶ鳥を落とす勢いのイラストレーター、ヨシタケシンスケさんが、豊富な挿絵でさらにさらに世界をふくらませた1冊『ハルとカナ』。生みの親でもあるひこ・田中さんにその制作秘話をうかがいました。
■あらすじ
ハルもカナも、小学2年生になったばかり。
ハルは、休み時間になると、なんで男子は男子と、女子は女子と集まるのかなって不思議に思う。
カナはユズやキララといると楽しいし、安心できるけど、それって女の子どうしだからなのかな?って、これまた不思議に感じてる。
でも、ふたりとも、なんか気持ちが変わってきたことに気がついてたんだ。
「わたし、ハルくんのこと」
「ぼく、カナちゃんのこと」
「もっともっと知りたいな」
【主人公/ハルとカナの人物紹介】
ハルもカナも、桜谷小学校の2年2組。担任は佐々木タツオ先生。 ハルは、両親を見て、大人はややこしくて、がまん強い生き物だなって感じている。 カナは、カエルが停留所ごとにバスに乗ったり、降りたりするのを想像して、数を数えるのが好きになった──。そんなふたりです。
■ひこ・田中先生に聞く「3つの質問」
Q1)小学2年生、8歳の男の子と女の子の「ちいさな、ちいさな、恋のものがたり」を描こうと思ったきっかけは、なんですか?
小さな子どもの恋を、大人はついからかってしまうものです。それは、大人のまねごとをしているだけだって思うから。
「そんなことはないよ。8歳だって真剣にときめくし、悩むんだい。」ということを8歳の子たちといっしょに主張したいと思って、この作品を描きました。
Q2)ヨシタケシンスケさんとのタッグで生まれた『ハルとカナ』ですが、これまでのおふたりのお仕事を振り返ってお話してください。また、ヨシタケさんの仕事に対して、ひこさんがどんなところを信頼しているのか、教えてください。
ヨシタケさんとは、「考える絵本シリーズ」の『子ども・大人』(野上暁さんと共著 大月書店)で初めてご一緒しました。こちらの書いた文に、まるで子どもからの回答のように差し出される絵にときめきました。
打ち合わせが終わってから、「ヨシタケさんの描く子どものイメージで幼年童話を書かせてください」 とお願いしたところ、「いいですよ」とのお返事。
そして、5歳児が3歳の頃のことを回想する、『レッツとネコさん』、『レッツのふみだい』、『レッツがおつかい』(そうえん社)のシリーズが出来ました。
ヨシタケさんがこちらの文章をどう読解して絵を仕上げてくださるか、いつもドキドキ楽しみです。
Q3)小学校低学年だって「おとな」のことを冷静に観察しているんだな、と思わされる内容ですが、ひこさんご自身、ハルやカナと同じ年齢のころ、どのように世の中を見ていたか、ご記憶がありますか?
「建て前」や「本音」といった言葉はまだ知りませんでしたが、大人がこちらに何を望んでいるかはわかりました。たいていの子どもは小学生にもなればそうだと思います。
それに逆らうこともありましたが、大人の希望にあわせて、いい子になってみたり、わざと失敗したり、アホなことを言って笑いを誘ったりも、結構していたですね。
生きていくって大変だなあと思っていました。
あ、全然可愛くない子どもですね。
だからこそ、そんなサバイバルとは無縁の「ときめき」にとまどいました。その気持ちは今も大切に残してあります。
1953年、大阪府生まれ。同志社大学文学部卒業。1991年、『お引越し』で第1回椋鳩十児童文学賞を受賞。同作は相米慎二監督により映画化された。1997年、『ごめん』で第44回産経児童出版文化賞JR賞を受賞。同作は冨樫森監督により映画化された。他に、「なりたて中学生」シリーズ(講談社)、「モールランド・ストーリー」シリーズ(福音館書店)、「レッツ」シリーズ(そうえん社)、『大人のための児童文学講座』(徳間書店)、『ふしぎなふしぎな子どもの物語 なぜ成長を描かなくなったのか?』(光文社新書)など。『児童文学書評』主宰。
1973年、神奈川県生まれ。筑波大学大学院芸術研究科総合造形コース修了。日常のさりげないひとコマを独特の角度で切り取ったスケッチ集や、児童書の挿絵、装画、イラストエッセイなど、多岐にわたり作品を発表している。『りんごかもしれない』(ブロンズ新社)で、第6回MOE絵本屋さん大賞第1位、第61回産経児童出版文化賞美術賞などを受賞。著書に、『しかもフタが無い』(PARCO出版)、『結局できずじまい』『せまいぞドキドキ』(ともに講談社)、『もうぬげない』『このあと どうしちゃおう』(ともにブロンズ新社)、『りゆうがあります』『ふまんがあります』(ともにPHP研究所)などがある。2児の父。