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2016.08.18

特集

日本は「妊娠できない不妊治療」が世界一多い国。出産率最下位の衝撃!

ご存じですか? 体外受精の実施件数は世界一なのに出産率は世界最下位!
──じつは日本は、「妊娠できない不妊治療」が世界でいちばん行われている国だった!
これまで知られることのなかった“不妊治療大国・日本”の真実と、知らないと損をする「妊娠の新常識」をブルーバックス新刊『不妊治療を考えたら読む本』から特別に公開します!

限られた「お金」と「時間」の使い方が結果を左右する

不妊治療は保険が適用されないものが多く、お金がかかるのも大変なところです。検査や、一般不妊治療と呼ばれる「タイミング法」や「人工授精」のような方法ではそこまで高い費用はかかりませんが、体外受精や顕微授精ともなれば、1回につき数十万円から、高い施設では総額で100万円くらいになることもあります。経済的な面から見ても、そんなに長期にわたって行えるものではありません。

「効率」という言葉は味気ないかもしれませんが、この「限られた時間」「限られたお金」を有効に使えるかどうかが、不妊治療では、否応なしに求められるのです。

なぜ日本人は妊娠しにくいのか?

それなのに、残念ながら今の日本の患者さんは必ずしも効率を考えた治療を受けていないようです。日本の文化には「できるだけ自然にしているのがよい」という無為自然を尊ぶ考え方がありますが、そのためか、まず治療の開始年齢が遅いという傾向があります。なかなか妊娠しなくても「そのうち、妊娠するでしょう」と思い、年齢がかなり高くなるまで医療施設での不妊治療を考えないのです。このことは、日本で今よく売れている不妊治療の本のほとんどが、食事の改善や「冷え」予防など自然療法の本であることを見れば一目瞭然です。

また、医療施設での不妊治療を始めた場合も、「薬の使用はできるだけ控えたい」と望む人が多いのも特徴です。こうした自然志向の結果、自然療法や薬を控えた治療に時間をかけすぎて、いざ本格的な不妊治療に切り替えることにしたときには、妊娠できる卵子がすでに少なすぎる人が目立ちます。そして、治療を始めてもなかなか妊娠に至らないのはつらいことですから、次第に心も身体も疲れ切ってしまいます。

日本は不妊治療の成績がこんなに悪い!

意外に思われるかもしれませんが、じつは日本のART(生殖補助医療)の治療成績は、国際的に見ると際立って低いのです。その背景には、こうした日本独自の事情があります。

世界各国のARTの実施状況をモニタリングしている組織「国際生殖補助医療監視委員会(ICMART)」の報告によると、日本は、1回の採卵あたりの出産率が60ヵ国・地域中で最下位でした。累計出産率の順位はもう少し良いのですが、それでもドミニカ共和国、イタリアに次いで最下位から3番目です。

妊娠できない不妊治療が大量に行われている

出産率が低い一方で、日本は、体外受精の実施件数は、60ヵ国・地域中で第1位でした。

つまり日本は、国際的に見ると、「妊娠できない不妊治療が非常にたくさん行われている」ということになります。

日本の2010年の体外受精実施件数は、24万2161件でした。これは第2位の米国の約1.6倍にあたります。ところが、治療によってどれくらいの子どもが生まれているかというと、米国の半分にも満たないのです。

技術レベルが低いわけではない

『不妊治療を考えたら読む本』筆者の浅田義正医師は、「私は不妊治療に関する国際学会へよく行きますが、日本の技術レベルが低いとは思いません。近年は、日本のトップレベルの施設で行われている治療は、むしろ欧米より技術的に高いのではないかと思います」と言います。

先にも述べたように、日本人は妊娠や不妊治療に関する正しい知識を持っていないがゆえに、妊娠のチャンスを自ら逃してしまっていることもあるのです。

不妊治療を受ける人は、まずこのような日本の現状を知ってほしいと思います。

食事や冷え予防などの自然療法を行うことは、健康状態全般のためには大切なことに違いありません。生活が乱れて、そのために体力が落ちているのであれば、なおさらです。

しかし、それだけでは妊娠に至らない人が、現実にはたくさんいます。

妊娠するための「新常識」、いくつ答えられますか?

それでは、妊娠の近道を歩むための「正しい知識」にはどんなものがあるのでしょうか。『不妊治療を考えたら読む本』の中から、5問を出題。あなたは、いくつ答えられますか?

【質問】 以下の問いに、○か×でお答えください。

Q1:排卵日を知るために、基礎体温は毎日欠かさず測るべきだ

Q2:いちばん妊娠しやすいセックスのタイミングは、排卵日である

Q3:良い精子を得るには、3日間ほど禁欲したほうがいい

Q4:不妊検査で「異常なし」であれば、すぐに妊娠できる可能性が高い

Q5:薬を使わない自然周期の体外受精は、体への負担が少なく妊娠率が高い

【答え】

Q1:排卵日を知るために、基礎体温は毎日欠かさず測るべきだ → ×

A:ネットにも多くの本にも「排卵しているかどうかわかる方法」と書かれている基礎体温計測ですが、生殖補助医療の現場から見れば、かなり当てにならないものなのです。「ガクンと下がった日が妊娠可能日」「大きく下がる月は妊娠しやすい」などさまざまな俗説もありますが、いずれも根拠はありません。

そうした細かいことに一喜一憂したり、特別な日を逃してはならないという強迫観念を持つことがストレスとなり、精神的に疲労してしまう可能性があります。

もともと基礎体温というものは、黄体ホルモンによるわずかな体温の差を感知するもので、日常の活動のほうが大きな体温変化をもたらします。起き上がらずとも、少しでも身体を動かせば変わってしまうくらい微妙なものです。夜中にトイレに行ったり、エアコンを付けたり、鼻が詰まって口を開けて寝たりした場合も変化する可能性があります。


Q2:いちばん妊娠しやすいセックスのタイミングは、排卵日である → ×

A:じつはもっとも妊娠しやすい日は排卵日ではありません。

妊娠を希望する女性たちを調査した2002年の研究報告(Dunson D B et al.)によると、もっとも妊娠しやすいのは、排卵日の2日前でした。

この報告では、妊娠に至ったセックスの多くが、排卵日の5日前から排卵日までの6日間に行われたものだったことがわかっています。自分たちで妊娠しやすい日を探す場合は、市販の排卵検査薬を使うことが多いと思いますが、妊娠しやすい期間の前半では、まだ排卵検査薬が反応しないにもかかわらず、妊娠する可能性がけっこうあるのです。


Q3:良い精子を得るには、3日間ほど禁欲したほうがいい → ×

A:精子はできてから日が経っていないもののほうが運動性が高く、妊娠させる力が強いことが今日では明らかになっています。

男性への無理強いは禁物ですが、これまでよく言われていた「3日間禁欲をすると精子の状態がよくなる」などという考え方は間違っています。


Q4:不妊検査で「異常なし」であれば、すぐに妊娠できる可能性が高い → ×

A:検査をして、不妊の原因がはっきりとわかるケースは多くありません。不妊のメカニズムはわかっていないことが多く、メカニズムがわからないものは検査もできないし、治療することもできないということです。

検査で何か異常がみつかった場合は、それに対する対策を考えることで、そのカップルによりいっそう合った治療プランを作ることができます。

ですから、意外に聞こえるかもしれませんが、同じ年頃の人なら、異常が見つかったカップルのほうが早く対策が取れ、早く妊娠するのです。


Q5:薬を使わない自然周期の体外受精は、妊娠率が高い → ×

A:体外受精にはさまざまな手法があり、その中に「自然周期」という薬を使わない方法もあり、日本では多く行われています。明確な定義はありませんが、卵子を多数採ろうとはしない方法です。

しかし、体外受精は、排卵誘発剤を使って一度に多数の卵子を採ることが妊娠率を上げるためには大切で、1人出産するには13個の卵子が必要と言われています。しかし自然周期では1個しか卵子が採れませんから1回あたりの妊娠率が低く、海外ではほとんどすすめられていません。英国には、信頼性の高い医学論文を慎重に検討し、国のガイドラインを作成している「国立医療技術評価機構(NICE)」という組織がありますが、ここでは「自然周期の体外受精を女性に提案しないこと」と明記されているのです。


じつは5問とも、答えはすべて「×」でした。これらの答えについて、より詳しく知りたい方は、『不妊治療を考えたら読む本』をぜひご覧ください。

不妊治療を始めようか迷っている人から治療に行き詰まっている人にまで役立つ「妊娠するための近道」を、最新研究から科学的に解説しています。

『不妊治療を考えたら読む本』おもな内容

• 「食事」や「冷え」より大切なこと

• 「痛くない卵管造影検査」もある

• タイミング法・人工授精から体外受精へ切り替えるタイミングは?

• 費用や通院回数、実際はどれくらいかかる?

• 卵子の在庫がわかる「AMH検査」

• 治療施設が公開している高い妊娠率のカラクリ

• 40代でも妊娠率を上げるコツとは?

• 卵子はたくさん採れても質は落ちない

• 排卵誘発剤の副作用は、激減している

• 胚を凍結したほうが妊娠率があがる

• 顕微授精では精子が1個しか得られなくても妊娠が可能

• 大切なのは「自然な方法」ではなく「自分に合った方法」を見つけること ……など

第1章 不妊治療大国・日本の現実 ──治療を受けても妊娠できない国だった?

日本は、体外受精の実施件数が世界一多いのに、出産率は最低レベル―じつは「妊娠できない不妊治療」が世界でいちばん行われている国なのです。いったいなぜ、そんな事態となっているのでしょうか?

第2章 命のはじまり ──ここまでわかってきた卵子の世界

妊活中の方は「何を食べれば妊娠しやすいか?」など生活上の細かいことを気にしがちですが、いちばん大切なのは「妊娠の仕組み」をよく知ることです。この知識をつけることが、妊娠への第一歩となります。

第3章 不妊検査の最新事情

広く普及している不妊検査でも、最近になってあまり意味がないとわかってきたものも数々あります。どんな検査が必要で、それにはどんな意味があるのか、ポイントを押さえて効率よく受けるのがベストです。

第4章 一般不妊治療と卵巣刺激法

タイミング法と人工授精を併せて「一般不妊治療」と呼びます。年齢や検査の結果を踏まえ、何を目安にステップアップしていけばよいのでしょうか。不妊治療に欠かせない排卵誘発の方法も解説します。

第5章 体外受精と顕微授精

体外受精・顕微授精には、さまざまな方法があります。施設によって採用している方法も違いますが、なかなか妊娠しなくて悩んでいる人は、ぜひ本章を読んで「自分に合った方法」を見つけてください。

第6章 胚の移植と凍結

胚の凍結技術の進歩によって、これまでは難しかった方法で妊娠率を上げることが可能になってきました。受精卵はどこまで培養すべきか、どのタイミングで移植するのが良いのか。最新の見解を紹介します。

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