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2016.06.11

レビュー

【このヒロインがすごい】文科省の天才事務官、官僚腐敗に挑む!

ヒロインに最大のピンチが訪れる。ミステリアスなロマンをかきたてる傑作。香山二三郎(コラムニスト)

水鏡瑞希、最大のピンチである!

『水鏡推理Ⅲ パレイドリア・フェイス』は文部科学省の一般職で、副大臣を座長にする特別編成チーム――研究における不正行為・研究費の不正使用に関するタスクフォース所属の事務官・水鏡瑞希の活躍を描いたシリーズ第3作にあたる。

「背はさほど高くないが、華奢な身体つきに豊かなバスト(中略)、長い黒髪は光沢を帯び、小顔に不釣り合いなほどの大きな瞳がある」(第1巻)という登場時の彼女の外見はまさに美女そのもの。だがその内には、真実への探求心と強い正義感、そしてシャーロック・ホームズも顔負けの洞察力を秘めている。それというのも、公務員試験独自の科目、判断推理と数的推理に対処するため、東京・豊洲の鴨居探偵事務所で探偵仕事を学び、実践的な推理法を会得したからだ。

本篇の舞台は、栃木県北部の猪狩村。「広大な面積のうち実に9割が、人の住まない山林」という山間の村だ。7つの広大な山を管理する森林組合の人数はわずか7人、東京ドーム10個分の山をひとりで管理するというありさまだったが、組合員のひとりがニュージーランドに移住することが決まり、組合はさらなるピンチに陥っていた。村は慢性的な財政難で、組合員たちは篤実な村長に何とか報いたいと思っているのだが、現実は甘くない。しかしそんなとき、村を地震が襲い、山の一部が隆起して巨大な塚が形成された。しかもそれは巨大な人面を形作っていたのだ。

その頃文科省では、地磁気逆転が取り沙汰されていた。過去360万年の間に地球の磁極は11回入れ替わっていた。その最後は78万年前とされていたが、千葉県で77万年前に磁極逆転の証拠となる地層が発見され、さらに新潟と鹿児島で新たな発見が続いて75万年前とする可能性が生じていた。そして今また第4の地層が発見されたのだが、その場所というのが猪狩村の人面塚に隣接した笛吹村。しかも発見したのは、鹿児島、新潟のときと同じ大学の教授が主催するグループ。それは2000年に発覚した旧石器発掘捏造事件を連想させるものだった。発掘者の発表を鵜呑みにした文科省にとって、その事件はまさに悪夢のような出来事で、失態を繰り返すわけにはいかない。教科書の記述について早急に判断を下す必要もあるし、文科省は直ちに現地調査に乗り出し、笛吹村へはタスクフォースの若手官僚・廣瀬秀洋があてられ、瑞希も彼に同行することになる。

前作『水鏡推理Ⅱ インパクトファクター』では、STAP細胞研究にまつわる事件をベースにFOV人工血管事件という独自の捏造事件を構築してみせた著者だが、今回も地磁気逆転という、よりスケールの大きい題材を繰り出し、鮮やかな包丁さばきで料理してみせる。著者は毎作、資料の渉猟はもちろん、現地取材にも足を運んでいるそうだ。これまでのシリーズと同様、第一作から矢継ぎ早に新作を重ねていくハイペースぶりを考えると、その物語構築力は驚くばかりだ。むろんシリーズの通しテーマともいうべき文科省の伏魔殿ぶりも詳らかにされ、社会派作品としても読み応えのあるものになっているのは言うまでもない。

一連の事件には辛口の真相が待ち受けているが、著者は辛口のまま、話を終わらせはしない。現実の辛みをやわらげてくれる、洒落た後日譚が用意されているのだ。ラストの一文も見事に決まっている。

それにしても、作品ごとに瑞希の相棒が替わっていくこのシリーズ。第一巻の瑞希をめぐる澤田翔馬と南條朔也の三角関係はその後どうなったのであろうか。それが気になって仕方ない。彼らにまた登場する機会はあるのだろうか、次巻を待ちたい。

レビュアー

香山二三郎(かやま ふみろう)

コラムニスト、ミステリ評論家、書評家。『このミステリーがすごい!』大賞最終審査委員。

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