世の中のカラクリを「確率」で読み解く!
毎日の生活の中で、「確率」という言葉は頻繁に使われていますし、自然に耳に入ってきます。この世の中は偶然性から成り立っていますし、私たちの毎日の生活は、確率的に動いていくと言わざるを得ません。
それは、私たちの住んでいるこの世の中の真実の1つです。
日常生活において、確率を知っていると知らないとでは、大きな違いがあります。世の中のウソや間違いに惑わされることなく、確率を活かして、根拠に基づいた判断ができるかどうか? 人生の幸せは、これにかかっているのです。
ここでは、ブルーバックス『世の中の真実がわかる「確率」入門 偶然を味方につける数学的思考力』から、世の中の確率的なカラクリを解き明かす2つの話題を紹介します。
「30年以内に大地震が起きる確率90%」なら、1年以内は?
ニュースや新聞で、「30年以内に首都直下型大地震が起きる確率は90%……」といった記事をしばしば見かけます。もし、
「30年以内に大地震が起きる確率は90%」
だとしたら、「1年以内に大地震が起きる確率」は、90%を30で単純に割って「3%」となるのでしょうか? そのように思われがちです。
実は、この計算は間違っています。これはよくある誤りで、日本のある国務大臣経験者も、同じような間違った計算結果を披露したことがあるのです。上の場合、正しい確率は、3%ではなく約7.4%となります。
どうしてそうなるのでしょうか。
30年以内で地震が起きる確率が90%であるとき、1年以内に起きる確率を求める正しい計算は、次のようにします。1年以内に地震が少なくとも一度起きる確率をpとします。すると、1年以内に地震が一度も起きない確率は 1-p となります。30年間で一度も起きない確率は、1-p の30乗です。
(1-p)^30
30年間に少なくとも一度起きる確率は、これを1から引いて表せます。その値は90%(=0.9)なのですから、次の式が成り立ちます。
1-(1-p)^30 = 0.90
ここから先の詳しい計算の考え方については、ブルーバックス『世の中の真実がわかる「確率」入門 偶然を味方につける数学的思考力』90ページ以降をご参照いただくとしましょう。結果だけ示すと、上の式を満たすpは、約0.074(=約7.4%)となるのです。
「30年以内に大地震が起きる確率は90%」だから「1年以内に大地震が起きる確率は30で割って3%」だ……といった計算が誤りであることに気づく方法は、簡単です。思考実験をしてみるのです。
仮に、同じ「1年以内に大地震が起きる確率は3%」として、30年を超えて、40年、50年と経過したと考えてみるのです。すると、「○年以内に大地震が起きる確率」の値は、3%に40や50を掛けることになりますから、1(=100%)を超えてしまいます。
確率の値が1(=100%)を超えることはあり得ないのですから、そもそもの計算方法が間違っていたことになります。
一般に、確率を学ぶときには、このように、計算結果を実際の現象と対比すると理解が深まります。「30で割る」とか「30倍する」といった数字の操作だけでは、何を求めているのかさえわからなくなってしまうことが多いのです。
たとえ思考実験でも、実験してみることが大事なのです。
生命保険会社は絶対に損をしないのか?
毎月保険料(掛金)を支払い、契約期間内に万が一死亡した場合に保険金を受け取れるのが生命保険です。一例として、ある保険会社で、保険期間が10年間の生命保険を40歳男性が契約して、死亡保険金が1000万円である場合、月払保険料は2374円です。
彼が10年間に支払う保険料総額は、2374×12×10=284880円、約28万円余りです。この金額さえ支払っておけば、10年の保険期間のどこかの時点で万が一亡くなったとき、家族は1000万円を受け取れるのです。
もし契約者がこの男性1人しかいなかったら、彼が亡くなったとき、保険会社は1000万円-28万円=972万円の損害を被ることになります。
しかし、契約者が1000人いたときは、話は全く別になってくるのです。保険会社が受け取る保険料の総額は、284880×1000=284880000となり、2億8488万円になります。支払う保険金は、契約者の1000人の中で、何人が10年間に亡くなるかで決まります。それを生命表から計算してみましょう。
40歳の男性が1年間で亡くなる確率は、0.00109、生存している割合は、1-0.00109=0.99891
……(以下同様に、「生命表」から40代各年齢の生存率を算出)
49歳の男性が1年間で亡くなる確率は、0.00250、生存している割合は、1-0.00250=0.99750
40歳男性が、50歳まで生存できる割合は、これらの各年齢の生存確率を掛けて得られます。
0.99891×0.99881×0.99870×0.99856×0.99842×0.99827×0.99813×0.99796×0.99775×0.99750=0.983138…
結局、50歳までの10年間に亡くなる人の確率(割合)は、1-0.983138=0.016862となるのです。
1000人の契約者の中で、10年間に亡くなる人は、約16.862人しかいないのです。多く見積もって、17人としても、支払う死亡保険金は、1000万円×17=1億7000万円に過ぎません。
被保険者から受け取った保険料は、総額2億8488万円でしたから、差し引き、2億8488万円-1億7000万円=1億1488万円は、保険会社の収入になるという計算になります。
保険会社はこの中から、広告料や人件費を支出して、純利益が確保されることになります。
契約者の数が1000人でなく、1万人だったとすると、保険料収入は28億4880万円です。一方、支払う死亡保険金は、16億8620万円ですから、差し引き、11億6260万円が収入として残ることになります。
人件費や広告料を引いても純利益は相当な金額で、生命保険は儲かる商売、利益が上がる分野ということで、生命保険会社は乱立しているのです。
もっとも、リスクがないわけではありません。各年齢の死亡率は、平時の、何の大事件もない場合は、確実にこの表に従って人は亡くなっていくのです。
しかし、戦争が勃発したり、広範囲の大地震や大災害が起きたりして、亡くなる方が急増すれば、死亡する人の数は増加して、支払うべき保険金が増大していきます。
その結果、契約者数が少なければ、支払うべき保険金が、受け取った保険料を超過してしまい、保険会社は倒産することになります(このため、保険の説明文書には、大災害等で死亡したら保険金が支払われない場合がある、という「免責」の条項がよく書かれています)。
もっとも、万一、保険会社が倒産しても、「生命保険契約者保護機構」という機関があり、契約者は一定の範囲で保護され、一定の救済は受けることができるのですが……。
いずれにしても、生命表は、多数の人の統計結果でしかありません。
このような多数の人の法則に左右されないように、健康的な生活をし、栄養のバランスの取れた食事をし、適度の運動もし、ストレスもためないで……と、健康寿命を個人的に延ばす努力こそが大事だということです。これもまた、「世の中の真実」なのです。
『世の中の真実がわかる「確率」入門 偶然を味方につける数学的思考力』目次
第1章 確率と共に生きる
第2章 確率とは何か?
第3章 硬貨とサイコロの確率
第4章 日常生活に現れる確率
第5章 事前確率の意外性・ベイズの定理
第6章 二項分布と中心極限定理
第7章 経済活動での「確率」
第8章 面白い「統計」の問題
このほか、宝くじ、ガチャなど、世の中のカラクリを解き明かす話題を取りあげています。詳しくは本書をご覧ください。
確率・統計・数学で世の中のカラクリを読み解く「ブルーバックス」既刊
『世の中の真実がわかる「確率」入門』のほかにも、確率をはじめとする数学の考え方で世の中のカラクリを読み解く本が、ブルーバックスにはたくさんあります。興味に合わせてお好きなタイトルを選んでみてください。
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著:小島寛之
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著:吉本佳生
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著:谷岡一郎
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著:ハフ,D., 訳:高木秀玄
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著:神永正博
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著:仲田紀夫