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2016.02.29

特集

【理系に悲報?】プログラムやデータベースは著作物なのか

みなさんは、さまざまな職業、立場におられるものと思います。そのさまざまな立場にあるみなさんに共通しているのが、自ら技術を学び、理解し、その応用として、どのような点が改良されたら人々の役に立ち、さらなる技術革新(イノベーション)が期待できるかを考え、アイデアをもたれた経験があるということでしょう。アイデアを発展させて、本格的な研究課題とし、研究開発をすすめ、試作品を作り、製品化させ、商業化していくわけです。
しかし、これらの過程で、自分のアイデアや具体的な技術を盗まれないように注意をしなければ、せっかくの努力が水の泡になりかねません。このような、技術などを守るのが知的財産権です。知的財産権には独占力があり、それにより、他者の侵害から守られるのです。
今回は知的財産権のうち、みなさんの業務に特に近いと思われる「著作権」について、Q&A形式で見ていきましょう。

Q1:「プログラム言語」は著作物?

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プログラムの著作物(著作権法10条1項9号)としての保護の対象は、同2条1項10の2号等から、プログラム言語で表現されたものであるとされています。したがって、プログラミングの前段階で設計されるドキュメント(基本設計書、詳細設計書)は、プログラムの著作物には該当しないということになります。

また、著作権法10条3項によれば、「プログラム言語」「規約」「解法」そのものも、プログラムの著作物に該当しません。

ここで「プログラム言語」とは、「プログラムを表現する手段としての文字その他の記号及びその体系をいう」(同10条3項)とされています。日本語や英語の表記や文法そのものに著作物性が認められないのと同様で、新たな言語を開発したとしても、著作物として保護されないということになります。

また、「規約」とは「特定のプログラムにおける前号(著作権法10条3項1号)のプログラム言語の用法についての特別の約束をいう」とされています(同10条3項2号)。具体的には、プログラム言語以外の現実にプログラムを機能させるための約束ごとを指し、インターフェースやプロトコルがこれに該当するとされています(『ビジネス著作権法』荒竹純一 産経新聞出版 2006年 69頁)。

「解法」とは「プログラムにおける電子計算機に対する指令の組合せの方法をいう」とされています(著作権法10条3項3号)。具体的にはアルゴリズムがこれに該当します。つまり、インターフェース、プロトコル、アルゴリズムなども、著作物として保護されません。

Q2:企画書にキャラクターを使うのはOK?

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たとえば企業がキャラクター商品の開発や販売の企画を行うに当たり、そのキャラクターの著作権者の許諾を得る前に、企画書などにキャラクターを掲載することがあります。著作権法30条の3では、著作権者の許諾を得るか、著作権法上の規定による裁定を受けて著作物を利用しようとする者は、これらの利用についての検討の過程においては、その必要と認められる限度で当該著作物を利用することができると定めています。

ただし、当該著作物の種類および用途、並びに当該利用の態様に照らし著作権者の利益を不当に害することとなる場合は、この限りではありません。

Q3:従業員が作成した著作物は会社のもの?

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会社で働いている従業員が職務上創作した著作物の権利(職務著作)はどうなるのでしょうか。

法人等の発意に基づいて従業者が職務上創作した著作物で、その法人等の名義の下に公表するものの著作者は、その作成時における契約、勤務規則その他に別段の定めがない限り、法人等の使用者とされています(著作権法15条)。つまり、著作権はすべて会社に帰属してしまいます。特許権の場合の職務発明とは異なる制度になっています。

また、プログラムの著作物の場合は、公表の有無・態様に限られず、会社の著作物となります(著作権法15条2項)。簡単にいえば、従業員が仕事上で創作した著作物の著作者は、別に定めのない限り、原則として会社である、ということになります。

Q4:論文の著作権は誰にある?

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では前述のQ3を受けて、大学教授が論文を作成した場合はどうなるのでしょうか。この場合、論文の作成が「法人等の発意」(この場合は大学の発意)とはいえないと思われます。論文作成は教授の職務には含まれないのが一般的であり、かつ、職務上の裁量の範囲が広いからです。したがって、著作者が大学ではなく教授になります。

学生は「従業者」ではないので、職務著作の規定が適用されません。つまり、卒業論文の著作者は、基本的には指導教官と学生ということになります。

Q5:設計図に著作権は存在する?

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地図または学術的な性質を有する図面、図表、模型などは「図形の著作物」の範疇に入ります。では、設計図には著作物性が認められるでしょうか。

この点、著作権法による保護の対象はあくまでも、技術的思想を記述するときの作図上の工夫である(『ビジネス著作権法』荒竹純一 産経新聞出版 2006年 53頁)とし、技術思想そのものに個性があっても著作物性工程の理由にならないとする見解があります(同趣旨の裁判例として、東京地裁 平成9年4月25日判決、判例時報1605号136頁、判例タイムズ944号265頁)。

一方、大阪地裁 昭和54年2月23日判決(判例タイムズ387号145頁)や大阪地裁 平成4年4月30日判決(判例時報1436号104頁)は、技術思想に個性があることを理由に著作物性を認めており、判断が分かれているといってよいでしょう。

Q6:データベースに著作権は存在する?

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著作権法2条1項10の3号は、データベースを「論文、数値、図形その他の情報の集合物であって、それらの情報を電子計算機を用いて検索することができるように体系的に構成したものをいう」としています。同12条の2において、このようなデータベースのうち「その情報の選択又は体系的な構成によって創作性を有するもの」について著作物性が認められます。

編集著作物として著作物性が肯定されたものとしては、タウンページ・データベース(東京地裁 平成12年3月17日判決、最高裁HP)、新築分譲マンションに関する情報の集合物としてのコアネット・データベース(東京地裁 平成14年2月21日中間判決、最高裁HP)などがあります。

もっとも身近な「著作権」、なにを創れば権利が発生する?

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著作権に関するさまざまなケースを見てきました。最近メディアでもネットでも、著作権侵害に関する話題は事欠きません。2020年の東京オリンピックのエンブレムを決める際、そのデザインが他者の作品を盗用したものではないかと騒動になった例があります。これは著作権が関係してくる問題です。

それでは、そもそも著作権とはいったいどのようなものでしょうか。

著作権は、著作物にしか発生しません。著作権法2条1項1号において、著作物とは「思想又は感情を創作的に表現したものであって、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するものをいう」と定められています。

「著作者」とは「著作物」を創作した人のことをいいます。一般的には「著者」ということもありますが、法律用語では「著作者」といいます。

たとえばある程度の年齢に達した子どものお絵かきは、著作権法2条1項1号に定められている思想または感情を創作的に表現したものであり、文芸、学術、美術または音楽の範囲に属するものといえます。この場合は「絵」が著作物にあたりますので、小学校に上がる前に、すべての人は、絵の著作者・著作権者になっているわけです。

次に、「著作者人格権」という権利があります。この権利は、著作者であれば当然に認められる権利であり、かつ、他人に譲渡することができません。お絵かきの例でいえば、子どもが著作者ですから、子どもに著作者人格権があるわけです。では、著作者人格権の内容はどのようなものかといいますと、絵を公表するか否かを決める権利(公表権、著作権法18条)、絵にその子どもの実名や変名を著作者名として表示する権利(氏名表示権、著作権法19条)および、絵や絵の題名を改編する権利(同一性保持権、著作権法20条)があります。

著作権法違反で10年以下の懲役もありえる!?

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では、他人の著作権を侵害した場合、どのような刑罰がありえるのでしょうか。

著作権法違反で刑事責任が問われるケースもあります。たとえば、著作権、出版権または著作隣接権を侵害した者は、10年以下の懲役もしくは1000万円以下の罰金に処され、またはこの両方の処罰を受けます(著作権法119条1項)。これは、平成19年7月1日から施行されました。

ファイル共有ソフトWinny(ウィニー)を使用してインターネット利用者に映画の情報を自動公衆送信しうるようにした行為が、著作権法違反になるとされた事例(京都地裁 平成16年11月30日判決、最高裁HP)では、懲役1年執行猶予3年の判決(確定)となりました。

著作権侵害をしないためのポイント

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文章、図、カタログ、プログラムなどの表現物を作成する場合には、他人の表現物を参考にするのが一般的です。そうした表現物をそのまま利用する場合、「引用」の条件に適正にあてはまるようにしましょう。それで、ほとんどの著作権侵害は防げます。

他者の著作権が発生する箇所(著作物性が認められる箇所)を参考にして新たな著作物を創作する場合には、原則として他者(著作者)の許諾が必要になります。しかし、このような原則を貫くと、大変手間がかかることでしょう。

そこで著作権法は、32条1項で「公表された著作物は、引用して利用することができる」と定めています。

それには条件があり、「その引用は、公正な慣行に合致するものであり、かつ、報道、批評、研究その他の引用の目的上正当な範囲内で行われるもの」でなければなりません。

引用が適正であるための具体的な条件は、最高裁昭和55年3月28日判決(最高裁HP)で以下のように示されています(『詳解著作権法 第2版』作花文雄 ぎょうせい 2002年 306頁以下)。

  1. 引用目的が正当であること
    報道、批評、研究など
  2. 明瞭区分性があること
    たとえば自己の文章なのか、引用してきたものか区別できること。たとえば、かぎカッコでくくることなど
  3. 主従関係がはっきりしていること
    たとえば自己の文章と比較して、引用される文章はあくまでも従たる存在でなければなりません。他人の著作物を紹介する目的で、簡単なコメントを付して他人の著作物を長文で引用(紹介)することは、主従関係の要件を満たさないと解されています(『ビジネス著作権法』荒竹純一 産経新聞出版 2006年 313頁)
  4. 引用に必然性があり、最小限であること
  5. 人格権への配慮がなされていること
    著作者人格権や名誉権などの人格権に配慮しなければなりません
  6. 引用した著作物の明示がなされていること
    出版物の引用の場合は、著作者名、出版社名や掲載雑誌名、版や巻、頁など、また、ホームページの場合は、URL、タイトル、掲載場所などで特定でき、かつ容易に検索できる必要があります

まとめると、「他者の著作物」を参考にした場合は、「適正な引用」をしたうえで新たな著作物を創造できる、ということになります。もちろん、著作権者の許諾を得れば、こうした引用の要件には縛られません。

いかがでしたか? ついうっかり、面倒臭くて、知らなくて、そうした理由で他者の著作権を侵害しているということは、日常業務の中でも案外多いのではないでしょうか。また、言い換えれば自分の著作物についても、日常的に他者から侵害されている可能性があるというわけです。

理系のための法律入門 第2版 デキる社会人に不可欠な知識と倫理』では、今日ご紹介した著作権のほか、全部で6つある知的財産とその権利について、事例を交えながら詳しく解説しています。

技術系職種のみなさんは、業務においてさまざまな知的財産に携わっているはずです。他者の権利を尊重しながら、自分の権利を守っていくための基礎知識を身につけておきましょう。

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