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2016.05.02

レビュー

企業人事の闇。社員に知らされなかった、パナソニック裏面史

本書は、パナソニックという会社を舞台にした、日本の株式会社を多面的に分析した優れたノンフィクションである。著者の岩瀬達哉氏は、『年金大崩壊』『新聞が面白くない理由』などでも有名なジャーナリストで、本書が初の本格的な企業ノンフィクションである。

一度読み始めたら止まらなくなるような事実が、次々に出てくる。役員OBや関係者への丹念なインタビューにより、当時の社員が知る由もなかった、歴代の社長人事や事業の意思決定に至るプロセスの詳細が浮かび上がってくる構成は見事である。あとがきに「そういうことだったのか……」とつぶやいた、というOBのコメントが掲載されているのは、その証明と言えるだろう。

パナソニックと言えば、かつて、松下幸之助が創業した日本が誇るエクセレントカンパニーの代表的会社“であった”。2010年度から2014年度までの過去5期の決算内容を見ると、5年続けて巨額のリストラ費用を計上しており、特に、2011年度と2012年度は当期利益がマイナスになっている。直近の2年間でようやく最終利益が出ているが、かつてほどの輝きはない。組織が凋落していく背景には、必ずトップ人事のつまずきがある、という法則が見事に当てはまる。

とはいえ、これはパナソニックに限ったことではない。近年は、有力企業の人事やガバナンスの機能不全が相次いでいる。人事で言えば、セブン&アイホールディングスの鈴木会長の突然の退任、ガバナンスの機能不全で言えば、東芝の粉飾決算、大塚家具の親子対立による委任状争奪戦、クックパッドの創業者と社長の確執など、枚挙に暇がない。また、経営が悪化した代表的企業として、4月2日にシャープが台湾企業の鴻海(ホンハイ)精密工業に買収されたのは記憶に新しい。

本書を読むと、いかに大企業の後継者を適切に選ぶことが難しいかが、よくわかる。実は、パナソニックの場合、創業者である松下幸之助の遺言が、そもそも問題の引き金になっているのだ。幸之助翁の妻、むめのへの気兼ねから、娘婿であり2代目社長の松下正治を自らの手で経営から外せなかった。これがその後の経営の混乱の遠因となる。

もう1点指摘するならば、経営トップの能力の重要性である。特に、DVDの規格を決める際の判断ミスや、買収したMCAを売却する交渉の経緯、プラズマディスプレイの開発に舵を切った後、なかなか撤退の意思決定ができないところなどは、本書における白眉である。詳しくは、ぜひ本書をご覧頂きたい。

すべての企業経営者は、他山の石とする必要があるだろう。経営トップの後継者選抜の仕組み、ガバナンスのあり方を反面教師とすることが重要だ。また、ビジネスパーソンは、大企業組織での出世レースにおいて、どういった人物が勝ち上がっていくかわかるようになるだろう。

パナソニックがそうだったように、特に、一代で大企業を築いたワンマン経営者に率いられた会社に勤務するビジネスパーソンにとっては、次に起こるシナリオを予想できる貴重な機会となるに違いない。

ユニクロやソフトバンクなど、現下日本でエクセレントカンパニーと評価されている会社も、後継者選びには苦悩しているようだ。つい最近、巨額の報酬で引き抜かれ、ソフトバンクの孫社長の後継に指名された、ニケシュ氏にも株主から厳しい意見が表明されている。筆者が思うには、後継者選びに正解はなく、後継者を選ぶ“公正な仕組みの構築”が最も肝要であると思う。日本にも創業から100年以上の歴史を持つ企業が多いが、良い後継者を選んでいく仕組みづくりにおいては、もっと欧米の企業に範を求めるべきであると思う。

本書は、一つの会社の権力闘争史として読むこともできるし、昨今話題のガバナンス論としても読めるし、社長という立場からみれば、出世論としても読むことができるという点で、すべてのビジネスパーソンにとって有益な内容である。

特に、後継者を探している経営者、これから就職活動を行う学生、経済学を学ぶ人に読んで頂きたい書である。

レビュアー

望月 晋作 イメージ
望月 晋作

30代。某インターネット企業に勤務。年間、150冊ほどを読破。

特に、歴史、経済、哲学、宗教、ノンフィクションジャンルが好物。その中でも特に、裏社会、投資、インテリジェンス関連は大好物。

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