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2016.04.09

レビュー

【専業主婦を問い直す】日米の混血「タガメ女」は幸せか?

この本を専業主婦批判と読む人はもう少なくなったと思いますが、それゆえにかえってこの本の重要性は増してきたように思います。

──言うまでもありませんが、太平洋戦争終了後、日本の「民主主義」はアメリカによって刷り込まれてきました。これが「正義」だ、こうしていれば国民は幸せなはずだという価値観は彼らによって植えつけられたのです。言い換えると、日本はアメリカによって「箍(たが)」をはめられたわけです。自分たちがどう思っているかではなく、アメリカが唱える価値観を無批判にもてはやす。──(本書より)

タガメ女とは何かは本文中の「タガメ女度チェックシート」でわかると思いますが、一昔前のアメリカのホームドラマに描かれたような、家庭を渇望してやまない女性のことです。例として『奥様は魔女』(もちろんアメリカ版です)があげられています。郊外の、できれば庭付き一戸建てに住み、安定した生活で趣味や楽しみ(ディズニーランドに行くというようなもの)を満喫するために〝カエル男〟を捕食しようとしている女性と、ひとまずはいっておきます。狙われた〝カエル男〟が被害者のように思えるかもしれませんが、もちろん違います。相補的な関係にあります。カエル男度チェックシートもありますのでチェックしてみてはどうでしょうか。

深尾さんの問題提起は、なぜこのような型どおりの〝幸福感〟が常識、あるいは一般化されてきたかということにあります。それを深尾さんは「魂の植民地化」によるものだといっています。

──本来自由であるはずの魂が、人間社会のさまざまな慣習によって呪縛され、型にはめられて本来の自分を発揮できない状態。まさしく「箍」をはめられた状態のことなのです。政治、経済、産業などの分野における現在の閉塞感は、まさしくその代表的な形での表れですが、じつは最も深刻だったのが、日本人の価値観だったのではないかと私は思います。──(本書より)

敗戦とともに圧倒的な文化力で日本に浸透してきた〝アメリカ〟、その「アメリカ的幸福」のイメージが輸入されて、「外来種である『エプロンをした専業主婦』像と田んぼに住む日本の田亀がミックスした混血種」であるタガメ女が生まれました。

ある意味では彼女たちはアメリカ化した日本を象徴しているのかもしれません。けれどそれをもたらせたアメリカはどうなっているのでしょうか……。

──価値観を世界中に押しつけたことの報復としてテロの標的となり、国内でも「箍」をはめられた息苦しさから多くの若者が銃で殺し合い、多くの夫婦がかりそめの幸せに辟易(へきえき)として離婚する。アメリカ的価値観がガラガラと崩れ落ちそうになっている今、その「箍」によって拡大成長をしてきた「タガメ女・カエル男システム」も破綻しないわけがないのです。──(本書より)

アメリカ的幸福はアメリカの自己肯定、自己主張によって自ら隘路(あいろ)に入っていったのではないかと思います。そしてそれを映し出したように、アメリカ的幸福を出発点として一般化した「タガメ女・カエル男システム」も行き詰まり、日本に閉塞感をもたらしているものとなっているのです。

専業主婦モデルは雇用形態の劣悪化で、ごく一部の階層にしか実現できないようになっています。この隘路ゆえに〝タガメ女〟化はより激しくなっているとも思えます。あるいは、〝非タガメ女〟化が新しい道を開かせるかもしれないのに、「タガメ女・カエル男システム」の信奉者からは脱落者とみなされているのかもしれません。それが生きづらい日本を作っているのです。

「魂の植民地化」から逃れる道はひとつしかありません。それは「ひとりひとりが自分の頭で考えて、自分の魂と向き合って正直に生きる」ことだ、と深尾さんは記しています。もちろん常識化されたものから自分を解放するということは簡単ではありません。けれど「約束によって縛る、王国の支配手段」である「箍」から解放されるには自らが気づかなければならないことも確かです。しかもこの「植民地化」は家庭というものだけにあるのではありません。それもまたこの本が教えてくれたものでした。続編の『日本の社会を埋め尽くすカエル男の末路』も読んでみたくなります。

レビュアー

野中幸宏

編集者とデザイナーによる書籍レビュー・ユニット。日々喫茶店で珈琲啜りながら、読んだ本の話をしています。

note
https://note.mu/nonakayukihiro

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