ミッフィー、うさこちゃん。その名前はもちろん、愛らしいお目目とバッテン口のあのキャラクターを知らない人はいないでしょう。私も女性の端くれとして、その癒し度たっぷりなフォルムを見れば目尻を下げてしまいますし、展覧会に足を運んで、鮮やかなカラーリングに惹かれグッズを買い求めてしまう1人です。
「なにを食べているの? ミッフィーの食卓」は、そんなミッフィーシリーズをはじめとするブルーナ絵本に描かれている料理を紹介する1冊。タイトル通り、サンドイッチやキャラメルにカップケーキなど、見た目にも可愛らしい料理のレシピがずらりと並んでいます。そしてミッフィーの故郷・オランダに詳しくなれるという嬉しいオプションも。例えば貝殻の絵が並んでいるページ(下図参照)がありますが、「オランダには潮干狩りの習慣はないようですので、ミッフィーも“貝殻”を集めたのでしょう」というような説明が加わることで、よりミッフィーの暮らす世界がリアリティを持って感じられるようになるのです。
ところが読み進めていくと、この本の真髄はそのような表面的な部分にとどまらないことに気づかされます。著者の林綾野さんが伝えてくれるのは、1枚の絵画を深く楽しむためのイメージを膨らませる方法。ミッフィーシリーズの絵本は、とてもシンプルな線で構成されています。1955年に最初の絵本「ナインチェ」がオランダで出版され、60年の歳月の中で、34冊もの絵本が出版されてきました。長きにわたるシリーズの中でミッフィーは実は、作品によってさまざまな年齢で描かれています。「うさこちゃんとうみ」では2〜3歳くらいの子のようだけれども、その後赤ちゃんが生まれてお姉さんになったり、学校のお友達と遊んだりする描写や、物思いにふける姿が描かれていたり。いろいろな時点でのミッフィーの姿が事細かに説明されているのです。素人の私からすると、ミッフィーは「サザエさん」のようにずっと変わっていないキャラクターだと思い込んでしまっていたので、これは目からウロコの事実でした。
さらに、林さんは「時期によって、ミッフィーの線の太さ、耳や顔の形、目の大きさが変化している。限られた要素の中で、子供の仕草や感情の揺らぎなどが丁寧に描き出されている」と指摘します。私に限らず「ミッフィーちゃんはいつも同じ表情」というイメージを持っていた人には驚きではないでしょうか。まだまだそれらを正確に読み取るスキルを身につけるには時間が掛かりそうですが、じーっと細部を見つめ、さらにいくつかの絵を比べてみると、確かにミッフィーの心に深く触れられたような気がしてきます。
名古屋・松坂屋美術館では4月10日まで誕生60周年記念ミッフィー展を開催中、その後も大阪、岡山、横浜、島根を巡回します。ただ可愛いだけではない、シンプルな線の中に込められたさまざまなヒント。それらを深く見つめて、想像・発見する楽しみを味わってみてはいかがでしょうか。
Illustrations Dick Bruna (C) copyright Mercis bv,1953-2016
www.miffy.com
レビュアー
ライター・編集者。特技は過去にあった出来事の日付をいちいち覚えていること。好きな焼き鳥は砂肝。