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2016.05.13

レビュー

「B層」を政治から排除せよ。日本沈没の主犯を斬る

巻頭の「B層用語辞典」のおもしろさに笑って読んでいると「今の世の中では、あらゆる価値が混乱しています」と始まる1行目に出会い、思わずドキリとします、もしかしたら自分も“B層”なんじゃないかと……。ちなみにB層とは、

──二〇〇五年九月のいわゆる郵政選挙の際、自民党が広告会社スリードに作成させた企画書「郵政民営化・合意形成コミュニケーション戦略(案)」に登場する概念です。この企画書では、国民をA層、B層、C層、D層に分類して、「構造改革に肯定的でかつIQが低い層」「具体的なことはよくわからないが小泉純一郎のキャラクターを支持する層」をB層と規定しています。──(本書より)

小泉のワンフレーズ・ポリティックスに踊らされた人びとだと言っていいかもしれません。でもこれは一政治家や一政党の問題ではありません。民主党を勝たせたのも、また第二次安倍政権を成立させたのも“B層”なのです。安倍政権の高支持率を支えている(た?)のも“B層”ですし、ご本人の安倍総理だけでなく内閣閣僚も“B層”のようにも見てとれます。考えてみれば、小泉チルドレンも小沢チルドレン(ガールズ)や安倍ガールズやフレンズも“B層”なのだとおもうと妙に腑(ふ)に落ちます。

といってなにも安心できません。「わが国は完全に危険水域を突破し、崩壊への道を突き進んでいる」のですから。適菜さんの文章で笑っている時ではありません。「今も昔も人口に占めるバカの割合はそれほど変わらないと思います。ただ、バカが圧倒的な権力を持つようになったのが現在」なのですから。

この“B層”の特徴として“未来信仰”というものがあります。この“未来信仰”は、過去の偉人や遺産に対して“上から目線”を生んでいます。賢者の言葉を集めた出版物のブームに触れてこう記しています。

──たかだか二〇〇年後に生まれたというだけで、一段上の立場から「昔の人なのにすごい」とゲーテを褒めるわけです。これは近代啓蒙思想および進歩史観に完全に毒された考え方です。すなわち、時間の経過とともに人間精神が進化するという妄想です。(略)かつては「昔の人だからすごい」という感覚はあっても「昔の人なのにすごい」という感覚はありませんでした。偉大な過去に驚異を感じ、畏敬(いけい)の念を抱き、古典の模倣を繰り返すことにより文明は維持されてきたのです。過去は単純に美化されたのではなく、常に現在との緊張関係において捉えられていました。──(本書より)

“B層”という懲(こ)りない人びとが行っているのはこのようなことなのです。しかも困ったことに彼らには悪気がありません。これは「ただ感じたことを口にしただけです。だからこそ深刻です。捻じ曲がったイデオロギーにが身体のレベルで染み付いてしまっている」ことをあらわしています。現代の病が深刻なゆえんです。「過去に対する思い上がり、現在が過去より優れているという根拠のない確信……。畏(おそ)れ敬(うやまう)感覚」が失われた社会に私たちはいるのだ、と。

ここから適菜さんは“社会の風潮”をひとつひとつ検討していきます。うなずきながらも、ここでも自分はどうなんだろうか、という思いがふとわいてきます。「今の世の中はなぜくだらないのか?」と題された章は、リトマス試験紙のようなものです。読んだ時の反応で、自分の中に“B層”の要素があるかがすぐに分かります。

この大衆批判から次いで、第3章「今の政治家はなぜダメなのか?」ではという辛口の政治家論が繰り広げられます。

──民主党から自民党に変わり、少しはマシな世の中になるかと思っていたら、民主党以上の売国活動を始めたのが安倍政権でした。──(本書より)

ここから始まる政治家論はポピュリズム批判として読み応えがあります。「安倍政権は『無知に訴える』ことで権力を掌握したB層政権」と位置づけ、そこに至るまでの3年間の民主党政権を検証していきます。鳩山由紀夫、菅直人、小沢一郎の分析は要を得て納得できるものがあると思います。

B層政権の完成形が安倍政権であり、またその双生児としてポピュリストの代表格が「橋下徹というデマゴーグ」なのだと適菜さんは舌鋒鋭い分析をしています。さまざまな橋下の言動を取り上げ、彼の言動にあるのは「無構造性」というものであるという指摘はうべなえるものがあります。そしてこう提言しています。

──愚民とデマゴーグを政治から排除すること、真っ当な身体感覚を取り戻すこと、反知性主義を克服すること。これをやらないと国は滅びます。──(本書より)

適菜さんの小気味よい文章に笑っている場合ではありません。至極真っ当でありながらなかなか実践できないことではないでしょうか。「そうは言っても」とか「それはそれとして」とかの言い訳(逃げ口上)をする人が多いのではないかと思います。

この本には危機意識があふれています。自分自身の言動は“B層”なのではないかと自省しながら読むべきものなのではないかと思います。快著です、ただし読むものの心性、内実が問われるとは思いますが。

レビュアー

野中幸宏

編集者とデザイナーによる書籍レビュー・ユニット。日々喫茶店で珈琲啜りながら、読んだ本の話をしています。

note
https://note.mu/nonakayukihiro

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