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2016.03.08

レビュー

頭のよい政治家にダマされない「10のルール」

この本は、行動する政治学者として知られている山口さんの政治行動・政治家判断心得とでもいうべきものです。政治を知ろうと思う人にはまず手に取ってほしい1冊です。メディアにしばしば登場する山口さんの活動からはなにか一方向からの政治観と思われるかもしれませんが、そんなことはありません。学者の公正さを保ちながら、専門の政治学の言葉だけでなく、時に映画、時に落語の比喩を使いながら、私たちが政治(家)とどう向き合うべきか、10のルールが提唱されています。

この10のルールとは……。
1.生命を粗末にするな。
2.自分が一番──もっとわがままになろう。
3.人は同じようなことで苦しんでいるものだ、だから助け合える。
4.無責任でいいじゃないか。
5.頭のよい政治家を信用するな。
6.あやふやな言葉を使うな、あやふやな言葉を使うやつを信用するな。
7.権利を使わない人は政治家からも無視される。
8.本当の敵を見つけよう、仲間内のいがみ合いをすれば喜ぶやつが必ずいる。
9.今を受け容れつつ否定する。
10.当たり前のことを疑え。

この中の「無責任でいいじゃないか」というルールには違和感を持つ人がいるかもしれません。これはいつの間にか日本に蔓延した〝自己責任論〟に対して主張されているものです。そもそも〝自己責任論〟は正論といえるのか、その主張は現実の中でどのような意味を持つものなのかを山口さんは検証し、こう記しています。「自己責任論は普遍的な正義ではなく、一つの信条でしかない。そのような信条を持つのは自由だが、社会全体の原理として自己責任論を国民全員が受け容れなければならないといういわれはない」と。

自己責任論というものにはある落とし穴が潜んでいます。自己責任論が「努力した者が報われる」という思考に結びついた時、どのようなことが起こるでしょうか。実は、「苦しい生活をしている者は努力の不足に原因があるのであり、自業自得だ」という強者の論理を導きやすくしているのです。

どこが間違っているのでしょうか。「自己責任論」も「努力した者が報われる」もどちらも「部分的には正しいことから出発して、それを過度に一般化し、誰も反対できない〝正論〟を形成するというインチキを行っている」のです。

6の「あやふやな言葉を使うな」や5の「頭のよい政治家を信用するな」にも通じることですが、政治家がどのような立場で誰に向かって話しているのか、その言葉がどのような目的(目論見)を持って話されているのか等を理解したうえで政治家の発言を考えるべきなのです。政治家に求められるのは、なによりも「他者への共感」であって、形式的な〝正論〟を述べるというものではありません。

この形式的な〝正論〟に惑わされないための心得が9と10のルールです。しばしば政治家が口にする言葉に「現実的には……」というものがあります。これは現状を追認しようという「思考停止」へ導きかねないものです。丸山眞男が日本の政治家の〝現実主義〟というものについてこう記しているそうです。「現実とは多様であり、また人間の働きかけによって動きうるものであるにもかかわらず、日本では常にある種の現実が不動の前提とされ、それに追従することを現実主義と呼ぶ傾向がある」と。

山口さんは、この傾向がますます強まっているのが今の日本の政治だといっています。政治家の思考停止は異論排除にまでいたっています。そこには権力の維持、既得権益の保護、党利党略とでもいうものがしばしば混じってもいます。世襲(家業化)している政治家が増える一方で、上意下達的な官僚政治、意味不明な〝政治家言語〟がまかりとおっているのが日本の現状のように思えます。異論を謙虚に受けとめ、十分な議論をしているようには、とても思えません。そのようなものに惑わされないためのルールでもあります。「当たり前のことを疑え」ということはきわめて重要な態度なのです。

選挙権の年齢が引き下げられました。新たに240万人が投票という政治参加ができるようになりました。主権を行使する最大の機会である選挙に対して、無関心や何も変わらないというあきらめにも似た雰囲気に流されてはいけないと思います。その人たちになにより読んでほしい1冊です。

政治は、自分たちに何かを強いるものではなく、自分たちにとってより良い公正な社会を作らせるためのものです。「社会にせよ、経済にせよ、問題を作り出すのは人間である。しかし、問題を解決するのも人間である」ことを忘れずに、政治へ無関心にならず、公正な批判力を身につけるためにも、この10のルールを心にとめてほしいと思います。政治は人の生き死に関わることです。日本が生きづらい社会にならないためにもどのような政治(家)が必要なのか考えるうえでも役立つ1冊です。

レビュアー

野中幸宏

編集者とデザイナーによる書籍レビュー・ユニット。日々喫茶店で珈琲啜りながら、読んだ本の話をしています。

note
https://note.mu/nonakayukihiro

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