現下の日本において、最も権力があるのはどの組織だろうか?
首相近辺の政治家か。それとも、国際的規模の大企業の社長か。あるいは、TV局、新聞社、出版社などのマスコミだろうか。いずれも非常に大きな権力を持っていると思うが、最大の権力者は警察・公安ではないかと思うようになった。本書『警察捜査の正体』には、そう思わせるほどの生々しい具体的事例が溢れている。
私事で恐縮だが、通常、私は読書する際、後で気になった箇所を振り返られるように、ページに折り目を入れている。本書は302ページの新書だが、折り目がついたのは、実に32箇所にものぼった。しかも、抑制気味にしてこの数である。それほど気になる箇所が多かったというわけだ。
本書は、不正な取り調べと冤罪捜査、低い検挙率とその不正な水増し、警察と記者クラブの関係による警察報道の限界など、不正な警察の実態を明らかにした警告の書である。著者の原田宏二氏は、元北海道警察の警備課長などを歴任した元警察マンであり、退官後の2004年に北海道警察の裏金問題を告発した人物である。
本書を読んで思うことは、捜査機関である、警察・公安組織の不正を報道するのは、本当に難しい、ということだ。具体例として、北海道警察と北海道新聞との攻防が挙げられている。
北海道警察側の不正を報道した後反撃にあった北海道新聞は、東京支社の部長の経費私的流用問題が発覚した際、刑事事件として捜査すると恫喝された。北海道新聞は、北海道警察による取材拒否などで犯罪報道がしにくくなっていたことを解消するため、裏交渉として北海道警察に謝罪文を書いていたことが明かされている。
なぜ報道機関である北海道新聞が北海道警察に屈したか理解するには、現在の報道システムの構造を認識しておく必要がある。犯罪に関するニュースを見ない日はないが、こうした報道がされるのは、警察の広報から記者クラブに加盟している各報道機関の記者に対してのみ情報提供されているからだ。警察側の情報に依らずに独力で取材する、というのは現実的には難しい。
「警察とマスコミの良好な関係とは、警察批判はしない、それと引き換えに情報を提供するという関係なのだ」との著者の指摘は深刻だ。ちなみに、北海道内のマスコミは、警察批判を続ける著者に対する取材をタブー視しているようだ。著者のような勇気ある内部告発者の手記でしか、警察の本当の実態は見えにくい。
こうした背景を前提に、昨今の警察の不祥事や、近年、特に関心が高まってきている冤罪事件などに対する報道を丁寧に見ていくと、各メディアの報道姿勢や警察との関係がよく見えてくると思う。
より突っ込んで言えば、放送法に縛られるTV局や官僚からの情報に依存する新聞では、組織に属していながら、重大な真実を持った人間からの情報は得られなくなりつつあるのかも知れない。出版というものが果たす役割が増しているように思う。
本書は、ジャーナリスト、TV局、新聞社、出版社など報道機関に勤務している人々には必読の書である。また、将来、報道機関での勤務やジャーナリストを目指す大学生、大学院生にもぜひ手にとってもらいたい。
レビュアー
30代。某インターネット企業に勤務。年間、150冊ほどを読んでいる。
特に、歴史、経済、哲学、宗教、ノンフィクションジャンルが好物。その中でも特に、裏社会、投資、インテリジェンス関連は大好物。