ラクにやせたい。すぐにやせたい。そしてリバウンドせず、ずっとスリムなままでいたい。
怠け者のわがままだと笑われるかもしれませんが、私たち人間の脳は、ラクしてトクするのが大好き。だから「効率化」「最適化」を追い求め、なるべく苦労せずに成果を得ようとするのですが、その方法が自己流だから、悲劇や喜劇が起こるのです。
たとえば、うまくいけば自分の手柄、失敗すれば部下のせいにする上司がいます。周囲からは「ズルい奴」と思われ、信用を失っています。しかし彼はそれに気づいていないようです。ズルをするのも周囲の反応が見えないのも、ラクをしたがる彼の脳がトクをしようと、彼にとって都合のいいストーリーを脳内で創作しているからかもしれません。
また泥沼の不倫から足を洗えないふたりは、もはや恋というより、他人に責められ家族に泣かれ苦しい思いをした分の元を取るため、脳が躍起になっているのかもしれません。効率だけ考えれば、さっさと別れた方がトクだとしても。
本書は、こうした自分では気づかないおかしな脳のクセ──「認知バイアス」と呼ばれる思考の偏りを、クイズとともに解説しています。
たとえば火災報知器が鳴った時、「火事だ!」と即座に反応して逃げる人より、「誤報かもしれない」と様子を見る人の方が多いのはご存じでしょうか。実はこれが脳のクセのひとつ。誤報を真に受けて逃げたとしても命に別状はありませんが、本当に火事なら死んでしまうかもしれない。それなのに、脳はなぜか楽観的な判断を下します。
また、ネットの書き込みや日常会話のなかで、こんな光景に出くわしたことはありませんか? 自分がよく知らない集団に対して「○○人はモラルが低い」「東大生は頭でっかち」などと、一方的に決めつける場面です。これも脳の悪いクセ。偏見です。 偏見は他人を傷つけるだけではなく、思考停止の元となり、その人の成長を妨げます。しかし、パターン化すれば余計なことを考えずに済むので、脳にとってはエネルギーが節約できる、ラクな方法なのです。
一方で認知バイアスによる思い込みは、人を幸せにすることもあります。
本書で紹介されている例ですが、学生たちに2匹のネズミを与え、「一方は賢いネズミ、もう一方は劣ったネズミ」とウソの説明をしたところ、賢いと説明されたネズミのほうが学習能力が高いことを示す実験結果が出たそうです。なぜなら、学生たちは賢いネズミを大切に扱い、劣ったネズミは雑に扱ったからなのだそうです。大切に扱われたネズミはストレスが少ないため、十分に学習能力が発揮できたというわけです。
これを医療現場に応用すると、医師や看護師が期待してよく面倒を見る患者は、本人も治療に専念しやすく、治る見込みも高くなるといわれています。また教育現場では、先生が期待をかけて丁寧に指導した生徒は、成績が伸びると考えられます。部下や子どもの能力を伸ばしたい人は、「バカ!」「この役立たず!」とパワハラ発言をして相手にストレスを与えるより、期待を持って愛情深く接したほうが、プラスの結果が得られるでしょう。
80本のクイズは、ショートショートのような感覚で、認知バイアスの謎を楽しく解き明かしながら読むことができます。自分の脳のクセに気づいてハッとしたり、他人に当てはめて「あるある!」と笑ったりしているうちに、おバカな自分もあの人のことも、ちょっぴり愛おしく感じてくるのも、また楽しい。凝り固まった思考をほぐして、思い込みから自由になる快感を、ぜひ味わってみてください。
レビュアー
ライター、政治家、ヒーラー、ブロガーの出版プロデュースの経験あり。美容・健康・心の問題、そしてビジネス・起業・新しいライフスタイルに関心を寄せています。食べ物とお酒、生き物もこよなく愛しています。
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