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2016.01.15

レビュー

7%の農家が6割を売る強み。日本農業の「真の実力」を暴露

タイトルだけ見て、トンデモ本だと思わないで頂きたい。著者は、JAグループの新聞である日本農業新聞の元記者であるが、出身母体に囚われず正論を言い切っている点において、ちまたの農業本と一線を画している。

書名は2015年初頭の経団連の政策提言からとられている。大規模化、6次産業化により、国内の農業と食がGDPに占める割合は日本のGDP500兆円の4パーセント、20兆円に迫り、自動車製造業の12兆円を抜いて金融、保険業と肩を並べる、というものだ。

我が国の農政の問題点を具体的に列挙しつつも、様々な工夫により農業をビジネスとして成功させている農業者の事例を踏まえて、日本の農業は競争力がない、農業は儲からない、高齢化した農家の成り手がいなくて大変なことになる等、農業に対しての半ば固定化されたネガティブなイメージに対し、農業の持つポテンシャルについて大胆に捉えることに成功している。少々長くなるが、本文から一部を引用してみたい。

――実際に日本の食と農を支えているのは、農家のなかでも一部の優れた経営者たちである。月刊誌『農業経営者』編集部が農林業センサスを基に試算したところ、140万戸いる販売農家(経営耕地面積が30アール以上、または農産物の販売金額が50万円以上の農家)のうち、売り上げが1,000万円以上なのは、全体の7%に相当する約10万戸に過ぎない。ただ、驚くべきことに、この7%だけで農産物の全販売金額の6割を生み出している。一方、販売金額が100万円未満の農家戸数は58%もいるのに、全販売金額に占める割合は6%に過ぎないという結果になった。つまり日本の食と農は、零細な農家が離農したところで揺るがないわけである。――

どうだろう。農家の実態として、少数の大規模農家が非常に販売力を持ち、零細農家(週末に営農している兼業農家等)は数こそ多いものの、販売力はないのである。また、このことからも、農家数が減少することイコール農業の衰退ではないことを丁寧に説明している。

しかし、本書を読み進めながら、政治家、政府、メディアからはこうした意見はほとんど発信されていないことに気づいた時、“農業”というものに対して、冷静な議論や建設的な対話が行われずに政策決定がなされているのかということを発見するだろう。
その象徴が、減反政策の見直しであることは言うまでもない。本書を読むことで、農業に対する正しい視座とデータを得ることができる。個人的には、著者には今後、続編として、JAおよび農林水産省の実態をより深く考察した新書の著作を期待したい。

本書は、政府の政策立案者、新たに農業への参入を検討している法人の担当者、地方自治体の農業担当者、そして新規就農を考えている人は必読の書であるとともに、我が国農業を等身大で知ることができる良書である。

レビュアー

望月 晋作 イメージ
望月 晋作

30代。某インターネット企業に勤務。年間、150冊ほどを読んでいる。

特に、歴史、経済、哲学、宗教、ノンフィクションジャンルが好物。その中でも特に、裏社会、投資、インテリジェンス関連は大好物。

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