著者はその研究に参加した科学者のひとり。本書は最新研究の視点から、生物の温度感知のメカニズムについて迫る一冊である。
私たちは皮膚のどこでも同じように温度を感じているわけではなく、温かさや冷たさに敏感な部位が点在することが知られてきました。現在では、そうした温度感覚の少なくとも一部を、皮膚の表皮・真皮に伸びる感覚神経終末に発現した温度感受性TRPチャネル群が担っていると考えられています。
温度を受容する陽イオンチャネルは複数ありますが、中心的な分子群がこのTRPチャネルです。人間ではTRPチャネルは6つのサブファミリー(TRPC、TRPV、TRPM、TRPML、TRPP、TRPA)に、27のチャネルが存在します(図3-2)。私たちはそのうち、11のチャネル(中略)を「温度感受性TRPチャネル」と呼んでいます。
このようにTRPV1を活性化するショウガですが、ショウガ入りのスープは飲むと体がぽかぽかと温まるような感覚になりますよね。ただ興味深いのは、ショウガを食べたときのこのぽかぽか感は、そのまま実際の体温上昇を反映しているわけではないということです。また、冬至と言えば「ゆず湯」が有名ですが、「ショウガ風呂」も身体をぽかぽかに保ってくれる季節湯です。これは、ショウガの成分によって感覚神経のTRPV1で感知された信号が脳に送られ、「ぽかぽかする」という感覚が生じているということになります。
TRPチャネルのような温度感受性分子が明らかになって、温度の感覚が分子レベルで語れるようになりました。私たちの温度感覚と分子の挙動の理解が進めば、私たちの温度感覚を制御するよりよい方法が見つかると思います。それは、地球温暖化で引き起こされる猛暑のような異常気象を乗り切る大きな力になるものと期待されます。
人体の温度センサー機能については、さらに研究が進み、これまでの常識を覆すかもしれないところまで来ているという。そのひとつである「局所温度感知」というのは、実は普段の私たちが無意識に理解している「アタマよりも先にカラダで反応する」といった感覚に近いのではないか、という気もする。
温かい温度で活性化するTRPV4が発汗に関わるという結果は、「局所温度感知」という新しい概念につながるもかもしれないと思っています。発汗は脳からの自律神経を介したシグナルで調整されていると一般には考えられていますが、局所でも制御されている可能性を示唆します。暑い環境下では局所皮膚のTRPV4が温かい温度を感知して発汗をもたらしているのです。これは、全く新しい概念です。
これまでに紹介した通り、全身の様々な部位に温度感受性TRPチャネルは存在しています。それほどまでに温度を敏感にセンシングすることは生命の維持にとって重要ということなのですが、こうしたチャネルの活性化は非常に繊細に制御されていると考えられており、様々なTRPチャネルの機能異常が体に及ぼす影響や病気との関わりが研究・報告されています。私の研究室だけでも、TRPV1(痛み・痒み・炎症)、TRPV2(消化管蠕動[ぜんどう]・神経分化・熱産生)、TRPV3(温度感覚異常・皮膚の創傷治癒・皮膚免疫)、TRPV4(食道機能・消化管蠕動・膀胱機能・外分泌機能・記憶)、TRPM2(糖尿病・免疫・脳機能)、TRPA1(痛み・炎症・痒み)などに関わることを報告してきました。
先ほど、蚊が高温を嫌っていること、そしてその高温をTRPA1で感知することを紹介しましたが、吸血する獲物の誘因は温度の上昇であり、高温を嫌うこととは全く逆のように見えます。そのメカニズムはどうやら、TRPA1が存在する部位の違いにあるようで、まだ詳しいことはわかっていませんが、同じTRPA1の活性化が全く別の結果をもたらすのは興味深いです。
それは生命の根幹であり、その制御方法が種としての未来を左右する……。変わりゆく環境のなかで、いかにして「適温」を内にも外にも維持するか、考えさせる一冊である。







