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2026.09.24

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「時間の正体」を解き明かす! 私たちの常識を揺さぶる決定書『はじめてのベルクソン』

1859年にパリで生まれたベルクソンは、フランスの哲学者としてその名を知られている。また、第一次大戦時には国を代表する知識人として、アインシュタインやキュリー夫人と手を携え、国際的な連帯を模索したという。枠にとらわれないその活躍は、1927年に受賞したノーベル文学賞にも表れているだろう。だが意外にも、その生涯で遺した主著は4冊のみだった。
三十歳で発表した博士論文『意識に直接与えられたものについての試論(時間と自由)(一八八九年)に始まり、記憶と身体を論じた『物質と記憶』(一八九六年)、生命進化を問う『創造的進化』(一九〇七年)、そして社会変革に向き合った最晩年の『道徳と宗教の二つの源泉』(一九三二年)に至るまで、ベルクソンは四十年以上にわたって一つの謎に向き合い続けました。
ベルクソンが生涯をかけて追い続けた謎は、ひとことで言えば「時間」です。ただし、「時間とは何か」という抽象的な問いではありません。むしろ、こうです。

私たちは時間について、どのような思い込みの中にいるのか。その思い込みはどのように時間を変容させてしまうのか。そしてその思い込みを、時間自身がどうやって生み出すのか。
本書の第一章では、まずこの「時間」の謎を取り上げ、ベルクソンの哲学に通底する考え方や、問いへの向き合い方を紐解いていく。続く第二章から第五章では、4冊の著作を1章ごとに取り上げ、各著作の主題をはじめとして、ベルクソンの哲学がどのような段階を経て変化していったのかを丁寧に追う。

「この本で試みたいのは、ベルクソン的な思考の設計図を取り出すこと」だと語る著者は、近現代哲学の専門家だ。武蔵野美術大学で油絵を学んだのち、東京都立大学で哲学を修めた経歴を持つ。2022年には『世界は時間でできている─ベルクソン時間哲学入門』(青土社)を上梓し、現在は慶應義塾大学文学部の教授を務めている。

では、「ベルクソン的な思考の設計図」とは何を指すのだろうか。
ベルクソンが「時間の哲学者」だと言われるのは、時間とは何かを一つの定義に収めようとしたからではありません。彼が見抜いたのは、時間についてのある見方が、私たちの問いの立て方そのものを知らないうちに方向づけているということでした。だからこそ彼はつねに具体的な問題に即して、その「型」がどこで私たちを縛り、どこから生まれてくるのか、そしてどうすれば別の仕方で生き直せるのかを問い続けたのです。
時間とは、私たちが世界を理解し、自分を理解し、他者と共に生きる──そのいずれの底にも働いている、最も深い「型」です。
そうして著者は第一章において、ベルクソンの考え方と用語──たとえば、「等質的時間」「空間化された時間」にはじまり、「回顧的錯覚」「直観(intuition)」「持続のリズム」といったもの──を紹介しながら、私たちが知らず知らずのうちに抱え込む「時間」への枷を、一つずつ外していく。その上で、ベルクソンの視点の動かし方を知るために、著者は2つの道具「アスペクト」と「スケール」を読者に授ける。
アスペクトは、自分が今どんなふうに時間を見ているかに気づくためのセンサーです。知能のバイアスが作動していないかを検出してくれます。スケールは、時間の倍率を実際に動かすためのダイヤルです。倍率を変えることで、見えなかったものを出現させてくれます。センサーで状態を検知し、ダイヤルで視野を調整する──この二つをセットで使うことが、ベルクソンとともに時間を考えるための基本装備になります。
こうして必要な道具を手にすることで、ベルクソンの哲学に向き合う準備が整い、続く章へと踏み出すことができる。全体を通して、著者はベルクソン独自の用語や考え方を、比喩を用いることで私たちの日常に落とし込み、体感的な理解を促している。文章も読みやすく、わかりやすい。巻末には「読書案内」が収録され、ベルクソンをさらに知るための道標となっている。

いっぽうで、初読ですべてがわかったかと言えば、それは嘘になるだろう。それでも、「スケール」や第五章で登場する「社会を閉じ込める力と、そこから社会を開いていく力」といった考え方には、目を見開いた。その驚きは確かに、自分の中に残った。変化と呼ぶにはあまりにもささやかなものだが、これこそが、ベルクソンが言うところの「直観」や「遅延」につながるようにも思う。焦らず、これから何度でも読み返す一冊としたい。

レビュアー

田中香織

元書店員。在職中より、マンガ大賞の設立・運営を行ってきた。現在は女性漫画家(クリエイター)のマネジメント会社である、(株)スピカワークスの広報として働いている。

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