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2026.09.17

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地球上の争いはすべてエネルギーが絡んでいる。資源敗戦国・日本の未来とは?

1973年の第一次石油危機(オイルショック)が、世界を震撼させた「単発の衝撃」だったとすれば、いま起こっているのは、もっと深く、もっと複雑で多面的に進行する「常態化した戦争」に他ならない。引き金を引くことで始まり、停戦で終わるような種類のものではない。日々の調達交渉、長期契約の駆け引き、技術獲得の鍔迫り合い、サプライチェーンの分断と再構築。市場でも、政府の執務室でも、軍の作戦地図の上でも、戦いはとぎれることなく続いている。しかも、後述するように、2010年代からエネルギーを巡る戦いは新しいフェーズに移り、テクノロジーの発展と共に、さらなる複雑化、混迷の度合いを増している。
だからこそ本書は、これを「新・エネルギー戦争」と呼ぶ。
経済指標も、外交ニュースも、軍事衝突も、エネルギーという視座から読み解くと、これまで見えていなかった構造が見えてくる。本書は、その姿を、読者と共に考える一冊である。
著者の吉井英生氏は、東京電力にて企画部、燃料部、国際部などに勤務し、電力需要想定、燃料調達、エネルギー政策、海外電気事業などに従事した。経済企画庁への出向時にはODAの政策立案にも携わり、その後、日立製作所では原子力事業に従事した。
また、米国ニューヨーク大学日米経営経済研究センターへの留学経験を持ち、国際経済・国際金融にも通じている。
電力会社、政府、メーカーという異なる立場からエネルギー問題に携わり、経済学をバックグラウンドに、石油、天然ガス、石炭などの化石燃料から、再生可能エネルギー、原子力まで、幅広いエネルギー分野に精通する、業界でも数少ない専門家である。

本書は全編を通して「地球上の争いはすべてエネルギーが絡んでいる」という冷徹な事実を突きつけ、複雑化する世界のエネルギー地政学の実態と、資源敗戦国である日本が直面している残酷な現実を浮き彫りにしている。

近年の電気料金の高騰にため息をついている人こそ、本書は必読と言える。なぜなら、私たちが直面している家計や企業のエネルギーコストの増大は、これから始まる「本当の危機」のほんの予告編にすぎないと、著者は警告しているのだ。

本書の中では第1章「エネルギーの地政学」にて、アメリカ、ロシア、中国の3国を「フルセット型エネルギー国家」と定義。さらに第2章で石油・天然ガス・石炭・原子力・再生可能エネルギーの5分野について、世界を俯瞰した現況を解説。さらに第3章~第5章で、この「フルセット型エネルギー国家」3国の、それぞれ異なるエネルギー戦争における戦い方を解説している。シンプルにまとめると、以下のような形だ。

アメリカ:「シェール革命」によってエネルギー自給を達成し、圧倒的な強者として傲慢に振る舞う大国。トランプ政権以降、その傾向はさらに強まっている。

ロシア:資源供給そのものを、他国を縛るための戦略的ツール(武器)とする冷徹な意思を持つ国家。欧州も日本も、現在進行形でその戦略に振り回されている。

中国:莫大な資金力と爆発的な需要を背景に、原発輸出による長期契約や圧倒的な購買力で世界の市場を圧倒する大国。

続いて第6章~第8章で、欧州・中東・日本を「三大国に挟まれる三地域」と規定し、これらの国々がこれまで「持たざる者」として取ってきた戦略やスタンスを紹介している。

欧州:理想とルールを掲げて戦うも、歪んだエネルギー市場の影響から逃れられない「資源を持たない巨大消費圏」

中東:エネルギー市場の変貌を受けて「脱石油化」を掲げ、石油以外の価値への挑戦を見せている「かつてのエネルギー王国」

日本:責任の所在を明らかにしない悪癖で、国際的なエネルギー戦争に負け続けている「資源敗戦国」

軍事力や外交力のみならず、資本の力を総動員してエネルギーの主導権を奪い合う各国の姿が解説されており、まさに「現代の戦争」という名にふさわしい状況に思えた。

資源敗戦国・日本はこの先、どう生きていけばいいのか

数字で確かめてみよう。日本の人口は約1億2000万人、名目GDPは約4兆ドル規模で、依然として世界トップクラスの経済規模を保っている(2023年にドイツに抜かれて4位となり、近くインドにも抜かれる見通し)。だが、エネルギーの観点に立った瞬間、この国の風景は一変する。石油、天然ガス、石炭のいずれも大半を輸入に頼り、エネルギー自給率はおよそ15・2%(2023年度)と1割台にすぎない。
これがどれほど異常な数字か。アメリカの自給率はすでに100%を超え、ロシアやサウジアラビアは輸出国だ。フランスでさえ原子力によって5割超を自給している。日本だけが、自給率1割台という、先進国のなかで群を抜いて低い水準で経済大国という看板を掲げている。この一点を見るだけで、日本というエネルギー国家の正体がわかる。米露中が「フルセット型エネルギー国家」だとすれば、日本はその対極にある「完全依存型エネルギー国家」ということだ。
本書が真に恐ろしいのは、日本について深く言及されている第6章以降である。著者は石油やLNG(液化天然ガス)等の世界のエネルギー市場において「日本に売るより、中国や欧州に売ったほうが儲かる」と判断する売り手が、すでに出始めていると指摘する。かつて安定した供給先として「世界の優等生」と呼ばれていた日本のエネルギー調達力だが、今やその存在感は薄れゆく一方であるそうだ。

自らの手でコントロールできる資源を持たない国・日本は、エネルギーの枯渇という国家の危急存亡のリスクを、エネルギー調達先の分散や、商社の必死の交渉に頼るしかないのが現実である。このまま無策が続けば、10年後には完全に資源を「買い負ける国」になるという未来予測には、背筋が凍るようなリアリティがある。

なぜ日本は、ここまで追い詰められてしまったのか。著者はその原因の一例として、国内の電力システム改革(電力自由化)の際に露呈した「システムの歪み」を挙げている。
自由化が「改革」の名の下に進められた結果、競争によるコスト削減ばかりが注目され、電力会社から「長期的視点」と「責任の所在」という重要な価値観が失われてしまったという。

エネルギー政策全般において短期的な利益が優先され、国家としての戦略的な政策が漂流し続けている。英国をはじめとした海外への原子力発電所の営業に数多く失敗し続けてしまった背景にも、その「責任の所在を請け負えない姿勢」がある。その結果として、日本は国際社会から「戦略性がない」と見なされ「資源敗戦国」への道を静かに、しかし確実に歩んでいるという。

ここまで、残酷なまでに悲観的な日本の現状を紹介してきたが、本書は単なる悲観論や「日本叩き」に留まる一冊ではない。

第9章で日本に近い将来訪れる可能性が高い「エネルギー危機」の姿を残酷に描写した後、終章「日本はどう生き残るのか」では、資源敗戦国である日本がこの「新・エネルギー戦争」を生き抜くための解決策として、4つの提言を行っている。内容は是非、本書を読んで直接触れてほしいが、どれも本質的かつ現実的な対応策であるように感じた。

世界の地政学的リスクがかつてないほど高まる中、私たちが毎日当たり前のように使っている「電気」や「ガス」の裏側で何が起きているのか。その真実を知るための、極めてタイムリーかつ実用的な教養書と言えるだろう。エネルギー問題は専門家や政治家だけのものではなく、私たちの生活、日常の根幹、そのものである。「買い負ける国・日本」の未来を変えるために、一人でも多くの人に読んで欲しい一冊である。

レビュアー

奥津圭介

編集者/ライター。1975年生まれ。一橋大学法学部卒。某損害保険会社勤務を経て、フリーランス・ライターとして独立。ビジネス書、実用書から野球関連の単行本、マンガ・映画の公式ガイドなどを中心に編集・執筆。著書に『中間管理録トネガワの悪魔的人生相談』『マンガでわかるビジネス統計超入門』(講談社刊)。

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