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2026.08.03

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障害者と稼ぐ。eスポーツを突破口に、福祉のあたりまえを超えていく!

今後の日本の労働市場が直面する問題を解決するための、ひとつの大きな提言

慈善事業の話がしたいわけではない。
これからの日本の方向性を決める大事な話がしたいのだ。
著者・加藤大貴氏は「株式会社ePARA」代表。
働く能力があり、かつ働きたいと願う障害者が就労しやすい環境を整え、彼らが自身の価値に見合った正当な報酬を受け取り、それにより人手不足といった日本の社会課題の解決にもつなげる。それが同社のミッションである。

本書の冒頭、加藤氏はふたつの数字の組み合わせを提示する。
ひとつ目の組み合わせが「644万人と600万人」。

これは少子高齢化が進む日本で、2030年に不足すると予測されている労働力の数と、現在、就労可能とされている障害者の数の組み合わせである。
加えて目を向けるべき存在。それが、就労可能な障害者の存在だ。
障害者の数は国民の10人に一人、全国でおよそ1160万人と推定されている。
そのうちのおよそ半数、600万人は就労可能とされている。それにもかかわらず、法定雇用率制度のもとで民間企業に雇用されている障害者は、最新の集計でも約70万人にとどまっている。
ふたつ目の数字の組み合わせは「35万円と2万4000円」。
これは一部大手企業の大卒総合職の初任給と、障害福祉サービスにおいて働く障害者の全国平均工賃(就労継続支援B型の報酬)との比較である。
「フルタイムの一般就労と、雇用契約を結ばない福祉的就労の金額を比べるのはナンセンスだ」と言われるかもしれない。確かに、体力的に長時間の勤務が難しいなどの事情はあるし、制度の前提も違う。
しかし、私がここで問いたいのは「意欲も能力もあるのに、障害を理由に可能性が閉ざされてしまう構造」への違和感だ。実際、中国語・英語・日本語を自在に操るトリリンガルの障害者が、障害者雇用枠(一般就労)というだけで、10万円程度の月給しかもらえない、という奇妙な現実もある。
このような現状を一歩ずつ変えていくための武器のひとつとして、著者が注目したのが「eスポーツ」であるという。

本書は、東京地方裁判所で事務官・書記官として8年間働いたのち、福祉法人職員を経て障害者の就労支援事業を立ち上げ、現在もその最前線で活躍する著者による、これからの日本の労働市場が直面する問題、およびその解決策を提言する一冊である。

「意欲と能力のある労働力」を企業・社会の需要とマッチングさせる

なぜ「障害者の就労支援」を事業としている「株式会社ePARA」が「eスポーツ」に目を付けたのか。本書の中で繰り返し語られていたのが、「eスポーツ」を「ITの入り口」と位置付ける考え方である。
バリアフリーeスポーツは、プレイヤーとしての障害者に劇的な変化をもたらす。何よりもeスポーツは、社会へつながるITの入り口だ。eスポーツのプレイヤーであること自体、デジタルデバイスを操作する能力、ルールを理解する知的能力、ネット環境への適応性、他者と意思疎通する力などを保証している。その点、DX化(デジタルトランスフォーメーション)が急務な企業にとって、彼らは単なる「配慮すべき対象」ではなく「即戦力のIT人材」として映るはずだ。
そして実際に、同社ではeスポーツを入り口に障害者雇用を実現するいくつものプロジェクトを立ち上げ、実績を上げている。

その具体的な内容についてはぜひ実際に本書を読んで触れてほしいが、ひとつ重要なのが、バリアフリー化が進む「eスポーツ」という一大ジャンルが、ともすれば勤労意欲どころか生活意欲、生きる意欲すら減退させてしまいかねない障害者に、それらを取り戻させる大きなキッカケになっていること。

さらに大切なのは、同社があくまでeスポーツを、障害者雇用を考えている企業に対する「障害者の能力と意欲」を保証するツールとして捉えていること。彼らの事業は「慈善事業」などではなく、あくまで「人材マッチング」なのである。

障害者雇用支援は国策でもあるため、そこには公金が流し込まれる。その公金を目当てに「障害者“で”稼ぐ」ことを目的としたグレーなビジネスも決して少なくない。本書にもその実例がいくつか取り上げられているが、イメージとしては自治体からの生活保護を搾取するような「貧困ビジネス」に近いものと言えるだろう。

一方で「株式会社ePARA」は、本書のタイトルからもわかるとおり「障害者“と”稼ぐ」そして「障害者“が”稼ぐ」ことの実現に強くこだわっている。
必要なのは「障害者の強みを発掘」し、それを企業の需要とマッチングすることで「就労」を生みだすこと。さらには就労した障害者が、生きがい、やりがいを持った形でその労働環境に定着するための支援を行うこと。
本書の最終章である第5章では、実際に同社で活躍する重度障害者たちによる、障害者就労に関する「人生を賭けたロールモデル」が3例、紹介されている。

私自身は幸運にも、現時点では「健常者」の一人として日々を過ごし、仕事にも恵まれている。しかし、実は一歩間違えれば命を落としたり、半身不随になったりしかねないような事故に二度ほど遭遇している。そんな経験もあり、冒頭で引用済みではあるが「日本人のうち1160万人(10人に一人)が障害者である」と聞くと、障害者支援が「まったく他人事ではない」という実感が強く湧いてくる。

本書は「障害者の就労支援」の現場を詳細に描いたドキュメンタリーというよりも、同ジャンルの現状に触れたうえで「今後、向かうべき方向性とそのための施策やツール、考え方」を紹介している「提言書」的な性格の一冊と言える。
とはいえ、障害者支援に関する具体的かつリアルな現状は数字とともに語られており、国による支援制度の概要などに触れることもできる。著者の加藤氏が「まだまだ道半ば」と語る「障害者の就労支援」に少しでも興味がある方は、ぜひ手に取って確認してほしい。

最後に本書を読んだ読者に対する、加藤氏からの「お願い」を引用したい。
だから私は、本書を読んでくれたあなたにお願いしたいことがある。
特別なことは何もいらない。ただ、隣にいる「働きたい人」を、少しだけ丁寧に見てほしい。その人の「得意」や「好き」を、もう一歩踏み込んで探してほしい。「難しそうだ」と感じたとき、「でも小さく試せないか」と一秒だけ立ち止まってほしい。
それが、挑戦の連鎖(コンボ)の始まりになる。

第1章の冒頭で、「慈善事業の話ではない」と書いた。今も、その気持ちは変わらない。
これは、これからの日本をどう設計するかという話だ。
644万人分の労働力不足と、600万人の就労可能な障害者。この数字が重なる場所に、未来がある。
障害者の月給が12万円になり、20万円になり、やがて健常者と変わらぬ報酬が当たり前になる日が来たとき。日本社会はきっと今より少し、しなやかで強くなっている。

レビュアー

奥津圭介

編集者/ライター。1975年生まれ。一橋大学法学部卒。某損害保険会社勤務を経て、フリーランス・ライターとして独立。ビジネス書、実用書から野球関連の単行本、マンガ・映画の公式ガイドなどを中心に編集・執筆。著書に『中間管理録トネガワの悪魔的人生相談』『マンガでわかるビジネス統計超入門』(講談社刊)。

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