あなたは「都道府県魅力度ランキング」を知っているだろうか。
私はあれが大嫌いだ。
本書は、こんな言葉から始まる。もう、ひっくり返って笑った。毎年秋頃に発表されて、ニュースで最下位の県(埼玉や茨城、佐賀あたり)に住む人の街頭インタビューが入るアレだ。相当に失礼なランキングだと思うけど、その県民でなければ「へぇ~、そうなの」レベルの受け止め方しかしない。しかし著者は、その問題点を指摘する!
それは、ランキングにおいては「土地の連続性」が問われないことだ。たとえ隣りあうような場所でも、あいだに県境があるだけで、別の地域として扱われてしまう。JR東北本線の赤羽(東京都)から隣駅である川口(埼玉県)に行ったとたん、魅力度が5位(東京都)から47位(埼玉県)になるわけではないはずだ。
そのとおり!
でも、「まぁ、そんなに目くじらを立てなくても……」という気がしないでもないでしょ? それが、本書を読むと
「私も都道府県魅力度ランキングが許せん!」
くらいに目覚めちゃうこと間違いなし。なにに目覚めるか?
それは「意外な土地と土地が結びつく地理」の面白さだ。
本書では、地方ブロックでも東日本/西日本でもない、新たな地域区分に基づいて日本の地理を描く。
地域区分は、一見すると地域を「分ける」試みのようでありながら、実はそれと同じくらい「つなぐ」営みでもある。何らかの共通性を持つからこそ、異なる地域が同じ区分として括られる。(中略)日本列島のあちこちに築かれた地方ブロックの壁を飛び越え、遠く離れた場所との新たなつながりを見出すこと、それがこの本の目的である。
例えば、よく東日本・西日本と言うが、本当に西と東に分けられるのか? その境界線はどこなのか? このシンプルな問いに、著者は嬉々として様々な指標を提示する。マクドナルドを「マック」と呼ぶか「マクド」と呼ぶか? 探偵! ナイトスクープのクラシックネタ「アホ・バカ分布」、角餅/丸餅、納豆の消費量、方言……。それらを比較しても確固とした共通の法則性は見いだせない。日本の東西の境界はフォッサマグナ(何十年ぶりにこの言葉を使っただろう)とか言うけれど、そもそも東西二元論で日本を括るのはバカらしい(いや、アホらしいか?)ほどに多様であることだけが鮮明になってくる。
かつて、小学生向けの47都道府県本を編集したことがある。各県の県庁所在地や、名物、名所、産業を見開きごとに紹介する、定番の児童書だ。その本を作るとき、「これ、やっぱりおかしくない?」とモヤモヤしたのが中部地方の存在である。そのモヤモヤとは「日本海側の北陸~信州エリアから太平洋側の中京エリアまで、ざっくり括りすぎだっつ―の!」ということに尽きる。ついでに言えば「三重県は近畿地方じゃなくて、名古屋文化圏だから中部地方!」とも思った。本書にもこうある。
各省庁の地方支部部局の管轄範囲を見ると、中部地方の分け方が混乱を極めていることが分かる(図5-1)。
ほーら、ほら!
というのも「中部地方」は明治時代の教科書編纂において便宜的に設定された地方にすぎないという。しかし、本当に中部地方をひとつのまとまりとして考えることは出来ないのか?
中部地方の大きな特徴は、「日本の屋根」と呼ばれる日本アルプスがあり、海と接していない内陸県があるということだ。内陸県について、奈良県や滋賀県、栃木県や埼玉県、群馬県などを含めて、この内陸県を仮に「中央日本」と名付けて地域区分として見ようと著者は言う。
この中央日本からは信濃川をはじめ、木曽川、神通川など多くの大河川が四方に伸びている。その河川を使って山林から切り出した材木が運ばれて都市へと供給された。また中央日本を貫く街道として整備されたのが中山道だ。この道を通って活躍したのが近江商人であり、彼らが運んだのが生糸は近代日本の最大の輸出産品となる。その生糸の製糸業の中心となったのが長野県の諏訪地方で、時代が変わって製糸業が廃れ、日中戦争から太平洋戦争へとなだれ込み、軍需工場を空襲から守るために太平洋沿岸からこの地へと精密機械業が疎開し、根付いていく。そのほか、関東内陸工業地域の成立や「重厚長大から軽薄短小へ」という製造業の転換も、この中央日本を支えた。
中部地方といえば、名古屋を中心とした広大な地域区分をイメージするが、これを中央日本という括りでみると
「中央日本(=中央高地とその周辺)」は、山と川に基づく地域区分である。それは明確な中心を持つものではなく、平地へ向かって拡散するような指向性をもつ。愛知県は中部地方の中心ではなく、むしろ縁辺なのだ。
という説明がつく。中央日本とその縁辺は地図において、中部地方とぴったり重なるわけではないけれど、その地域区分であれば、「なるほど」と納得がいくのではないか? 地理の学びとは、山脈や川の名前、産業の種類を覚えることではなく、様々な要因でそこに成立している事象の因果関係を解き明かすことなのだ。その要因は自然や気候、歴史、人間の習慣、価値観、移動など様々な変数の組み合わせで変化する。
さらに本書では、人の移動に関する統計データから「出生率」や「移民」について論じ、そこから日本の地域構造がいかに変化しているか、あるいは変化していないかをつまびらかにする。それを「ふんふん、なるほどね」と素直に読むのもありだが、それにとどまらなくてもいいのではないかと思う。自然や気候、歴史、人間の習慣、価値観……。さまざまな変数を加えれば、あらたな解釈ができるかもしない。これは、そういう知的興奮を味わわせてくれる良著だ。間違いなくオススメです!
レビュアー
嶋津善之
関西出身、映画・漫画・小説から投資・不動産・テック系まで、なんでも対応するライター兼、編集者。座右の銘は「終わらない仕事はない」。