第20回本屋大賞『
汝、星のごとく』から3年、その続編『
星を編む』から2年半。今、最も新作が待ち望まれる作家、凪良ゆうさんの最新刊『多類婚姻譚』がついに発売となった。本書は発売されるやいなや各書店でのランキングで1位に躍り出て、発売即・大重版も決定!
そんな最新作の刊行を記念して、著者の凪良ゆうさんに担当編集者がインタビューを行った。
2年半ぶりの待望の新作、テーマは……「現代の結婚」!?
――『汝、星のごとく』『星を編む』から、2年半ぶりの文芸最新刊となります。まずは率直に今のお気持ちを教えてください。
凪良 それはもう緊張しかないですよ(笑)。この3年ほど、たくさん仕事はしていたのですけれども、小説のお仕事は原稿にしっかり向き合う時間が取れなくて。コンスタントに新刊が出ていたとしても緊張する性質ですから、まして久しぶりの新刊ともなると、読者の皆さんのハードルも上がっているのではないかと不安でもありますし、期待したほどではなかった、と思われたらどうしよう、と心配にはなりますよね。
――いえ、『多類婚姻譚』は今の凪良さんが、今の時代にしか書けない素晴らしい物語になっていると思います。しかも、発売後、凄まじい売れ行きで、あっという間に発売即、大重版をかけさせていただきました。
凪良 ありがとうございます。本当にホッとした……。忘れずに待っていてくれた読者の皆さんに感謝しかありません。
――今回のタイトルはどのような意味を持つものなのでしょうか?
凪良 あなた、知ってますよね(笑)。そこから説明するなら……日本には古来から「異類婚姻譚」という、人間と、人間以外の種族を結ぶ婚姻譚がたくさんあります。「鶴の恩返し」や「雪女」、雨乞いのために村娘が龍神に嫁ぐようなお話などなど。
今作はもちろん人間同士の婚姻譚・結婚にまつわるお話ではあるのですが、今の多様性の時代に「人間だから」とひとくくりにすることも難しいと思うんです。人間同士だって、もはや「異類」かもしれない。その多様性に重きを置いた現代の婚姻制度を自分の視点で描きたかったので、『多類婚姻譚』と名付けました。
――凪良さんは人間という種族が、これだけ多種多様になってしまったことはいいことだと思われますか?
凪良 うーん、そもそもいいも悪いもなく、人は多様なものです。その中で、「多」や「他」を尊重することはいいことですが……現代はその言葉を武器にして攻撃的になってしまう場合もありますよね。その結果として息苦しくなってしまった人もいるとは思う。もちろん、今までのルールの中で抑圧されてきた人が解放されたことは素晴らしいことだという大前提ですが。
――ふと思ったんですが、昔は血液型診断って日本では大体4種類。星座占いや、昔流行ったどうぶつ占いだって12種類。でも、MBTI診断は16種類に加え、さらに細分化されて行っていますよね。
凪良 みんな分けたくて分けているのではないんですよ。きっと「自分が何者なのか」を知りたいだけのような気がします。これだけ「多様性」と言われ「あなたは何者なんですか?」「個性は? スタイルは?」とか聞かれ続ける。それを持っているのがカッコいいとされるから必死に探す。そんなの息苦しいよね。だけど……別にそんなスタイル決めなくてもよくないですか? 毎日を健やかに暮らしていけるならば、無理にそんなものを求めなくてもいいじゃないですか。
――仰るとおりだと思います。そんな時代における婚姻・結婚制度についての話を書かれたわけですよね。
凪良 細分化され、誰もが自分が何者かを悩む時代に、「自分らしく生きること」と「誰かとともに生きること」、それが両立できるパートナーと巡り会えたらとても幸せなことではありますが、現実的には噛み合わせが悪いですよね。そういったところで悩む人たちの物語を描きたかったんです。
――今作には5編の連作短編が収録されています。読んだ方々の感想がまさに多様で異なっています。本来、凪良さんの作品は登場人物に没入・感情移入して読む作品が多いはずですが、こんなに感情移入するポイントがバラバラな作品は読んだことがありません。
凪良 確かにそうですね。わたしはいつも人物描写をしっかりと、輪郭をくっきりと書くタイプの作家だと思っているので、こういうふうに読む人によって、登場人物に対して、こういう人ですよね、いや、こんな人ですよ、と意見が分かれるのは初めての経験かもしれません。そんな感想を聞けることが面白いな、と思っています。読む人それぞれが別の「多類」なのかもしれませんね。
――それは素敵な連作短編集の証左かと。結果、皆さんが好きだと言ってくれる短編もそれぞれ違いますよね。だけどどの短編にも自分の片鱗を見つけることができる。読んでいて胸が痛い点はあるのですが、不思議に勇気づけられる。
凪良 そうならば嬉しいですよね。5話目の「C’est la vie」という短編は他の作品よりも年齢層が上の、しかも普通の恋愛ではない関係性を書いているので、厳しい意見が多いだろうと思っていたのですが、先日若い女性があの短編が好きだと仰ってくれてとても嬉しかった。だから年齢とか性別に関係ない部分でも、きっと誰かの心に当てはまるものかもしれません。
――4話目の「Position Talk」は自らを意識が高いと思っている30代の律くんと、その婚約者の朱里ちゃんの衝突を描いた物語ですが、あのお話が刺さる、という方も多かったです。
凪良 あのお話は、律に感情移入する人と、朱里にする人がかなりくっきりと分かれますね。皆さんこの物語を自分の鏡のように読んでくれているのかもしれません。もしくは、読む人によってくるくると絵が変わる万華鏡のように。
――どの話もある意味では痛いし、刺さる。ただ、読んでくれた人たちの多くが読後感が良かった、と言ってくれることも不思議でした。
「小説現代」で三つの書評をいただきましたが、麻布競馬場さんは「5人の語り手達は(中略)今日の惑いに対して自分たちなりの答えを出し、また別の惑いが待つ明日へと踏み出してみせる」、宇垣美里さんは「皆それぞれに形の違う生きづらさを抱えながら、何とか折り合いをつけて生きていこうとあがく姿に励まされ、それでも他者と共にこの社会で生きていきたいんだ、という願いを肯定してもらえたように感じた。明けない夜はないように、止まない雨はないように、ただよりよい世界を信じ、私たちは泥道を進み続ける」、紗倉まなさんは「負った傷に見合わない、ささやかで安らかな幸せを、確かな幸せとしていつだって誰かとつくりあげていくことはできるのだと、背中をやさしくなでられた気持ちになる」とそれぞれに素敵な、それでいて前向きなコメントをいただきました。
※麻布競馬場さんの記事は
こちら
※宇垣美里さんの記事は
こちら
※紗倉まなさんの記事はこちら
凪良 とても嬉しかったです。作中では、もちろん結婚制度に対して批判的な面がありつつも、主人公達がそれでも前を向いて歩いて行くことを諦めていないからでしょうか。結婚を唯一のゴールとして描いている物語ではないですし、やっぱり主人公達がどう生きていくか、を描いている物語なんだと思います。
最終的には、どう読まれるかは読者の皆さんにお任せするべきだと思っているので作者から読み方を強制することはないのですが……。そんなふうに読んでくださったことがありがたいです。わたしもこの物語を読んでくださった読者の皆さんと語り合ってみたいですね。
2026年5月25日/本書『多類婚姻譚』の搬入日、講談社にて 撮影/安田光優
凪良ゆう(なぎら・ゆう)
京都市在住。2007年に初著書が刊行され本格的にデビュー。BLジャンルでの代表作に連続TVドラマ化や映画化された「美しい彼」シリーズなど多数。'17年に『
神さまのビオトープ』を刊行し高い支持を得る。'19年に『流浪の月』と『わたしの美しい庭』を刊行。'20年『流浪の月』で本屋大賞を受賞。同作は'22年5月に実写映画が公開された。'20年刊行の『
滅びの前のシャングリラ』で2年連続本屋大賞ノミネート。'22年刊行の『
汝、星のごとく』は第168回直木賞候補、第44回吉川英治文学新人賞候補、ブランチBOOK大賞2022、キノベス!2023第1位、第10回高校生直木賞などに選ばれ、翌年、自身2度目となる本屋大賞を受賞。同書は'26年10月に実写映画化される。'23年には『汝、星のごとく』の続編となる『
星を編む』を発表。