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2026.03.30

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Netflix大ヒットドラマ『地面師たち』の「その後」を描く、衝撃の続編ノンフィクション! 真犯人は誰なのか?

2018年に発表されたノンフィクション『地面師  他人の土地を売り飛ばす闇の詐欺集団』は、新庄耕の小説『地面師たち』(集英社/2019年発売)の主要参考文献としてクレジットされ、さらに2024年のNetflixドラマシリーズ「地面師たち」の誕生へと繋がった。いわばその発火点たる『地面師』の続編が、8年の歳月を経て、先頃リリースされた。著者はもちろん前作同様、ノンフィクションライターの森功。事件発覚後、関係者の多くが逮捕されながら、いまだに物語は終わっていないことを高らかに告げる衝撃作である。

前作で描かれたのは、東京都品川区西五反田にあった旅館「海喜館」の土地建物売買をめぐる大胆不敵な詐欺計画、そして誰もが知る大企業・積水ハウスが「地面師グループ」によって55億円を騙し取られた大失態の顛末。その犯人の1人、カミンスカス操から著者のもとに手紙が届くところから本書は始まる。それは「私は無罪です」「本当の首謀者は別にいる」という内容だった……。このミステリアスなオープニングから、著者は再び犯罪者たちの迷宮世界へと引きずり込まれていく。

もちろん著者はこれまでの調査を通して、「地面師」たちの抜け目のなさ、容赦のなさ、狡猾さは熟知している。それでも、その飽くなき探求心と好奇心が「地面師」に利用されているのではないか、我々はその破局の道程を目撃しているのではないか……というスリルも、読み進めるうちにどんどん膨らんでいく。

一方、ドラマとは異なるリアルな犯罪者たちの生態もつまびらかにされる。「地面師たち」に夢中になったファンも必読だ。
ネットフリックスのドラマでは、ハリソン山中を頂点とした犯行グループの指揮命令系統が徹底されているように描かれ、北村一輝演じる情報屋の竹下が裏切り者として粛清された。だが現実には、リーダー格の詐欺師はそれぞれが騙し合い、互いに疑心暗鬼のまま犯行におよんでいる。結束力などない。
そして、ドラマでも描かれたように、被害者である積水ハウス側の「欲に駆られた制御不能ぶり」も、事件のスケールと被害額をより増大させた。それは犯人グループにとっても予想外の展開だったと、本書では改めて明言される。
そしてカミンスカスや生田は旅館の売り先を積水ハウスに定め、取引に臨んだ。カミンスカスはこう書く。
〈(それが)本当に上手くいってしまったのです〉(二〇二四年十一月二十八日消印書簡)
ドラマ終盤の展開には、フィルム・ノワールのような因果応報の要素が劇的に盛り込まれていたが、現実にはもっと未練たらしい、みっともない状況が発生していたことも明かされる。犯人と被害者の区別がつかなくなるような時間も、事件発生(=虚偽契約締結)後にしばらく続いていたことにも驚かされる。「誰もが真実から目をそらす」かのような不条理な状況は、確かにフィクションでは描きづらいかもしれない。
地面師グループは相続人となった異父弟の鳥海兄弟に働きかければ、取引を再開できると考えたようだ。手紙に書いている一一六億円は、被害額に上乗せされた積水ハウスの買い値であり、単純な皮算用でしかない。しかし一方で、その計画には積水ハウスの営業担当まで一枚嚙んでいたというのである。
〈6月6日に(詐欺)事件だと知り、何とか事態を解決できないか模索して、鳥海兄弟から物件を買い取る事が出来ればと考え、(積水の)部長(実際は次長)に話したら、是非進めてほしいという事だったので、土井に鳥海兄弟と会えないか相談しました。(中略)部長は私が(土井に)2000万円を払った事は知っています〉(十二月十九日付書簡)
「フィクションと現実の違い」を感じさせるところはまだある。非情な粛清シーンの数々もそのひとつだ。確かに現実においては、殺人事件の嫌疑がかけられるリスクや、実行の手間などを考えると、必要最小限の「匂わせ」で死の恐怖や心理的圧迫を与えるだけのほうが効果的だし効率的だ(どちらも凶悪なことには変わらないが)。また、狡智に長けたはずの犯人グループの行動が、なんとも呑気で危機感ゼロに見える場面もある。
大ヒットドラマ『地面師たち』では、なりすまし犯を殺害するシーンがあったが、現実には殺人だと無期懲役や死刑という重罪に問われるため、そこまでしない。犯行グループのことをよく知る先の不動産ブローカーは、意外な事実を打ち明ける。
「積水ハウスが警視庁に被害届を出し渋っているあいだ、土井や内田は羽毛田と常世田を逃がそうとしました。現に、その打ち合わせもおこなわれました」
密談の場所は神奈川県の名門ゴルフコース「大箱根カントリークラブ」だ。内田や土井、北田のほか、のちに逮捕された一七人のうち一〇人前後が集い、三組に分かれてゴルフをした。むろんカミンスカスもゴルフ謀議に参加している。
結局、彼らの密談は空中分解し、多くの逮捕者が出ることになる(その理由にも腰が砕けること必至)。だが、彼らにとって逮捕・収監は単なるゲームオーバーではなく、むしろリフレッシュ期間にすら見える。ほかならぬカミンスカス氏と著者のやりとりが、その予感を強くさせる。

本書で取り上げられるのは、五反田「海喜館」事件だけではない。新橋の一画で白骨遺体となって発見された地主と、その所有物件をめぐる泥沼の争奪戦、あるいは渋谷区富ヶ谷で実行された弁護士ぐるみの地面師事件などについても、詳細に語られる。これらも五反田の事件に負けず劣らず強烈だ。まるで宮部みゆきのミステリー小説を読むような不気味なサスペンス、そして人間心理を巧みに突いた計画犯罪のスリリングな手口もふんだんに見せてくれる。恐ろしいのは、それがフィクションではなく現実の1シーンであるということだ。
高橋礼子が友人から土地の所有名義が移っている事実を聞かされたときのやりとりはこのようなものだ。
「手紙にそう書かれているのだけれど、あんた心当たりはあるの?」
そう尋ねる友人に対し、礼子は答えた。
「私は土地なんか売っていない、そんなこと知らない」
祖父から受け継いできた不動産なのだが、礼子は無関心だった。友人は大田区に住民票が移されている事実も伝えているというが、それも否定した。
「引っ越したの?」
「そんなはずないでしょう、ここにいるのに」
あえて各登場人物の説明はしないでおこう。現実には分かりやすい作劇や、キャラクターの善悪を解説してくれるドラマ作家はいないからだ。その場に漂う異様な雰囲気、言動に滲む違和感を、現実の我々は敏感に察知するしかない。それでも人は、「煩雑な契約につきまとう緊張感」や「できるだけ早く商談をまとめたい焦り」から解放されたいがために、己の第六感を無視してしまう。現代の教訓話とも捉えられるだろう。
「呉さんは食事に出かけていますので、あとから合流します」
地道はそう言われ、吉永や山口と雑談しながらしばらく待った。
「呉さんの腰の調子はだいぶよくなったけど、高齢で耳が遠いので、本人確認はできるだけ手短にお願いします」
吉永の言葉に山口が相槌を打つ。
「呉さんは午前中、公証役場で本人確認の書類を作成したのですが、その手続きでやたら時間がかかりました。それで今日はえらく機嫌が悪いのです。そのあたりも、よろしくお願いします」
ほどなく、昼食を終えたというニセ地主が事務所に入ってきた。ソファーに腰を下ろすと、挨拶もせずにカバンからパスポートを取り出した。
「これでいいですか」
呉は口を開くと、隣に座っている山口が矢継ぎ早に印鑑証明書や住民票などを地道に示した。
平気な顔をして嘘をつき、相手に対する同情など一切かなぐり捨て、スケールの大きな「商談」を仕掛けて巨額の利益を奪い盗る……そういう世界に身を投じた者は、なんらかの感性や人間性を欠落させることで、俊敏な反応速度・処理能力・運動神経などを手に入れているのかもしれない。最近の政権与党を見ていてもそんな感じはする。
山口はまさしく富ヶ谷事件のキーパーソンでありながら、まるで他人事のように取り繕った。だが、言い訳にもならない。台湾華僑を名乗るニセ地主を地道のところに連れてきたのが、当の山口自身である事実は、動かしがたい。そう伝えると、最後に山口はこう付け加えた。
「森さんのことはよく知っていますよ。あの許永中さんのことなんかも書いているでしょう。俺なんかのような小物を相手にしても仕方ありませんよ」
冷静沈着に食らいつく著者に対して、しっかり「お前のことは見ているからな」という恫喝も忘れない。実際には監視などしていなくても、脅すだけでいい。そういう彼らの手口を知る上でも、本書は明日からでも役に立つ秀逸なガイドブックといえよう。

さて、序盤で示される「いちばんの悪人は別にいる」というカミンスカス氏の主張の行方も気になるところ。そのミステリーが予想外のかたちに変質していく過程も、本書の見どころだ。終盤にある著者の言葉を引用しよう。
彼らは九割方事実に近い話をしながら、肝心の一割で嘘をつく。もとよりすべてを信じることなどできないが、重なっている証言のどこかに事実が潜んでいる可能性もある。

レビュアー

岡本敦史

ライター、ときどき編集。1980年東京都生まれ。雑誌や書籍のほか、映画のパンフレット、映像ソフトのブックレットなどにも多数参加。電車とバスが好き。

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