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2019.01.18

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【地面師】他人の土地を売り飛ばす闇の詐欺集団の実態に迫る!迫真のドキュメント

地面師とは、地主になりすまして第三者に不動産を売却し、益を得る詐欺師集団です。不動産は「サラリーマンがする人生でもっとも大きな買い物」といわれるとおり、たいていの取引では巨額の富がやりとりされます。地面師とは、そこに食いついた詐欺師グループです。

本書では地面師たちのやり口を端的に紹介するために、第一章にもっとも規模が大きく被害額も大きかった事件「積水ハウス」事件をあげています。

事件のあらましはこんなものです。

2017年、五反田駅からほどない都心の一等地に、もう営業していない古い旅館がありました。被害者である積水ハウスはこの土地の地主からこれを買い受けました。作業員を派遣して建物を取り壊そうとすると、声をかけられたのです。
「あなたたち、どちらの方ですか」
事実を確認するうち、積水ハウスが得た土地の権利書も、地主だという妙齢の女性も、すべてニセモノだったことが発覚しました。積水ハウスはまんまと地面師グループにはめられ、土地にたいしてまったく権利を持たない詐欺師に巨額を支払ってしまったのです。

積水ハウスといえば不動産のすべてを理解しているといっても過言ではない業界大手です。その積水ハウスがだまされてしまう「あざやかな」手口に注目が集まりました。

本書は、「積水ハウス」事件だけではなく、実際にあった大規模な詐欺事件をとりあげながら、その歴史はむろんのこと、巧妙な手口まで紹介し、現在でも水面下で事件を進行させているかもしれない地面師詐欺グループについて説明をくわえています。

概して地面師の犯行グループは、一〇人前後で構成されていることが多い。犯行計画を立てる主犯格のボスを頂点とし、なりすましの演技指導をする教育係やなりすまし役を見つけてくるのが「手配師」。パスポートや免許証などの書類を偽造する役割の人間を「印刷屋」や「工場」あるいは「道具屋」と呼ぶ。

驚くべきは、本書はいくつかの章で「主犯格」の人物を紹介していることです。その詳細なプロフィールはむろんのこと、顔写真さえ公開されています。

おいおい、犯罪者じゃねえのかよ、と思うでしょ? これが可能なところに、地面師の特徴のひとつが現れています。

地面師のトップとされる人物は、滅多に逮捕されることはありません。オレオレ詐欺などでも顕著ですが、詐欺の実行犯とそれを計画した人物は別であることがとても多くなっています。実行犯が摘発されることはあっても、それが事件を計画した人物に及ぶことはほとんどありません。実行犯がトップを知らないことさえあるのです。

詐欺は、不動産取引の現場で、主に不動産業者にたいしておこなわれます。まったくアカの他人である地主になりすまし、高額を支払わせるのが普通ですが、この「地主になりすます人物」には、そのへんの役者ではとうてい持ち得ないような高度な演技力が要求されます。「演技指導」は適切でなければならないし、その土台となる計画も、一滴の水ももらさぬような完璧なものでなければなりません。
あなたが社会人ならば、知っているはずです。ものごとの完璧な「絵図面」が描ける人物など、滅多にないことを。

さらに、大規模な詐欺ですから、上記の「手配師」や「道具屋」以外にも、さまざまなプロフェッショナルを必要とします。「法律屋」や「銀行屋」と呼ばれる人物も必要になってきます。こうした人物を集め、動かすためには、高いコミュニケーション能力がなければなりません。

また、詐欺がおこなわれるのは、「地主が死亡、あるいは認知症などによって認識能力に問題が生じている」場合がとても多く、またその物件は「売却されれば高額で取引される」ことが確定しているようなものでなければなりません。こうした物件を見つけてくる情報収集能力も、並大抵のものではないと言えるでしょう。

以上のような能力を併せ持つ人物はそうそういないことはおわかりでしょう。地面師のトップは、戦後絶え間なく起きている土地取引にまつわる詐欺事件のほとんどに関わっているのではないか、といわれています。

警察も司法もそれを知っているのですが、手を出すことはきわめて困難です。かりに逮捕できたとしても重い罪を課すことはできず、抑留期間が短期間になることがほとんどです。当然のことでしょう。「罪」とされていることに手を染めている証拠はどこにもないのだから!

追記:
2019年1月3日付けのニュースで、本書でも詐欺グループのトップとして紹介されている内田マイク容疑者が「積水ハウス」事件にからむ詐欺と偽造有印公文書行使の疑いで再逮捕されたと報道されました。
地面師を逮捕するのは簡単です。逃げも隠れもしていないのだから。むしろ勝負はこの後だといえるでしょう。内田マイクを裁判で有罪に持ち込むためには、警察、検察が「動かぬ証拠」を持っていなければなりません。果たして内田を重い罪に問うことは可能なのだろうか。それが可能だとすれば「動かぬ証拠」とはなんなのか。
現在進行中のニュースに興味をもって接することができるのは、本書の読者が得ることができる醍醐味であると言えるでしょう。他の犯罪と異なり、地面師は「逮捕してからが勝負」。本書の読者はすべて、その認識を持っています。
(1月4日朝記)

レビュアー

草野真一 イメージ
草野真一

早稲田大学卒。元編集者。子ども向けプログラミングスクール「TENTO」前代表。著書に『メールはなぜ届くのか』『SNSって面白いの? 』(講談社)。2013年より身体障害者。
1000年以上前の日本文学を現代日本語に翻訳し同時にそれを英訳して世界に発信する「『今昔物語集』現代語訳プロジェクト」を主宰。https://hon-yak.net/

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