兄・秀吉のことはみんな知っているけど……?
これは大人にも小中学生の大河ファンにもオススメできる視聴スタイルだ。「来週はついに“本能寺の変”だね~」なんて言いながら腕組みをする日曜日の夜は、なんとも愉快だ。
その点でいうと、2026年の大河ドラマ『豊臣兄弟!』は始まる前からどうなるか本当に楽しみな作品だ。主人公は天下人・豊臣秀吉……ではなく、その弟・秀長。「え、そっち?」と思った。
豊臣秀長が何をした人か知っていますか? 私は即答できない。存在は知っているのに何者なのかはちょっとわからないのだ。例えば、戦国~安土桃山時代が舞台の大河ドラマ『真田丸』にも、秀長はもちろん登場した。覚えている。でも「何をしたか」と問われるとフワッとしたイメージばかりが浮かぶ。インパクト大な兄と比べると、なんだかすごくいい人だった。縁の下の力持ちで、豊臣ファミリーを人知れずまとめ上げ、惜しいタイミングで世を去ってしまう。そして秀長の死後、豊臣家はどんどん困ったことになっていく。そう、秀長は貴重な人だったのだ。
そんな秀長をどう描くのだろう。そして秀長を主人公に据えた世界で、兄・秀吉はどんな姿を見せてくれるのだろう。あれこれ展開を想像しながら大河ドラマを楽しむために、秀長のことを知りたい。
青い鳥文庫の『豊臣秀吉と秀長 天下をとった兄弟』は、まさに豊臣の兄弟を主人公にした戦国の物語だ。小学中級から読める。読み仮名があり、わかりやすい言葉づかいだが、内容はしっかり戦国絵巻。人たらしでアグレッシブな秀吉と、温厚な性格で部下に慕われ、兄をサポートする秀長。対照的なふたりが天下を取り、栄華を極めていく様子が史実にそって描かれる。「いつ、どの武将が、誰を倒したか」だけではない戦国時代の面白さがわかるはずだ。
もしかして、侍になったんか?
「よしよしっ、みんな、そろっているなっ!」
とつぜん日吉が、家に飛びこんで来たのだ。色の黒い、しわだらけの顔は変わらなかったが、身なりは前とはみちがえるような、こざっぱりした侍姿だった。
(兄さん……。)小竹はまじまじと日吉を見つめた。(もしかして、侍になったんか?)
(兄さん、どうしているかな……。)
その気持ちが、口をついて出た。
「兄さん、どこにいるのやろう。信長さまにつかえると出ていったけど、侍になれたろうか。」
(中略)
すると、あさひがいった。
「日吉兄さんのこと、わたし、覚えていない。」
小竹がうなずいた。
「あさひは、小さかったからな。」
ふたたび畑をたがやしていると、馬の駆けてくる音がして、大きな声が響きわたった。
「おっかあ、小竹、あさひ! ここにおったか、おれだっ! 日吉っ、いや藤吉郎だ!」
小竹はおどろいて、畑に、くわを落としそうになった。
秀吉は数年おきに急に故郷に現れ、そのたびに出世している。やがて秀長も秀吉の家来として侍になる。ちなみに、このとき「わたし、覚えていない」と言った妹のあさひも、やがて秀長や母“なか”と共に秀吉の天下取りに飲み込まれていく。ちゃんと秀長は「兄さん、それはダメだよ」と止めたのになあ……などと考えると、この場面での彼女のあどけなさが切ない。
秀吉さまの、根になりなされ
「秀吉さまの、根になりなされ。」
軍師の竹中半兵衛が息を引きとる日に残した、そのことばを、小一郎秀長は生涯にわたって忘れなかった。
「秀吉さまは、どこまでも高く、高く、伸びていかれる大木です。しかし、大木はしっかりした根がなければ、たおれてしまいます。小一郎どのは、大木を支える根となりなされ……。」
大木を支える強い根。侍になった秀長は、歴史の表舞台でギラギラ出世していく秀吉を静かに見つめ続けるのだ。例えば竹中半兵衛を仲間に引き入れるときも、秀長はなかなか首を縦に振らない半兵衛の様子を観察しながら、同じくらいの熱心さで秀吉を見ている。
「おれは信じているぞ、小一郎。半兵衛どのはかならず味方につく。かならずな。」
ことわられても、ことわられても、秀吉はあきらめなかった。くりかえし菩提山(ぼだいさん)をおとずれ、真心をこめて、ひたむきに半兵衛にうったえつづけた。
(これが兄者のいいところだ。)小一郎は思った。(こうと決めたら、あきらめない。わたしの役目は、兄者の信念がまちがった方に向かわないかどうか、冷静に見きわめて、助けることだ……。)
秀長のほうが「うまくいく」こと
秀吉はうなずいた。
「信雄(のぶかつ)に和睦を申し入れよ。わしと戦う気の家康を止めるには、信雄をおとなしくさせねばな。」それから秀吉はいった。「清洲へはわしが行くより、おまえのほうがうまくいく。」
つまり戦国時代の天下統一は、ただ戦に強いだけでは成功しなかったともいえる。だから、秀長の温厚で辛抱強い性格に向いていることも、当時からちゃんとあったのだ。秀長は藤堂高虎など優れた家来にも恵まれ、もっというと秀吉の家来からも慕われ、秀吉と家来との調整役も担っていた様子がこの本では描かれる。そんな人望の厚い武将なのに、秀長本人はあくまで兄・秀吉の補佐に徹しているあたりもいい。「下剋上」といわれていた時代にずっと兄に寄り添っている。まさに「秀吉の根」だ。
秀吉と秀長が生まれ、戦国武将となった兄弟が天下統一を果たし、やがて大阪城が炎に包まれるまでの時代がていねいに語られる。大河ドラマの予習はもちろん、日本史を楽しむための本としてもおすすめだ。








