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2025.12.26

レビュー

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ビッグバン後、星も銀河も存在しない暗黒時代に起きた劇的な転換──宇宙138億年史最大の謎を解く

私はACIDMANという日本のロックバンドが大好きです。映画『ゴールデンカムイ』の主題歌を担当したので、ご存知の方もいるかもしれません。ギターボーカルの大木伸夫は、ライブ中のMCで頻繁に宇宙について言及します。アルマ望遠鏡から名前を取った「ALMA」という楽曲やアルバムも制作し、さらにはプラネタリウムとのコラボイベントも開催。生命が生まれ、そして死んでいくことを歌うバンドです。

私が本書を手に取ったのは、そんな大木がMCでよく触れる「138億年」「ダークマター」といったワードをはじめ、大木が愛する宇宙への理解が深まるのではないかと感じたからでした。オタ活の延長です。

たった3分で……!? 宇宙の始まりはドラマチック

本書では、宇宙誕生初期、「宇宙暗黒時代」と呼ばれる何もない真っ暗な宇宙で、どのように星や銀河が誕生していったのか、その謎に迫っています。

10⁻³⁵(10のマイナス35乗)メートルのプランクスケールという極小サイズから始まった宇宙は、インフレーションを起こします。これはごく短期間のうちに爆発的に膨張する現象で、その規模は、「たとえるなら、ゴマ粒サイズが瞬時に銀河系の大きさ以上に膨れ上がるようなもの」。このインフレーションのエネルギーをもとにビッグバンが発生し、ビッグバンから1マイクロ秒後(!)、膨張した宇宙が冷却されて、陽子や中性子が作られます。そしてビッグバンから1秒後、本格的な核融合反応がスタートし、陽子と中性子が結合して重水素が誕生。この時点ではまだ不安定な重水素ですが、ビッグバンから3分後には安定して存在するようになり、重水素同士が反応してヘリウムが生まれます。

インフレーションにビッグバンという劇的な現象と、1マイクロ秒、3分など、138億年という宇宙の歴史を考えるととんでもない短時間で次々と新しいものが生まれていく、そのスピード感がスゴイ。

現時点ではまだ星は存在していません。ファーストスターなる、最初の星たちの誕生まではもう少し待つ必要があるのです。
『宇宙暗黒時時代の夜明け』より引用
ちなみに、「ゴマ粒サイズが瞬時に銀河系の大きさ以上に膨れ上がるようなもの」という文ですが、本書にはこうした“たとえ”が頻出します。天文に関して素人な私が、難しいと感じる文章に出くわして頭に「?」が浮かび、このまま広大な宇宙で迷子になりそう――というタイミングで、スッと私の手を引いて導いてくれるのが、この「たとえ解説」。素人でも置いていかない、身近な例を用いた本書の丁寧な描写が嬉しいですね。

まだ星が存在しない暗黒時代の宇宙に“光を当てる”理由とは?

宇宙誕生から38万年。インフレーション、そしてビッグバンを経て、宇宙には水素やヘリウム、ダークマターと呼ばれる“見えない”(電磁波で観測できない)暗黒物質、ビッグバンの名残である宇宙マイクロ波背景放射(CMB)が存在しつつも、まだ星そのものはありません。深い闇が広がる、それが宇宙暗黒時代。

今の成熟した宇宙にも様々な発見があり、研究対象として十分魅力的ではあるのですが、それでも著者は、宇宙暗黒時代に焦点を当てる理由をこう記します。
星や銀河が存在しない暗黒時代の宇宙は、一見すると“何もない真っ暗な時代”に思えるかもしれませんが、裏を返せば「宇宙の基本的な性質」だけを調べられる絶好のチャンスでもあるのです。
この暗黒時代を観測するために重要なのが、21cm線電波。光のない世界で、見えないものをどう観測するのか。この時代にはビッグバンで作られた水素ガスが満ちているのですが、このガスの大部分は、星が作られる前は中性水素として存在しており、電波を放出しています。この電波を「21cm線」と呼んでいて、これを観測することで、光のない宇宙のいろいろを調べることが可能になるのです。

見えないものを見ようとする……それはダークマター

個人的に関心の深いダークマターに関する解説にも、しっかりページを割いている本書。通常、天体は光や電波を放っており、これを捉えることで観測が可能となります。しかしダークマターは電磁波を一切放射も反射も吸収もしません。ではなぜその存在を認識できるのか。鍵となるのは、重力。ダークマターは、重力に影響を及ぼしており、重力レンズ効果と呼ばれる、天体から出た光が途中にある別の天体などの重力によって曲げられる現象を観測することで、その存在を認識できるという仕組み。
天文学者にとっては、まさに「ダークマターという見えないものを重力レンズ効果で“見る”ために望遠鏡を覗いている」と言えるでしょう。
著者のこの表現を踏まえると、BUMP OF CHICKENが「天体観測」で見ようとしていた「見えないもの」とは、ダークマターかもしれません(違う)。

もうひとつ個人的に触れておきたいのが、宇宙理論の基盤となる「ΛCDM理論」です。宇宙は68%をダークエネルギー(宇宙定数Λラムダ)、27%を冷たいダークマター(CDM:Cold Dark Matter」、そして残りの5%を通常の物質が占めていて、これらによって宇宙の進化を記述します。
『宇宙暗黒時時代の夜明け』より
この理論は「ΛCDMモデル」と呼ばれているのですが、はて、どこかで見た字面です。そう、冒頭で触れた「ACIDMAN」に似ている……!

バンド名の由来とこの理論は無関係だそうですが、その音楽活動の中心に宇宙があるACIDMANと、宇宙理論の基盤となる「ΛCDMモデル」。ふたつの不思議なシンクロニシティに、ワクワクが止まりません。

……最後はつい音楽好きの血が騒いでしまいました。宇宙についてここまで包括的に書かれた日本語の一般書はないと著者も自信を持つ本書は、なんとなく知っていた宇宙関連のワードをより深く理解でき、あらためてその仕組みに驚かされながら、様々な手法で宇宙を観測してその謎を科学的に解き明かす様を解説。宇宙暗黒時代の漆黒の闇からもたらされる“輝くような知的体験”が味わえる一冊です。

レビュアー

ほしのん

中央線沿線を愛する漫画・音楽・テレビ好きライター。主にロック系のライブレポートも執筆中。

X(旧twitter):@hoshino2009

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