私が本書を手に取ったのは、そんな大木がMCでよく触れる「138億年」「ダークマター」といったワードをはじめ、大木が愛する宇宙への理解が深まるのではないかと感じたからでした。オタ活の延長です。
たった3分で……!? 宇宙の始まりはドラマチック
10⁻³⁵(10のマイナス35乗)メートルのプランクスケールという極小サイズから始まった宇宙は、インフレーションを起こします。これはごく短期間のうちに爆発的に膨張する現象で、その規模は、「たとえるなら、ゴマ粒サイズが瞬時に銀河系の大きさ以上に膨れ上がるようなもの」。このインフレーションのエネルギーをもとにビッグバンが発生し、ビッグバンから1マイクロ秒後(!)、膨張した宇宙が冷却されて、陽子や中性子が作られます。そしてビッグバンから1秒後、本格的な核融合反応がスタートし、陽子と中性子が結合して重水素が誕生。この時点ではまだ不安定な重水素ですが、ビッグバンから3分後には安定して存在するようになり、重水素同士が反応してヘリウムが生まれます。
インフレーションにビッグバンという劇的な現象と、1マイクロ秒、3分など、138億年という宇宙の歴史を考えるととんでもない短時間で次々と新しいものが生まれていく、そのスピード感がスゴイ。
現時点ではまだ星は存在していません。ファーストスターなる、最初の星たちの誕生まではもう少し待つ必要があるのです。
まだ星が存在しない暗黒時代の宇宙に“光を当てる”理由とは?
今の成熟した宇宙にも様々な発見があり、研究対象として十分魅力的ではあるのですが、それでも著者は、宇宙暗黒時代に焦点を当てる理由をこう記します。
星や銀河が存在しない暗黒時代の宇宙は、一見すると“何もない真っ暗な時代”に思えるかもしれませんが、裏を返せば「宇宙の基本的な性質」だけを調べられる絶好のチャンスでもあるのです。
見えないものを見ようとする……それはダークマター
天文学者にとっては、まさに「ダークマターという見えないものを重力レンズ効果で“見る”ために望遠鏡を覗いている」と言えるでしょう。
もうひとつ個人的に触れておきたいのが、宇宙理論の基盤となる「ΛCDM理論」です。宇宙は68%をダークエネルギー(宇宙定数Λラムダ)、27%を冷たいダークマター(CDM:Cold Dark Matter」、そして残りの5%を通常の物質が占めていて、これらによって宇宙の進化を記述します。
バンド名の由来とこの理論は無関係だそうですが、その音楽活動の中心に宇宙があるACIDMANと、宇宙理論の基盤となる「ΛCDMモデル」。ふたつの不思議なシンクロニシティに、ワクワクが止まりません。
……最後はつい音楽好きの血が騒いでしまいました。宇宙についてここまで包括的に書かれた日本語の一般書はないと著者も自信を持つ本書は、なんとなく知っていた宇宙関連のワードをより深く理解でき、あらためてその仕組みに驚かされながら、様々な手法で宇宙を観測してその謎を科学的に解き明かす様を解説。宇宙暗黒時代の漆黒の闇からもたらされる“輝くような知的体験”が味わえる一冊です。








