スパイに学ぶ会話術
『スパイに学ぶ「あざとい」会話術 ビジネスに役立つ諜報員の言葉の魔法』の著者であり、『VIVANT』の監修者でもある勝丸円覚氏によれば、スパイの最も重要な仕事とは「有力な協力者を作ること」であるという。
スパイは言葉巧みに人の心に入り込み、「人たらし」となって相手を操るようになって、はじめて一人前といえるのである。
本書は協力者のリクルート、人間関係の構築、情報の引き出し、相手の説得などを可能にした、コミュニケーションを基盤とした38の会話術の鉄則を学ぶことができる。理論だけでなく、現場での実体験も盛り込まれ、経験に裏打ちされたテクニックは刺激的だ。
物語の中では変装術や格闘技、驚異的な記憶力や観察力などが目を引くため、特別な存在に見えるスパイだが、実は会話をベースとしたコミュニケーション能力を日々磨いているという。言葉巧みに相手や大衆をコントロールするスパイの会話術は、情報収集、対外工作、妨害工作だけでなく、私たち一般人のビジネスや人付き合いにも応用できるのだ。
人の心に忍び込むテクニック
「なるほど、テクニカルな会話のやり取りを怪しまれずに行うには、あのような身なりや振る舞いが必要なのか」
ここで語られた「初頭効果」は、別の章でも応用されている。読み進めるにつれて、それまでに学んだ心理学的説明がつながり、人間の行動原理への洞察が深まっていく。この「知識がつながる感覚」が気持ちいい。
本書の大きな魅力は各テクニックにおける「なぜそうするのか」という心理的メカニズムの解説に重点が置かれていることにある。この心理解説こそが、スパイ術の核心だ。
なぜその言葉を選ぶのか、なぜそのタイミングで仕掛けるのか。相手の心理状態を読み解き、感情をコントロールする技術の裏側を知ることで、コミュニケーションを「テクニックの暗記」ではなく、人間心理の本質で理解できるようになるだろう。
例えば「本題は会話の後半に話す」のはなぜなのか。
前半の雑談の中で相手の言葉遣いや価値観を観察することで、後半に向けてどのように会話をしたらよいか、組み立てることができる。
スパイ術という特殊な分野から始まるが、最終的には汎用的なコミュニケーション理論に着地する、「明日使える知識」が満載だ。
「あざとい」会話術とは?
本書における「あざとい」とは、相手を騙したり操ったりすることではない。相手の心に寄り添い、互いにとって有益な関係を築くための戦略的なコミュニケーションだ。それこそが、本当の意味での「あざとい」会話術なのかもしれない。







