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2025.12.19

レビュー

【スパイの会話術】極限の現場で磨かれた38の鉄則──なぜビジネスに役立つのか

スパイに学ぶ会話術

TBS系ドラマ『VIVANT』や『SPY×FAMILY』を見て心を躍らせた方も多いだろう。堺雅人演じる乃木や、ロイド・フォージャーのスリリングなスパイアクションに魅せられながら、ふと疑問に思う。彼らはいかにして、目的を完遂できる優秀さを手に入れたのか?

『スパイに学ぶ「あざとい」会話術 ビジネスに役立つ諜報員の言葉の魔法』の著者であり、『VIVANT』の監修者でもある勝丸円覚氏によれば、スパイの最も重要な仕事とは「有力な協力者を作ること」であるという。
スパイは言葉巧みに人の心に入り込み、「人たらし」となって相手を操るようになって、はじめて一人前といえるのである。
勝丸氏はかつて警視庁外事課に勤務し、中国やロシア、北朝鮮のスパイを追う「スパイハンター」、他国の情勢を諜報する「スパイ」、そして各国のスパイとの連絡役「リエゾン」として活躍したスパイのプロフェッショナル。

本書は協力者のリクルート、人間関係の構築、情報の引き出し、相手の説得などを可能にした、コミュニケーションを基盤とした38の会話術の鉄則を学ぶことができる。理論だけでなく、現場での実体験も盛り込まれ、経験に裏打ちされたテクニックは刺激的だ。

物語の中では変装術や格闘技、驚異的な記憶力や観察力などが目を引くため、特別な存在に見えるスパイだが、実は会話をベースとしたコミュニケーション能力を日々磨いているという。言葉巧みに相手や大衆をコントロールするスパイの会話術は、情報収集、対外工作、妨害工作だけでなく、私たち一般人のビジネスや人付き合いにも応用できるのだ。

人の心に忍び込むテクニック

本書で最初に私たちが知るテクニックは、「身なり、口の聞き方、物腰のポイント」だ。「会話術の本なのに外見の話?」と思うかもしれない。しかし読み進めた私はこう感じた。
「なるほど、テクニカルな会話のやり取りを怪しまれずに行うには、あのような身なりや振る舞いが必要なのか」
ここで語られた「初頭効果」は、別の章でも応用されている。読み進めるにつれて、それまでに学んだ心理学的説明がつながり、人間の行動原理への洞察が深まっていく。この「知識がつながる感覚」が気持ちいい。

本書の大きな魅力は各テクニックにおける「なぜそうするのか」という心理的メカニズムの解説に重点が置かれていることにある。この心理解説こそが、スパイ術の核心だ。
なぜその言葉を選ぶのか、なぜそのタイミングで仕掛けるのか。相手の心理状態を読み解き、感情をコントロールする技術の裏側を知ることで、コミュニケーションを「テクニックの暗記」ではなく、人間心理の本質で理解できるようになるだろう。

例えば「本題は会話の後半に話す」のはなぜなのか。
会話の冒頭でいきなり本題に入ると相手が警戒してしまうことまでは予測できたが、私が思わずしびれてしまったのは次の一文だ。
前半の雑談の中で相手の言葉遣いや価値観を観察することで、後半に向けてどのように会話をしたらよいか、組み立てることができる。
次ページでは相手をリラックスさせて防御を緩ませるだけでなく、さらに相手から情報を引き出しやすくするための、まさにスパイならではの心理操作術が明かされる。有能なスパイの「会話の組み立て方」を覗き見る楽しさがあり、それでいて、ビジネスでの応用シーンがいくつも浮かぶ……。そんな締めくくりになっている。

スパイ術という特殊な分野から始まるが、最終的には汎用的なコミュニケーション理論に着地する、「明日使える知識」が満載だ。

「あざとい」会話術とは?

タイトルを見て、小手先の操作テクニック集を想像すると、良い意味で裏切られるだろう。実際に読んでみると、「あざとさ」はほとんど感じられない。むしろ人間心理への深い理解に基づく建設的なコミュニケーションへの姿勢がそこにある。

本書における「あざとい」とは、相手を騙したり操ったりすることではない。相手の心に寄り添い、互いにとって有益な関係を築くための戦略的なコミュニケーションだ。それこそが、本当の意味での「あざとい」会話術なのかもしれない。

レビュアー

中野亜希

ガジェットと犬と編み物が好きなライター。読書は旅だと思ってます。

X(旧twitter):@752019

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