PICK UP

2025.12.10

レビュー

New

なぜ生物種の96%が消えたのか?──生命史最大の事件、ペルム紀末の大量絶滅の謎

大量絶滅――なんとも刺激的で興味をそそられるキラーワードです。現代においても、レッドリストと呼ばれる絶滅が危惧される生物が話題になります。しかし大量絶滅となるとレベルが違う。一般的にパッと思い浮かぶのは、やはり恐竜でしょう。一時代を築いた地球上の覇者たる生物が、ある時期を境に忽然(こつぜん)と姿を消す。その原因は隕石衝突という説もありますが、本作で取り上げる大量絶滅は、恐竜が栄えるより前の時代、古生代ペルム紀末に起こった事件です。

幼少時、恐竜図鑑を夢中で読んだ私にとって、三畳紀、ジュラ紀、白亜紀という時代区分には馴染みがあるものの、三畳紀のひとつ前の時代であるペルム紀は初耳。本作では、一説には96%以上の海棲生物が絶滅したというペルム紀の大量絶滅事件を軸に、その前後において起こった生物たちの大きな変化、つまり生態系の大転換について解説しています。

令和っていつからだっけ?と、この数年の区分でさえ怪しい私にとって、億や数千万年という単位や耳慣れないカタカナが頻出する時代の話は少しハードルが高め。でも、あらかじめ大まかな区分を頭に入れておくと理解が深まりやすいです。本書にはそのための参考年表も掲載しているのでご安心を。

ペルム紀の大量絶滅、一体何が……!?

生物の分類単位における「科」で考えた場合に、カンブリア紀から現在までに5回の大量絶滅があったという論文があります。「ビッグ・ファイブ」と呼ばれるこの大量絶滅において、ペルム紀のそれは52%の海棲生物が絶滅(96%の数値は「科」より下位の「種」レベルでの数値)。恐竜が滅んだ白亜紀末の大量絶滅率は11%なので、これと比べてもペルム紀がいかに突出しているかがわかります。

そんなペルム紀の大量絶滅ですが、その原因については、実はまだ明確な仮説や証拠はないとのこと。この時代は、パンゲアと呼ばれるひとつつの巨大な大陸と、パンサラッサという巨大な海で構成されていた地球。陸と海がそれぞれひとつしかないというのは、リスクヘッジのない脆(もろ)い状態と考えることもできます。

実際に何が絶滅をもたらしたか、という問いに対して、本書ではいくつかの論文や書物をもとに、以下の6つの仮説を提示。
1.地球外天体の影響
2.大規模な火山活動
3.パンゲア超大陸の影響
4.大規模な寒冷化にともなう、全地球規模の海退
5.海洋の無酸素化
6.オリエント急行殺人事件説
※6は、絶滅の原因はひとつではなく様々な要因があることを意味する仮説名

ただし、本書の内容について「原因の謎解き」に迫るものではないと記されているように、テーマは「大量絶滅前後における生態系の転換」です。いくつもある仮説を踏まえながら、ここから本題へと入っていきます。

陸海空の様々な生物を網羅! 絶滅と生存の分かれ目や栄枯盛衰を紐解く

本書が取り上げる生物たちは多種多様。陸海空を網羅し、爬虫類や両生類に哺乳類、そして昆虫に魚、植物に至るまで、数多の生物における大量絶滅前後での変化を、2025年発表分を含む様々な論文や研究成果と併せて解説していきます。

多数ある興味深い解説の中から、ひとつピックアップしてみます。ペルム紀に陸上における支配者だった単弓類(四肢動物のグループ)に属するうちの2つ、ゴルゴノプス類とディキノドン類についての記述です。ゴルゴノプス類は肉食性の種で構成される大型種を主力とするグループ。一方のディキノドン類は60属超という多様性を誇る、小型種が主力のグループ。ゴルゴノプス類はペルム紀末に絶滅し、ディキノドン類は絶滅しませんでした。“生死を分けた”この違いについて、本書では次のように記しています。
一般的に、大型種は小型種よりも食料を必要とする。繁殖サイクルが長い種も多い。また、小型種に比べると個体数も少ない。いずれも、絶滅のリスクが相対的に高くなることに関係している。(中略)小型種は、大型種ほどの食料を必要としないほか、繁殖サイクルの短い種が多く、個体数も多い。また、より環境の影響の小さい地下に巣を構えることもできる。生態系では相対的に下位であった彼らは、環境の変化に強いのだ。
地上の覇権を握っていたゴルゴノプス類は滅び、そうではない小型種のディキノドン類が生き残る。生物における「強さ」とは一体なんなのか、考えさせられます。

多数のイラストや写真、さらには著者独特の記述でイメージが膨らむ!

初めて目にする専門用語やカタカナネームが並ぶなかで、より深く理解するために必要不可欠なのが、ビジュアルです。本書ではイラストや写真を駆使して、よりリアルにイメージできるようフォロー。名前も知らなかった未知の生物も、テキストによる生態解説とイラストによるビジュアル面での補完で、グッと現実味を帯びてきます。
また、著者ならではのユニークな描写は、本書を身近に感じさせてくれます。例えば、鱗木として知られるレピドデンドロンという植物の樹高が40メートルに達することについて著者は以下のように説明。
「40メートル」といえば、ガンダムを縦に2機並べてもまだ足りない高さである。
※『機動戦士ガンダム』でのガンダム(RX-78-2)の高さは18メートル
さらには頭胴長40センチメートル弱のプロキノスクスを説明する際には、著者の愛犬である生後2ヵ月のボーダー・コリーを引き合いに出し、
やんちゃ盛りであり、気がつけば、家中を走り回り、思わぬところで寝ている。ともすれば、蹴飛ばしそうになったり、踏んでしまいそうになったりする。そんなサイズだ。
と描写。今まで見たこともなかったプロキノスクスに、愛着すら湧いてきます。
大量絶滅という謎、そして絶滅前後の生態系の変化から、覇権の座を巡る生物たちのロマン溢れる栄枯盛衰の系譜まで、知性と感性を大いに刺激する生物たちの壮大な歴史物語が紡がれる本書。「新しい発見」を太古の化石から知る、その面白さにあらためて興奮してしまう1冊です!

史上最大の大量絶滅では何が起きたのか? 生物種の96%がいなくなった!? ペルム紀末の大量絶滅の謎

著 : 土屋 健
監 : 大山 望
監 : 木村 由莉
監 : 重田 康成
監 : 對比地 孝亘
監 : 中島 保寿
監 : 宮田 真也
監 : 矢部 淳

オンライン書店で探す 試し読みをする 詳細を見る 既刊・関連作品

レビュアー

ほしのん

中央線沿線を愛する漫画・音楽・テレビ好きライター。主にロック系のライブレポートも執筆中。

X(旧twitter):@hoshino2009

こちらもおすすめ

おすすめの記事

レビュー

生物は、なぜ進化するのか? 生命40億年の冒険が始まる!【進化論講義】

  • 岡本敦史
  • 動物
  • 科学

レビュー

約2億150万年前、生物が一斉に姿を消した。現在の地球にも現れつつある共通の異変!

  • コラム
  • 嶋津善之

レビュー

ネッシーからニホンカワウソまで。スマホで動画もクイズも楽しめる!動く図鑑「MOVE」

  • 生物
  • 花森リド

最新情報を受け取る

講談社製品の情報をSNSでも発信中

コミックの最新情報をGET

書籍の最新情報をGET