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2025.11.24

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葬式、墓、法事……いくら払うのが正解か? 弔いについて聞きたくても聞けなかったこと

本書を読んだ直後に、思いがけず近親者の訃報を受けた。慌ただしく葬儀の準備を進める中で、本書から得ていた知識や情報が、次々と実感を伴っていく。すべてが終わってから読み返すと、「弔いにかかる費用」の実像が、よりくっきりと浮かび上がった。

本書は1963年生まれの大久保潤氏と、1974年生まれの鵜飼秀徳氏による共著だ。大久保氏は日本経済新聞社で社会部や証券部、法務報道部などを経た新聞記者で、現在は東京本社くらし経済グループのシニアライターとして活動している。もう1人の著者である鵜飼氏は浄土宗の寺に生まれ、大学卒業後に報知新聞や日経ビジネスの記者を経て独立。2021年に寺を継いだが、「宗教と社会」をテーマに執筆や取材を続け、僧侶と書き手の立場を行き来する日々だ。

そんな2人が手がけた本書は、大久保氏による「利用者の本音」と、鵜飼氏による「寺の実情」の2本立てで、「弔い」「墓」「宗教」をテーマに各章が語られていく。この構成について、大久保氏は「はじめに」でこう触れている。
人は必ず死にます。普通はまず親が死に自分もいずれ死ぬ。親の弔いを経験し、自分はどう弔われたいかを考えます。この本は、生き方の最後に必ずやってくる弔いの具体的なあり方について参考にしていただけるように、利用者である新聞記者(大久保)の視点と、弔いの主催者である宗教者(鵜飼)の視点の双方の立場から自らの体験も踏まえてわかりやすく書くよう努めました。
第1章の「利用者の本音 親が死ぬと、いくらかかるのか?」では、自身の両親と妻の両親を亡くした大久保氏の経験が、実際にかかった費用とともにつづられている。特に、浴室で倒れた実母の突然の最期とその後については、こうした形での別れもあるのかと、胸が詰まった。

意外だったのは、第2章で紹介された「墓づくり」の話だ。近年、熱を帯びる墓じまいの動きから、てっきり日本の墓の総数は減っているものと考えていた。しかし、鵜飼氏が紹介する事実は、それとはまったく逆のものだった。
近年、墓じまいの受け皿となっている納骨堂や樹木墓、あるいは海洋散骨の普及によって旧来の墓石の需要が減ってきているのが実情です。しかし、墓をつくる動きが衰退しているわけではありません。
厚生労働省の『衛生行政報告例』(2023年度)によれば、全国での墓地数は増加傾向にあります。2020年度は86万8299ヵ所だったのが、2023年度では87万5200ヵ所と、7000ヵ所ほど増えています。納骨堂も1万3038施設(2020年度)だったのが1万3767施設(2023年度)と、3年間で700施設以上増加しました。「墓づくり」はむしろ、加熱しているのです。
ほかにも、本書で初めて知ったことがある。それは宗教法人への課税に関する話だ。第4章は執筆者2人の対談で構成されているが、その中で鵜飼氏は、社会に広がる僧侶への偏見や思い込みを否定し、納税の現状を明らかにする。
鵜飼 (前略)皆さんと同じでお坊さんはみんな税金を払っています。当たり前のことで、お寺から給料をもらって源泉徴収されて所得税もちゃんと払っています。そうじゃないと脱税じゃないですか。
大久保 そこをもうちょっと丁寧に説明した方がいいですよ。

鵜飼 宗教法人に入る収入に関しては、法人税、固定資産税、都市計画税というものに関しては課税されません。だけどそれはお坊さんという、いわゆる住職という個々人に対して税金がかからないということとは全然違います。
大久保 これは、ほとんどの人が理解していないと思います。
大久保氏の指摘通り、私も理解できておらず、申し訳ない気持ちになった。同時に、その後に続く鵜飼氏の「お坊さんの給料なんかしれてますよ。日経新聞の社員の方がよほどいいですよ」という率直な言葉には、つい笑ってしまう。いわゆる「坊主丸もうけ」といった揶揄は、妬みの一種でしかなく、礼を失するものであることがよくわかった。

弔いは、誰もが避けて通れない営みだ。本書はその実情を、「利用者」と「宗教者」という両面から丁寧に追っている。後悔を少しでも減らすために、2人の著者の言葉を手がかりに、弔いの現状とその費用を知っておくことを勧めたい。

レビュアー

田中香織

元書店員。在職中より、マンガ大賞の設立・運営を行ってきた。現在は女性漫画家(クリエイター)のマネジメント会社である、(株)スピカワークスの広報として働いている。

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