生きる力を引き出す犬たち

例えばお年寄りや病気をしたあとの人が回復するために、
・お年寄りや障がいのある人の歩くスピードに合わせて歩くこと
・車いすの人を誘導すること
・相手が立ち止まったら、じっと見つめてもう少し歩くのをうながすこと
といったサポートを通じてリハビリのつらさを和らげ、心に「生きようとする灯」を灯すのです。
セラピードッグたちのほとんどは雑種です。

『命をつなぐセラピードッグ物語 名犬チロリとその仲間たち』は、多くの人に勇気と希望を与えるセラピードッグたちの物語。
悲しい過去を持つ犬たちが誇らしげに、でも優しく人を支える姿に胸が熱くなります。実際に会ったことがなくても、写真を見ているだけで「頑張れ!」と応援したくなる、そんな素敵な犬たちの物語です。
「育ちのよさ」はなくても
そんなある日、大木さんは殺処分寸前だった雑種犬・チロリを救出します。大木さんのケンネル(犬舎)に迎え入れられたチロリは、少しづつ生活に馴染み、他の犬と打ち解けていきます。そして、がんを発症したセラピードッグ“ブラニガン”に寄り添い、励ますようになったのです。
チロリの誘導の仕方は、まさに病人やお年寄りのゆっくりした歩みに合わせて進む、セラピードッグの歩行そのものでした。
チロリは、夜もブラニガンに添い寝するようになりました。苦しい息のブラニガンを見つめるチロリは、まるで寝たきりのお年寄りのベッドで添い寝をするかのようでした。
愛され可愛がられて育った犬には育ちのよさがあるけれど、チロリのようなつらい経験を乗り越えた犬もまた、人の心に寄り添うことができるのでは?……大木さんは可能性を見出します。45教科もの訓練をマスターし、チロリは日本ではじめてのセラピードッグとなったのです。
「セラピードッグになれるのは血統書付きの”優れた犬”だけ」。チロリはそんな思い込みを覆しました。悲しい思いをしたチロリだからこそ、同じようにつらい人の気持ちがわかるのかもしれません。
優しさや共感力は生まれ持ったものではなく、苦難を乗り越える過程で生まれる……。大木さんに命を救われ、愛情をもらったチロリが多くの人に元気を与える姿を見ていると、そんな思いが浮かびます。
痛みから生まれる優しさ

困難な境遇にあっても、愛情と目的意識があれば道は開かれる――懸命に生きる犬たちの純粋なまなざしが、それを教えてくれます。つらい経験を重ねたからこそ持てる優しさの深さと、あきらめずに生きることの大切さが、あらためて胸にしみ入る物語です。