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2025.10.02

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寝たきりのお年寄りが奇跡のように歩き出す! 元・捨てられワンコのセラピードッグが癒しのお手伝い

生きる力を引き出す犬たち

緑のベストを着て、お年寄りの歩行練習に寄りそう白い犬。大きな優しい目で、歩く人を優しく見上げているのは「セラピードッグ」の“チロリ”です。
「セラピードッグ」とは、人々の心身の回復を支える犬たちのこと。医療・介護分野をはじめ、教育現場や復興支援など、さまざまな分野で活躍しています。
例えばお年寄りや病気をしたあとの人が回復するために、

・お年寄りや障がいのある人の歩くスピードに合わせて歩くこと
・車いすの人を誘導すること
・相手が立ち止まったら、じっと見つめてもう少し歩くのをうながすこと

といったサポートを通じてリハビリのつらさを和らげ、心に「生きようとする灯」を灯すのです。

セラピードッグたちのほとんどは雑種です。
彼らはさまざまな理由から飼い主と離れ「行き場を失った犬」たちでした。つらく悲しい経験をした犬たちはどのようにして、たくさんの訓練を乗り越え、人を支える存在になったのでしょうか?

『命をつなぐセラピードッグ物語 名犬チロリとその仲間たち』は、多くの人に勇気と希望を与えるセラピードッグたちの物語。
悲しい過去を持つ犬たちが誇らしげに、でも優しく人を支える姿に胸が熱くなります。実際に会ったことがなくても、写真を見ているだけで「頑張れ!」と応援したくなる、そんな素敵な犬たちの物語です。

「育ちのよさ」はなくても

著者の大木トオルさんは「国際セラピードッグ協会」の創始者です。かつてアメリカではセラピードッグは限られた種類の優秀な犬しかなれないものとされており、大木さんもアメリカから6頭の純血種のセラピードッグを日本に連れてきていました。

そんなある日、大木さんは殺処分寸前だった雑種犬・チロリを救出します。大木さんのケンネル(犬舎)に迎え入れられたチロリは、少しづつ生活に馴染み、他の犬と打ち解けていきます。そして、がんを発症したセラピードッグ“ブラニガン”に寄り添い、励ますようになったのです。
チロリの誘導の仕方は、まさに病人やお年寄りのゆっくりした歩みに合わせて進む、セラピードッグの歩行そのものでした。
チロリは、夜もブラニガンに添い寝するようになりました。苦しい息のブラニガンを見つめるチロリは、まるで寝たきりのお年寄りのベッドで添い寝をするかのようでした。
何も教えられていないのに、まさしく「セラピー」のような行動をとったチロリ。
愛され可愛がられて育った犬には育ちのよさがあるけれど、チロリのようなつらい経験を乗り越えた犬もまた、人の心に寄り添うことができるのでは?……大木さんは可能性を見出します。45教科もの訓練をマスターし、チロリは日本ではじめてのセラピードッグとなったのです。

「セラピードッグになれるのは血統書付きの”優れた犬”だけ」。チロリはそんな思い込みを覆しました。悲しい思いをしたチロリだからこそ、同じようにつらい人の気持ちがわかるのかもしれません。
優しさや共感力は生まれ持ったものではなく、苦難を乗り越える過程で生まれる……。大木さんに命を救われ、愛情をもらったチロリが多くの人に元気を与える姿を見ていると、そんな思いが浮かびます。

痛みから生まれる優しさ

「捨てられた」「体の一部を失った」「野犬として生まれついた」。チロリをはじめ、本書に登場するセラピードッグたちはみな、その生い立ちに大きなハンディキャップがあります。はじめは人を信じることもできません。しかし、「ピース」「幸」「福」といった希望に満ちた新しい名前と居場所、教育を与えられた彼らは生まれ変わったように輝き出します。
写真すべて/一般財団法人 国際セラピードッグ協会
セラピードッグと触れ合うことでその目に意志の光を取り戻す人、歩けるようになる人、食べられるようになる人……。犬たちはたくさんの人の心身を癒やします。

困難な境遇にあっても、愛情と目的意識があれば道は開かれる――懸命に生きる犬たちの純粋なまなざしが、それを教えてくれます。つらい経験を重ねたからこそ持てる優しさの深さと、あきらめずに生きることの大切さが、あらためて胸にしみ入る物語です。

レビュアー

中野亜希

ガジェットと犬と編み物が好きなライター。読書は旅だと思ってます。

X(旧twitter):@752019

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