お気持ちの前に、知財について知ろう!
知財とは略称で、正しくは、「知的財産」または「知的財産権」という。
「知的財産」とは、ざっくり言えば「人間の知的活動によって生み出された財産的な価値を持つ情報」などのことであり、「知的財産」に関する権利が「知的財産権」である。


その大波のひとつがAIだ。
よく話題になるのが、「AIが作り出したものに著作権などの知的財産権はあるのか?」問題。そもそも論として、上記の「知的財産権のマトリクス」にある「知的創造物」は、「人間が作り出したもの」であることを前提にしている、なのでAIは著作者になれないし、著作権は発生しない。でもAIの助けを借りた著作物や発明だとどうなのか? "すげー独創的なプロンプト(=AIに与える指示や質問)"を考えついたら、それに著作権はあるのか? など微妙な議論が多数ある。
ほかに「AIが作ったものが他人の知的財産権を侵害しているのではないか?」問題もある。たとえば最近、SNSのプロフィールアイコンで、AIで描かれたジブリ風自画像をよく見かける。「Ghiblification(ジブリフィケーション)」と呼ばれる画像だ。あれはスタジオジブリの知的財産権を侵害していないのか? 侵害していてほしいぞ! なんかムカつくから!
元の著作物の「表現上の本質的な特徴」を直接感得できなければ、「類似性」があるとはいえない。再現される画像がトロロやネコバスやカオナシであればアウトだが、そうでない場合、著作権侵害を問うのはなかなか難しいということだ。
知財は世界を動かしている
舞台は鉄鋼業界。中国や韓国の鉄鋼メーカーは、20世紀半ばから日本の技術援助を受けて発展。現在、その優位性は逆転している。そんななか2021年、日本製鉄がトヨタ自動車と中国の宝山鋼鉄を相手に、「無方向性電磁鋼版」という高機能鋼材に関する特許権を侵害したとして訴えを起こした。これは電気自動車の材料として重要な鋼材で、日本製鉄はトヨタに供給していたが、コスト面からトヨタは宝山鋼鉄からも同様の鋼材を調達した。日本製鉄は「その宝山鋼鉄の製品は特許権侵害品なので使用中止してほしい」と申し入れをしたが、トヨタが応じず訴訟となった。日本製鉄 vs.トヨタという超巨大企業の裁判! それも顧客を訴えたのだ。「トヨタじゃなく、特許を侵害している宝山鋼鉄を訴えればいいんじゃない?」と思うでしょ? 実は、無方向性電磁鋼版の特許は日本でしか特許化されていなかったので、中国で宝山鋼鉄を相手に裁判できなかったのだ。裁判するなら日本で、しかもトヨタを巻き込んで訴えるしかなかったのだ(ついでにトヨタと宝山鋼鉄を仲介した三井物産まで訴えたのだから、日本製鉄はめっちゃ怒ってる!)。
裁判自体は2年後、日本製鉄がトヨタと三井物産への申し立てを取り下げ、宝山鋼鉄との訴訟のみ継続することになる。
日本製鉄は中国での成長が難しいと判断し、完全子会社化したUSスチールのある米国のほか、インド、タイなどでの事業に注力していくという。
『世界は知財でできている』からこそ、知財を学べば世界が見えてくる。
その学びの入門書として、ぜひとも推したい1冊だ。