長寿の国ともてはやされた日本ですが、そんな時代も今や昔。今でも長寿国ではありますが、長生きと背中合わせともいえる「介護」が年々大きな課題となり、介護職の担い手不足や家族の介護疲れといった問題を抱えているのが現実です。
本作はそんな介護を、著者の実体験をもとに軽やかに描いたエッセイマンガ。石川県北國新聞で連載された8コママンガ『介護わはは絵日記』をまとめたもので、約100本ものエピソードを掲載しています。主人公は、著者である「なとみみわ(愛称はびーちゃん)」と彼女の義母、通称ばあさん。
ばあさんは、もともと一人暮らしをしており、友人も多く自由を謳歌(おうか)していたのですが、胆石の手術で数日間、入院することに。ところが実際には数ヵ月の入院となってしまい、その結果として認知・運動機能が低下。この状況で一人暮らしは難しいと診断され、著者の家族と同居することになります。本作は、そこからの10年間、最後に義母を見送ることになるまでの日常の出来事をポップなテイストで描いており、介護を経験したことがある人にとっては「あるある」に共感し、これから介護を控える人にとっては参考になる事例も豊富。笑って、ほっこりして、胸が少しきゅっとなる介護エッセイマンガです。
さっそくいくつかピックアップしてみましょう。
もうばあさんはいないけど、買ってくれたフリースはまだまだ現役。亡き人のぬくもりが感じられるエピソード。
実の親子ではなく、あくまで義理の母。簡単に親しい関係を築くのは難しいかもしれませんが、だからこそ、壁が取っ払われた時の喜びは大きいに違いありません。
「介護わはは絵日記」とあるように、おそらくは辛(つら)くしんどい瞬間だって多々あったであろう介護のあれこれを明るく紡いでいるため、読後感も爽やか。介護というとどうしても重く、疲弊するストーリーを思い浮かべてしまいますが、本作はリラックスして読むことができます。このテイストが成立する大きな理由は、義母であるばあさんの存在。彼女の優しい性格、いろいろな人や行為に対して「ありがとう」と伝える丁寧な姿勢にどんどん心惹かれていきます。また、そんなばあさんの優しい部分、かわいらしい部分をしっかり捉える著者の目線もさすがのひと言。
さらに、ばあさんの魅力的なキャラクターが感じられるエピソードも満載です。
介護において、幸せだと思う瞬間もあるでしょうが、大変なことのほうが圧倒的に多いはず。認知機能や運動能力の低下によって、様々なトラブルも発生します。当然、介護する側の人間はその影響を受けるわけで、時にはイライラすることも。そんなネガティブな一面もしっかり隠さず描くことで、本作はより立体的に介護を表現しています。
なかでもグッときたのが、著者がばあさんのために良かれと思って起こした行動が思わぬ展開へと発展してしまった16コマのエピソード。
血の繋がった家族、あるいは親友とだって意思の疎通がうまくいかないことはしょっちゅうあります。歳を取れば、そういったコミュニケーションの部分でもこれまで以上に苦労することでしょう。介護される側として、いろいろと世話をしてもらっていると自分の意見を強く主張しづらいということもありそうです。
一方で著者も、ばあさんのためにいろいろ頑張っているのに、協力的ではない相手の態度につい感情的になってしまう。その気持ちもわかります。でも、最後の最後でばあさんの心と向き合って、ふたりにとっての最適解を導き出す……。このエピソードは、介護の難しさを表すと同時に、人と人とのコミュニケーションという点でも大きな学びを与えてくれた気がしました。
この他にも、介護認定時にばあさんが張り切ってしまい、普段できないことも「できます!」と言ってしまったり、しょっちゅう物を失くしてしまい探し物に苦労したりと、介護生活における「あるある」話も。
また、各エピソードにもれなく付記された著者によるエッセイが後日談的にまとまっており、8コママンガと併せて楽しむことで各エピソードの解像度がグッと上がります。
自宅はもちろん、たとえ施設に入所したとしても、多くの人にとってまったくの無縁とは言えないであろう介護問題。きっとイライラや大変な思いをすることも多いでしょうが、本作のようにポップに、少しでも楽しく介護と向き合い、送り出すことができたらいいなあとしみじみ思いました。
それと同時に、そう遠くない未来にやってくる、自分自身が介護される側となる生活においても、ばあさんのように人に優しく、そして明るく過ごすことができたら……と思わずにはいられません。
レビュアー
ほしのん
中央線沿線を愛する漫画・音楽・テレビ好きライター。主にロック系のライブレポートも執筆中。
X(旧twitter):@hoshino2009