説明書には、副作用などに関する注意書きと併せて「夕食後に服用」「朝食前に服用」といった、「薬を飲むタイミング」も記載されています。「夕食後に服用」の場合、胃が空っぽの状態で服用すると胃が荒れるので何か食べてから飲んだほうが良い、くらいに考えて、特に疑問を持ったことなどありませんでした。
しかし、薬は飲むタイミング次第でその効果に違いが出る、という驚くべき事実が、本書によって明らかになります。
まだ日本の医療現場で普及していない「時間治療」の可能性
「生体リズム(バイオロジカルリズム)」という、私たちの体にもともと備わっている仕組みを臨床の現場に取り入れ、薬物療法に活かすという非常に画期的なもの
また、薬はその血中濃度が重要で、高く保たれる時間はその効果も持続するとのこと。
症状が悪化しやすい時間帯がわかっている疾患に関しては、その時間帯に薬の血中濃度が高くなるようにすることで、治療効果が高くなります。
患者となりうる私たちはもちろんのこと、臨床の場でもまだ活用されていない、この「時間治療」という考えに、がぜん興味がわいてきました。
夜型人間が抱える大きなリスクとは?
人の生体リズムは基本的に、夜=睡眠、朝=活動スタート。この流れのなかで、自律神経やホルモン分泌も変化し、血圧や呼吸、脈拍などの活動も関連してきます。そして地球の自転に沿った24時間に合わせる体内時計によって、規則正しいサイクルが保たれ、私たちの健康が守られているのですが、このサイクルが乱れてしまうと、様々なリスクが発生してしまいます。たとえば体温は、低くなることで睡眠が誘発されます。本来、日中は高く、明け方に最も低くなるというこのメカニズムも、体内時計が乱れることで、睡眠障害が引き起こされてしまうのです。さらには血圧の乱れ、糖尿病や脂質異常症、そして行き着く先は寿命への影響と、そのリスクは幅広い範囲に及びます。
大好きな夜を満喫しながら太く短い生涯を終えるか、それとも……。中学時代からン十年も夜型で生きてきた私にとって、めちゃくちゃ悩ましいところです。
本書には、朝型・夜型を判定する質問リストが付いているので、気になる人は自分がどの分類に当てはまるか確認してみましょう。
疾患別に記載された時間治療実践法が超便利!
個人的に気になったのは、私自身服薬治療している脂質異常症の項目でした。いわゆる悪玉コレステロールや中性脂肪が増えすぎて動脈硬化が進行→心筋梗塞や脳梗塞の可能性も……というやつです。この脂質異常症にはスタチン系と呼ばれる薬がよく使われていて、実際私もこの薬を飲んでいます。本書によると、通常スタチンは1日1回、朝食後に服用するそうなのですが、時間治療の観点からは、夕食後のほうが良いとのこと。コレステロールは夜つくられるので、それを阻害するために夕食後すなわち夜に飲むのが大事なのです。幸い、私がスタチンを処方された際に担当医から告げられたのは「就寝前に飲んでください」という言葉でした。時間治療という点で見ると、適切な指示を受けていたことになります。
このように本書では、時間治療とはどういうものか、その概要から詳細に至るまで解説しながら、具体的な病気や薬についても挙げて、なぜそうなのか、という根拠と共に適切な服薬時間を提示しています。
投薬治療の効果がなかなか見られない、あるいは薬の副作用に悩んでいるという場合に、
・薬を変える
・病院を変える
だけでなく
・薬を飲む時間を変える
という、ちょっとした変化ながら意外と大きな効果をもたらす選択肢が加わることになるかもしれません。