病気の背景にある「時間」
そんな不安を和らげてくれる本が『時間治療 病気になりやすい時間、病気を治しやすい時間』だ。
著者の大塚邦明さんによると、病気には「なりやすい時間」と「治しやすい時間」が存在するという。
たとえば朝は、心筋梗塞や脳梗塞、くも膜下出血や不整脈などが、他の時間帯に比べて生じやすいことがわかっています。そして、月曜日には心筋梗塞後の狭心症が発症しやすく、冬は夏に比べ、心臓死が33%も増えることが知られています。
一方で、同じ薬を同じ量服用しても、時間によってその効き方には歴然とした差が出ることも判明している。
タイトルにある「時間治療」とは、体内で時を刻む「体内時計」のしくみに基づき、従来よりも治療の効果を高めることを目的としている。本書はEBM(科学的根拠に基づく医療)を超えて「新たな標準医療」となることが期待される「時間治療」について、科学的な背景と最新情報をわかりやすく教えてくれる。
体と宇宙のリズム
病気には「なりやすい時間」と、「治しやすい時間」が存在するのですが、それはなぜでしょうか?
よく知られるのは「サーカディアン(概日)リズム」と呼ばれる約24時間周期の生体リズムだが、これには人間の睡眠、体温、血圧、自律神経などを調整する機能がある。人体の生体リズムはこれだけではなく、7日、1年、1.3年といった周期もある。ほかの動植物にもそれぞれの環境や生態に沿った生体リズムがあり、それを適切に機能させるための時刻を刻むのが「体内時計」だ。
体内時計は生体が地球環境に適応し、種を保存していくために欠かせない存在なのだという。
地球上に棲(す)むすべての生物に備わっていることから、体内時計を獲得することに失敗した生物は絶滅し、地球上から消え去ったとまで考えられています。

地上の人体に宇宙とシンクロするかのようなリズムが刻まれていることに、どことなくロマンを感じる。しかし一方で電球や旅客機の登場により「夜」や「距離」を意識せず生活できるようになった現代においては、生活時間と体内時計のズレが健康を維持する上での大きな課題になっている。
その連携にほころびがみられる時間帯が存在しているのであれば、その時間帯こそが、病気になりやすい「落とし穴」です。
生命と時間の関係に思いをはせる
「いつ食べれば」「いつ運動すれば」「いつ眠れば」体にいいのか、また体内時計の乱れを治すための食品といった具体的ですぐ取り入れられる方法が紹介される。プチ断食や7.5時間睡眠など、すでに「よい」と知られている方法もあるが、本書で「体内時計のしくみ」を知って実行することでより高い効果を得られそうだ。
高血圧やがんといった患者数が多く深刻な病についても、体内時計を整えること、生体リズムとの関わりを考慮した治療が結果を大きく左右すると知ることができた。「時を刻む」しくみがこんなにも「生きること」に関わっていることに驚く。
「時間治療」があらゆる病に対する標準治療となるまでにはもう少し時間がかかるのかもしれないが、生命と時間の関係に思いをはせつつ、その時を待ってみたいと感じた。