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2025.05.12

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職場、家庭、生成AIとの対話……あらゆる人間関係に使える究極のトリセツ

この世の対話方式は、大きく2種類に分類される。
日ごろ、何気なくしている対話に、二つのスタイルがあるってことだ。
誰もが、脳の中に、2種類の対話方式を持っている。そして、世界中の人がとっさに、この2種類のうちのいずれかを選択して、しゃべり始める。
千差万別、複雑怪奇、意味不明に思えるあらゆる対話に、運動方程式のような、美しい機構があったのである。

これが、私の人生で最大の発見である。
おそらく、この真実を探しに、私はこの星にやってきたのだと思う。

「タテ型思考」と「ヨコ型思考」の食い違いが会話に摩擦を生み出す

まあまあ大上段に振りかぶった導入で始まったな……というのが第一印象。

本書の著者である黒川伊保子氏は、コンピューターメーカーにてAI開発に携わっていた経歴を持つ。その中で男女の感性の違いや、言葉の発音が脳にもたらす効果に気づき、コミュニケーション・サイエンスの新領域を開いた研究者だ。

というより『妻のトリセツ』をはじめ累計100万部を突破している「トリセツシリーズ」の著者といえば、わかりやすいかもしれない。
誰もが経験する人間関係のイライラやモヤモヤに“目からうろこ”の解決策を提供する「コミュニケーションのスペシャリスト」である。

ということを踏まえると、冒頭の振りかぶり方にも一定の説得力が生まれてくる。

本書全体を通してメインになっている考え方は「脳の中には二つの答えがある」というもの。その二つを著者は「タテ型思考」「ヨコ型思考」と呼んでいる。

「タテ型思考」とは「遠くの一点に集中する思考」。
言うなれば「不変の真理を見抜く神」であり、一直線に目的達成に向かって突き進む思考回路を持っている。その分、相手の事情や心情を切り捨てたりしがちなので、相手に「酷い人」「人間味が欠けている」などと評価されがちな一面もある。

一方の「ヨコ型思考」は「周囲の変化をまんべんなく感知する思考」。
周囲の針の先ほどの変化も見逃さず、さらに過去にさかのぼって「多次元の気づき」を生み出す能力がある。

別の言い方をするならば、タテ型思考が「危機が発生したときに即座に適切な対応をする能力」ならば、ヨコ型思考は「危機が発生する前に異変を感知し、危機を回避する能力」ともいえる。

大切なのは、この二つに「絶対的な優劣」はない、ということ。人間が生きていく上では、このどちらも必要な能力であり、どちらの思考が生み出す答えも必要なのだ。

さらには、あらゆる人たちがあらゆる場面で、とっさにこのどちらかの回路を優先させて思考し、会話していることを知っておくことも大切だ。

一方が優先されるということは、少なくともしばらくの間、他方は「ないもの」になってしまう。そして「タテ型思考」優先の人と「ヨコ型思考」優先の人が会話をしていると、およそ噛み合わないことが多く「なぜあの人はわかってくれないのか」「なぜあいつはわかろうとしないのか」と、イライラやモヤモヤが溜まることになる。

この二つの思考の切り替えを効率的にできる人が「コミュニケーションの達人」と言われる人なのだそう。

「わかり合えることが当たり前」と思わない
それだけで圧倒的にコミュニケーション上の摩擦が軽減する

本書では第1章「脳に潜む二大感性」で「タテ型思考」および「ヨコ型思考」を定義づけ。それぞれの概要や特徴、長所や短所などを、日常的な具体例を挙げながら解説する。

続いて第2章「タテ型思考VS.ヨコ型思考」で、第1章に引き続き「タテ型思考」と「ヨコ型思考」についての詳細を解説。タテ型思考が優先されるべき場面と、逆にヨコ型思考が効力を発揮する場面、その二つの思考の持ち主が寄り添うことで何が起きるかなど、より具体的な例を挙げながら紹介する。

第3章「対話の奥義 ~ハイブリッド・コミュニケーション」から先が、本書の要の部分と言える。第1章、第2章で紹介した理論を下敷きに、タテ型思考とヨコ型思考の「対話の特性」を分析。そのうえで対話の奥義として、以下のふたつをシンプルに提示する。

(1)相手の話は、共感で受ける
(2)自分の話は、結論から始める

そのうえで、この二つの奥義を実践するために必要な決め事や心の持ち方、テクニックなどを紹介。「共感で受けるコツ」「結論から話すコツ」「雑談の大切さを知る」など、かなり具体的かつ実用的な「円滑なコミュニケーションのためのテクニック」を、じっくりと紹介している。特に印象的だったのは、以下の一節だ。
ネガティブな話は、結論から言わないとボコボコにされる
「相談があります」「報告があります」と前置きしたからといって、やはり「結論は先に、できるかぎり簡潔に」が基本。延々と事情を述べるのも止めよう。特に、ネガティブな事情は要注意。
ネガティブな報告をするとき、あるいはネガティブな提案をするとき、人は、つい事情から話してしまう。「〇〇の件、うまくいきませんでした」を言う前に、そこに至るまでの努力と不幸を先に聞いておいてもらいたい。「そんなに手を尽くしたのなら、しかたない」と納得しながら、結論を聞いてほしいからだ。
一文で手短に言えるならそれもありだが、事情が複雑だったり、話題が複数におよぶときは、やはり、どんなに言いにくくても、結論から言わなくてはならない。理由は、あなた自身の身を守るためだ。
この一節に続く「タテ型思考」と「ヨコ型思考」のコミュニケーションの食い違いは、私もどちらの立場でも経験があるな……と刺さってしまった。

最後の第4章「今、対話力が問われる時代」では、これまでの3章を下敷きにしつつも、そこから一歩先に踏み込んで、AI時代と言われる現代社会における「対話力の大切さ」について解説。「無駄話ができないと、企業価値が創生できない」「対話力の低い上司は、部下の発想力を奪う」に始まり、「ダメ出しの危険性」「自己肯定感とは」「『すみません』を『ありがとう』に換える」など、より具体的かつ実用的な「対話の上級者」への道標が示されている。

私自身がこの本でもっとも学んだことは「わかり合えることが当たり前」だと思わないこと。それだけで圧倒的に、コミュニケーション上の摩擦が軽減する。個人的にもその意識はすでに持っているつもりだったが、そこに太鼓判を押してもらったような気分になれた。
著者がコミュニケーションの専門家だけあり、構成も表現も極めて平易でわかりやすく、流し読みするだけでも実践的な「コミュニケーションのコツ」が頭に入ってくる1冊だ。

レビュアー

奥津圭介

編集者/ライター。1975年生まれ。一橋大学法学部卒。某損害保険会社勤務を経て、フリーランス・ライターとして独立。ビジネス書、実用書から野球関連の単行本、マンガ・映画の公式ガイドなどを中心に編集・執筆。著書に『中間管理録トネガワの悪魔的人生相談』『マンガでわかるビジネス統計超入門』(講談社刊)。

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