平均寿命よりも健康寿命が気になる
となると気になるのが「年を取ってからの自分」だ。果たして元気なのだろうか。どんなふうに生活すれば、元気でいられる可能性が上がるのか。
ブルーバックスの『健康寿命と身体の科学 老化を防ぐ、50歳からの「運動・食事・習慣」』は、運動疫学とミドル~シニア層の日本人を対象にした研究成果を基に、老いの仕組みと健康法を解説する本だ。つまり日本人の体質やライフスタイルにマッチした内容となっている。
本書が主に取り扱うのは「健康寿命を延ばすライフスタイル」だ。「健康寿命」とは「健康上の問題で日常生活が制限されることなく生活できる期間」であり、著者の樋口満先生は「『平均寿命』と『健康寿命』のあいだに大きな差がある(中略)。平均寿命と健康寿命の差は、『日常生活に制限のある“不健康な期間”』の長さに等しいといっていい」と指摘する。
平均寿命がグングン延びている日本人だからこそ、健康寿命も伸ばしたい。では何をすればいいのか。たとえば「運動をしましょう」というのはよく言われる話で、運動の大切さについてみんなうすうす感じてはいるが、つい後回しにしがち。
後回しにしがちだが、こんなグラフを示されたら後回しにしている場合ではないと思うはずだ。

でも「運動」にもいろいろある。本書を読むと、単に運動すればいいという話ではないことがわかる。とても面白い。
ミドル~シニア層は、それぞれの世代でどのような運動をどのくらい続ければいいのか。そして注意点はあるのか。ケガも心配だ。そうした疑問をエビデンスつきで解消してくれる本だ。最近メディアでも頻繁に取り上げられている「フレイル」や「ロコモティブシンドローム」、そして「サルコペニア」への理解も深められる。
運動習慣がない人も、ある人も、ぜひ読んでほしい。
「老い」と「酸化ストレス」
対をなさない電子(不対電子)をもつ分子(フリーラジカル)は、細胞内に存在するさまざまな物質(脂肪酸、たんぱく質やDNAなど)に容易に反応します。その酸化ストレスが、人間では中年期から著しく増加し、生体の機能低下につながっていると考えられているのです。
ところで、酸化ストレスについて聞きかじったことのある人なら、「運動のしすぎで、酸化ストレスが発生する。つまり運動のしすぎは老化につながるのでは?」なんて説を目にしたことがあるかもしれない。こっちは楽しくて運動しているし、あわよくば健康にもメリットがあるといいなあなんて期待していたのに、どうすりゃいいのだ。
こんなジレンマや、運動と老化のつながりについて、著者の樋口先生がかつて取り組んだ研究を軸に詳しく述べている。読んでよかった!
本書は、私たちが良かれと思ってやっていることの科学的な仕組みと、バランスの大切さを学べる本だと思う。
たとえば私のような筋トレ愛好家がぜひ気をつけておきたい動脈硬化リスクとその対策について学べてとてもよかった。そして食事についても、たんぱく質を積極的に摂取するべき世代と、そうでない世代があることや、「オメガ3脂質は体にいい」と聞いてせっせと青身魚を食べ続けていたが実は酸化ストレスと関連するのだと知ってギョッとした。もちろん、ちゃんと予防法も教えていただけた。
「筋トレでやせる」のは本当だけど?
筋トレはサルコペニア予防のためにも推奨されている運動ですが、筋トレをして筋量を増やせば、基礎代謝が上がり、休んでいてもエネルギー消費が亢進して、やせる(体重、とくに体脂肪を減少させる)ことができるのでしょうか。
結論からいうと、「筋トレをすればやせる」というのは本当です。それは主として、筋トレによって消費エネルギーが増加するためです。(中略)筋肉そのものの増加によるエネルギー消費量の増加は、13kcal/日でしかありません。それに対して、1回(30分程度)の筋トレでは、おおよそ150~200kcalの消費が期待できます。筋肉量の増加を焦る必要はありません。
そう、本書は、いろんな運動を好きになってしまう本でもある。ウォーキングにもスイミングにもそれぞれいいところがあり、科学的に「どう体にいいのか」が示されている。樋口先生のスポーツ愛が伝わってくることも本書の魅力だ。
特に、シニア世代がケガのリスクを抑えつつ取り組めるスポーツとして紹介されているローイング運動の楽しそうなことといったら!
しかも心肺体力と筋力のどちらにも有効だそうで、こんなエビデンスも示される。

すっかり乗り気になってエクササイズ・チューブをネットショッピングでいそいそと探しているうちに、やがて樋口先生が本書で述べていたこちらのメッセージを思い出した。
私は運動・スポーツを健康のための手段でなく、それ自身が目的になることを願って「動楽」を提唱しています。そして、食事も「栄養がある」とか、「健康にいい」というだけでなく、健康によいものを楽しく食べるということで、あわせて「食楽」もお奨めしています。科学的エビデンスをふまえても、やはり「動楽」と「食楽」が、アクティブ・シニアであり続ける最大の秘訣だと確信しています。