「書きたい気持ち」がわいてくる
著者の尾崎俊介さんは、アメリカ文学・文化を講じる傍ら、30年以上にわたって学生の卒論指導に携わってきました。本書はその「指導のキモ」をまとめたものです。
「論文って、何をテーマに書けばいい?」「何枚くらい書けばいいの?」「はじめの1行を書き出せない」「どんな資料を、どのくらい集めればいいの?」……といった、論文を書くうえで直面する悩みごとへの、具体的でシンプルな解決方法を教えてくれます。
たとえば、論文やレポートを書くにあたり、多くの人が頭を悩ませる「最初の1行」。尾崎さんの「とっておきの対処法」はこうです。
「自分が書こうとしていることを、人に話してみなさい」とアドバイスするんです。ここで重要なのは書くのではなく、人に話すというところ。
そうすると、どこから話し始めるべきかは、たちどころにわかります。自分が調べていることを人に伝えるとしたらまずはここから話すべきだな、という勘所(かんどころ)は誰にでもすぐに分かる。
それです。その「ここから話すべき一節」こそが、卒論の最初の一行です。
そして本書にはもう一つのテーマが隠れています。それは「実際に学生たちが書いた卒論を通じて、アメリカ文学やアメリカという国の面白さを伝える」こと。
「お墓」「社会におけるバービー人形の役割」「ゲーテッド・コミュニティ」「肥満」……。学生たちは尾崎さんの言葉を借りれば「ヘンテコリン」なことを徹底的に調べ上げ、アメリカという国の核心を捉えるような興味深い論文を書き上げています。たくさんの実例は本書のノウハウを自分の論文に投影する際のヒントにもなります。「自分にも書けるかも」「書いてみたい!」そんな気持ちがわいてくるはずです。
「書くこと」へのプレッシャーをなくしてくれる
ここでもっとも重要なことは
自分にとって興味のあることについて書く
しかし、これこそが論文を書く作業を楽しくし、良い仕上がりに近づける秘訣であり、ひいては
自分にとって一番興味のあることは何かを考えることは、自分が何者であるかを考えることに他ならない
ここは論文が「義務」から「取り組んでみたいこと」に、一歩近づいたパートでした。
目からウロコだと感じたのが、第5章「笑いを取って、つっこむ」です。
論文のような“真面目なもの”の中で取る“笑い”とは?という疑問への答えは、そのまま「優れた学術論文」の定義となっています。
論文を書くうえですぐに知りたいところ、気になるところから読むのもいいでしょう。たとえば、第7章「卒論の構成」には、多くの学生が最初に抱く疑問への答えがあります。
Q:論文って、どのくらいの枚数を書けばいいの?
A:(中略)こと卒論に限定しますと、文系の卒論であればA4の用紙に打ち出して、全体で40枚程度の分量があれば十分なのではないかと個人的には思っています。
「言語化」のための優れたノウハウ
論文なんてせいぜい「根拠のあるゴシップ」だと思えばいい。
さあ、このゴシップを分析してみよう。まず「ねえねえ、聞いて! すごい話聞いちゃったのよ!」という部分で、これから自分がおもしろい話をすることを予告し、聞き手の注意を促したわけだ。
要するに論文もこの調子でいけ、ということなのだ。簡単だろ?