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2025.03.05

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あの老舗企業が突然の破綻! 運命の分かれ道を帝国データバンクが調査・レポート

倒産は、企業経営の一つの区切りとなります。創業間もない企業ばかりでなく、業歴100年を超える企業まで、倒産に至るリスクは常にあります。そこに至るには経済環境であったり、運・不運があったり、ちょっとした経営判断のミスであったり、様々な要因があります。そもそも会社を設立した当初から「倒産」することを考える経営者はいません。また、業績を拡大し続けることも決して容易ではなく、平家物語の冒頭の一文を想起させるような事例は枚挙にいとまがありません。最終的に行き詰まるにはそれぞれ個別の原因があります。
その事例をしっかりと読み解き、本書が“転ばぬ先の杖”として読者の皆さまの一助になれば幸いです。

信用調査のプロ中のプロが記す「倒産する企業の見分け方」

2023~24年はいわゆる「コロナ明け」の影響で、それまで苦しかった外食産業ほか中小企業が息を吹き返すかと思われていた。しかし、コロナ関連の補助金の停止、過度な円安、エネルギー高などに起因する物価高、それらを価格転嫁できない賃上げの遅さ、人手不足による人件費の高騰などさまざまな要因が積み重なり、むしろ中小・零細規模の企業の倒産は増加傾向にあるという。

『なぜ倒産 運命の分かれ道』の著者は「帝国データバンク情報統括部」。帝国データバンクといえば全国の企業情報を収録した、日本最大級のデータベースだ。企業の信用調査の分野では他の追随を許さないプロフェッショナルであり、金融機関が行う融資の可否判断や与信判断は、同社がモニタリングする企業の状態変化情報などが極めて重要な指標となっている。

本書では、コロナ過を経た2021年以降、2024年までに倒産に追い込まれた26の企業について、創業以来の道のりから経営が行き詰って倒産に追い込まれるまでの大まかな流れが、関係者への調査などで判明した詳細なエピソードも織り交ぜつつ紹介されている。

取り上げられている企業は「業界の風雲児」的な持ち上げ方をされた若手経営者による「ユニコーン候補」だった企業もあれば、北米で日本のテレビメーカーとしてトップシェアに輝いていた大手家電メーカー、特定のジャンルで一時代を築いた出版社なども。
※「ユニコーン企業」とは「評価額が10億ドル以上で、設立10年以内の未上場のベンチャー企業」のこと。投資家に莫大な利益をもたらす可能性のある企業。

身近なところでは、倒産の当日まで取引先にも一般の顧客にも「安定した人気のチェーン店」だと思われていたベーカリー、大手スーパーの進出で苦境に立った地元密着型の食品スーパーなど。さらには官製ファンドから巨額な資金が投入されながら、一度も結果を残すことができなかった「有機ELディスプレイパネル製造事業」に特化した合弁会社も登場。

倒産の要因はさまざまだが、倒産に至るまでの流れには意外なほど共通点がある。やはり特に多く登場する言葉は「粉飾決算」だ。特に悪質な例として、創業からほどなく粉飾決算に手を染め、しかも数十年にわたり貸付金が経営者の遊興費やギャンブル、高級ブランドの購入等に使われていた例まで上がっていた(後に刑事告訴され、実刑判決を受けている)。
この経営者の豪遊は、地元の繁華街では有名だったらしい。おそらく私的流用を繰り返していく中で、罪悪感も麻痺してしまっていたのだろう。

さまざまな企業の思わぬ「人間くささ」を感じられる1冊

本書のラストでは、2024年10月24日に東京地裁より破産手続き開始決定を受けた大手家電メーカー「船井電機」の最新レポートとして、倒産当日、現地取材による生々しい「最後の一日」のレポートが掲載されている。

船井電機ほどの大手企業の倒産当日、社内の様子はどのようなものだったのか。
ほぼ日常と変わらない通勤風景。
午後1時半になり、突然閉じられた正面の門扉、最上階の大会議室に集められた従業員。
夕刻に出た正式リリース。
帰宅時に、戸惑いを見せながらも取材に対して誠実に対応する従業員たち。
一方でマスコミ等に対して、まともな情報を(その日は)ほとんど出さなかった経営陣……。

本書を読んで改めて感じたのは、さまざまな企業の思わぬ「人間くささ」だ。
先の「悪質な経営者」の例の中で、大手家電メーカーの名前も冠していたこの会社が「実は危ない会社である」と事前に判断できた(かも知れない)要素を、次のように上げている。
最後に今回の倒産のケースで、粉飾決算を見抜けたかもしれない、あるいは融資先として不適切と判断できたかもしれないポイントを紹介する。
・税務申告書表紙の税理士印が簡易な「認め印」
・融資の大半が担保を取らないプロパー融資
・リース契約の際、現物納品確認を拒否
・月次の試算表が開示されない、もしくは拒否
・メインバンクでも社長とのアポイントが困難
・社長の自宅・拠点が確認しづらい県外(福島県)
・同業者に社長の金遣いが非常に荒いのが有名

金融機関にとって試算表の入手は特に重要な要素だ。粉飾決算を行っている場合、同時に矛盾なく複数作成することは煩雑で難しいため、正当な理由なく「開示されない」「拒否された」場合は疑うポイントになるだろう。社長の金遣いの荒さもその資質を判断できるポイントの一つだ。
おそらくすべて「後から考えてみたら、あのときのアレが怪しかった……」と思い出せるポイントだろう。この一節に続いて、同じページの中で次のように述べられている。
一方向の情報だけをうのみにする「性善説」だけでは危険。疑ってみてばかりの「性悪説」では取引・売り上げを増やせない。大事なのは「性善説」と「性悪説」のバランス。先入観なしで複数の関係者などから事実を確認していくことが重要であると改めて感じた倒産劇だった。
本書に登場した経営者たちも、わりと早めのタイミングで「このままいくと破滅の道だ」と頭の奥の方ではわかっていた人も多いだろう。それでもその声を打ち消しながら「いや、なんとかなるはずだ」と必死で動き回り、最後に破綻していく。
もしくは度重なる不正会計、粉飾決算にいつしか麻痺してしまい、思考停止して「今、そのとき」を楽しむ方向に舵を切ったり、最後には連絡を絶ったり(逃げ出したり)してしまう。
語弊があるかもしれないが「極めて人間くさくて、ある意味、愛おしさまで感じる」。

特に悪質な粉飾決算の例などは「流石にダメすぎ」と普通に言いたくなる気持ちもあるが、仮に自分がその立場に立ったとしたら、正直「必ず正しい道を選ぶ」自信など微塵もない。追い詰められたら正常な判断力を失ってしまいがちなのが、人間だと思う。

やはり「企業とは人」なのだな、と改めて感じた。

レビュアー

奥津圭介

編集者/ライター。1975年生まれ。一橋大学法学部卒。某損害保険会社勤務を経て、フリーランス・ライターとして独立。ビジネス書、実用書から野球関連の単行本、マンガ・映画の公式ガイドなどを中心に編集・執筆。著書に『中間管理録トネガワの悪魔的人生相談』『マンガでわかるビジネス統計超入門』(講談社刊)。

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