「宇宙の涯て」を知る数学
そして身近な世界だけでなく「宇宙」を見せてくれる数学もあるという。その入門となるのが『宇宙が見える数学 結び目と高次元――トポロジー入門 』だ。著者の小笠英志氏によると「位相幾何学(トポロジー)」とは「図形がどういう形をしているかを研究する数学の分野」だという。
その結果、多くのすごいことがわかっています。
読者のあなたは、今地球にいます。そして、地球で宇宙船に乗ります。その宇宙船で地球から宇宙に出発します。
方向をひとつ決めて、宇宙をどんどんまっすぐ進みます。さて、どこに行くでしょうか? 宇宙船はいくらでも長く飛べるとします。
もといた場所に戻るということは、(特別な、ものすごく高性能な)天体望遠鏡で遠くを覗くと、(ややSF的誇張がありますが)自分の頭が見えるということです。
本書は「数学」を道案内に「宇宙の涯て」を探す旅に私たちを連れ出してくれる。難しい数式ではなく、図やイラスト、時に紙やペンを利用して位相幾何学の概念をわかりやすく解説してくれる。ペットボトルと靴下で工作をしながら考えていると、4次元空間が現れたりもする。宇宙はどんな形をしていて、「有限」の先には何があるのだろうか? 考えるための助けになってくれる。
宇宙を理解するための幾何学
宇宙は少し“曲がっている”ということが、アインシュタインの一般相対論により予言され、実験で確認されました。彼は、あなたの手の届く範囲の空間も少しは“曲がっている”と主張しています。理論物理学者は、これらを正しいと信じています。
天体の質量により周囲の空間は曲がるのだが、たて・よこの方向がある平面・二次元も、三次元の方向に曲がる、つまり平面なのに曲がった状態に変形することができるのだ。この右の図は、「二次元球面」と呼ばれるのだそう。
そうです、その空間より次元の高い空間の中で、空間は曲げることができます。
4章では4次元のイメージを使って「宇宙をまっすぐに進んだら、もといた場所に戻ってくる」についての解説がなされている。4次元、5次元といった高次元の世界となると概念図を思い浮かべるだけでも大変だが、本書では150点もの図が私たちの想像力を補ってくれる。
位相幾何学という数学の世界に初めて触れるにあたり、高次元を見る・理解するための大きな助けとなるのが本書で紹介する紙工作だ。
「アニュラス」「メビウスの輪」といった曲面を作り、真ん中からカットしてみるプロセスから、タイトルにもある「結び目」、「絡み目」が出現する。
結び目や絡み目にどのようなタイプが、またどのような性質があるかを研究する分野が「結び目理論」と呼ばれており、宇宙の形や構造を理解するために、結び目理論は重要な役割を果たすと考えられている。
先の工作パートを読んでいるだけでも何ができるかはわかるが、できれば紙とハサミを用意して取り組んでみてほしい。最終章で再度触れる「結び目」について、考える楽しさが増すはずだ。
ごく気軽な気分で読めるのに、高次元空間や宇宙の形といった普段は想像することの難しい世界を垣間見ることができる本書。数式はなくともやはりこれは数学の話だと感じるし、数学が宇宙の謎を解き明かすための強力なツールであることを実感できるだろう。数学に興味がある人、宇宙の謎に興味がある人、ちょっと変わった視点から世界を見てみたい人におすすめしたい1冊だ。
図版作成:長澤貴之