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2024.12.25

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宇宙をまっすぐ進むともといた場所に戻る! 結び目と高次元の不思議な世界

「宇宙の涯て」を知る数学

学生時代は数学を「ただ難解なもの」と思っていた。しかし学業から離れてみると、雪の結晶が美しい理由、名刺やクレジットカードに潜む黄金比など、数学は私たちの身の回りに隠れていてさまざまな「世界の見かた」を教えてくれるものだと気づく。

そして身近な世界だけでなく「宇宙」を見せてくれる数学もあるという。その入門となるのが『宇宙が見える数学 結び目と高次元――トポロジー入門 』だ。著者の小笠英志氏によると「位相幾何学(トポロジー)」とは「図形がどういう形をしているかを研究する数学の分野」だという。
その結果、多くのすごいことがわかっています。
とても興味をそそられるが、やはり難しい本なのではないだろうか? そんな懸念に反して、本書の冒頭の問いかけはこんなワクワクするものだ。
読者のあなたは、今地球にいます。そして、地球で宇宙船に乗ります。その宇宙船で地球から宇宙に出発します。
方向をひとつ決めて、宇宙をどんどんまっすぐ進みます。さて、どこに行くでしょうか? 宇宙船はいくらでも長く飛べるとします。
この問いに対するひとつの可能性として「どんどん進むと、自分がもといた場所に戻ってくる」というものがある。そして宇宙の大きさは有限で、「端」もないという。
もといた場所に戻るということは、(特別な、ものすごく高性能な)天体望遠鏡で遠くを覗くと、(ややSF的誇張がありますが)自分の頭が見えるということです。
ん? どういうこと? 不思議な気持ちになってくる。しかし数学的には、このようなものを「宇宙のモデル」として作ることができるという。
本書は「数学」を道案内に「宇宙の涯て」を探す旅に私たちを連れ出してくれる。難しい数式ではなく、図やイラスト、時に紙やペンを利用して位相幾何学の概念をわかりやすく解説してくれる。ペットボトルと靴下で工作をしながら考えていると、4次元空間が現れたりもする。宇宙はどんな形をしていて、「有限」の先には何があるのだろうか? 考えるための助けになってくれる。

宇宙を理解するための幾何学

位相幾何学(トポロジー)は、「図形を引っ張ったり伸ばしたりして重なるかを考える」学問だという。
宇宙は少し“曲がっている”ということが、アインシュタインの一般相対論により予言され、実験で確認されました。彼は、あなたの手の届く範囲の空間も少しは“曲がっている”と主張しています。理論物理学者は、これらを正しいと信じています。
それを表したのがこの図である。
私たちがイメージしがちな宇宙空間から平面を切り取った図が、左のように平面であるのに対し、実際には宇宙は曲がった空間であるという。平面なのに曲がってるってどういうこと?

天体の質量により周囲の空間は曲がるのだが、たて・よこの方向がある平面・二次元も、三次元の方向に曲がる、つまり平面なのに曲がった状態に変形することができるのだ。この右の図は、「二次元球面」と呼ばれるのだそう。
そうです、その空間より次元の高い空間の中で、空間は曲げることができます。
先の図のような3次元はもちろん、4次元、5次元、6次元といった高次元空間でも空間は曲がる。本書は曲げ伸ばしができ伸び縮みさせられる素材のようなものや、自在に曲げられる線分や円により、「結び目」「高次元」「宇宙モデル」を考えながら進んでいく。この自由に動く素材をしっかりイメージすることが宇宙の構造をとらえる意味でも、本書の世界に素早く入り込み楽しむ意味でも大きなポイントになる。

4章では4次元のイメージを使って「宇宙をまっすぐに進んだら、もといた場所に戻ってくる」についての解説がなされている。4次元、5次元といった高次元の世界となると概念図を思い浮かべるだけでも大変だが、本書では150点もの図が私たちの想像力を補ってくれる。

位相幾何学という数学の世界に初めて触れるにあたり、高次元を見る・理解するための大きな助けとなるのが本書で紹介する紙工作だ。

「アニュラス」「メビウスの輪」といった曲面を作り、真ん中からカットしてみるプロセスから、タイトルにもある「結び目」、「絡み目」が出現する。
「結び目理論」の「結び目」とは、数学的には左のような「線を曲げて結んだもの」ではなく右の「円周を結んだもの」を指す。
正確には「円周1個を三次元空間に自己接触なく置いたもの」を結び目と呼ぶので、何のひねりもない円周もまた結び目である。複数(n個)の円周であれば「n成分絡み目」と呼ばれるものになる。ここで「自己接触」とは、決められた点以外が他の点と接触していない状態であることをいいます。
結び目や絡み目にどのようなタイプが、またどのような性質があるかを研究する分野が「結び目理論」と呼ばれており、宇宙の形や構造を理解するために、結び目理論は重要な役割を果たすと考えられている。

先の工作パートを読んでいるだけでも何ができるかはわかるが、できれば紙とハサミを用意して取り組んでみてほしい。最終章で再度触れる「結び目」について、考える楽しさが増すはずだ。

ごく気軽な気分で読めるのに、高次元空間や宇宙の形といった普段は想像することの難しい世界を垣間見ることができる本書。数式はなくともやはりこれは数学の話だと感じるし、数学が宇宙の謎を解き明かすための強力なツールであることを実感できるだろう。数学に興味がある人、宇宙の謎に興味がある人、ちょっと変わった視点から世界を見てみたい人におすすめしたい1冊だ。

図版作成:長澤貴之

レビュアー

中野亜希

ガジェットと犬と編み物が好きなライター。読書は旅だと思ってます。

X(旧twitter):@752019

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