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2024.11.28

レビュー

介護ブログでランキング1位! 介護のお医者さんが教えるわかりやすい入門書

WHOが2024年に発表した統計によると、日本は世界の平均寿命において、男女合計で世界1位という長寿を誇ります。しかし、長寿=めでたい、だけはありません。寿命が延びることで必然的に「介護」と向き合う必要も出てきます。私にも高齢の両親がおり、介護はまさに自分自身の問題でもあります。ただ、ひと口に介護と言っても、在宅で行うのか施設に入所するのか、そもそも誰に相談すればいいのかなど、わからないことだらけ。そんな私のような介護初心者にうってつけなのが、本書です。

高齢者福祉・介護ブログ村ランキング1位を記録した、実際に介護老人保健施設の施設長でもある著者が、介護にまつわる様々な情報を整理し、わかりやすく解説している介護の入門本ともいえる本書。

他の介護本ではあまり紹介されない「老健」に注目!

本書が他の介護ガイド本と一線を画す大きな特徴のひとつ、それが「老健」という施設の解説です。老人ホームやグループホーム、特養などは聞いたことがありましたが、介護初心者な私にとって初耳の単語。著者いわく「この施設を正しく理解し、うまく活用することが介護を楽にするポイント」とのこと。

本書で触れている「老健」の正式名称は「介護老人保健施設」。要介護1以上の人が入所でき、また要支援の人でもショートステイやデイケアなど入所以外のサービスが利用できる施設です。老健には、ここでのリハビリを経て在宅で生活できるようにするという目的があり、入所は3ヵ月という決まりがあるのですが、実は3ヵ月で強制退所というわけではありません。

さらに、老健は正しくは介護施設ではなく医療施設であり、他の介護施設と違って常勤の医師がいることも強み。管理栄養士も常勤しており、入所から3ヵ月の間は基本的にほぼ毎日、専門職によるリハビリを実施します。

このリハビリが介護保険*で使用できるのが老健の特徴です。同じ介護保険が適用される特養やグループホーム(一部適用)で、リハビリがある施設はほとんどありません。また、民間の有料老人ホームのリハビリは高額になる傾向があります。
*負担率は1割~3割と年収により違う

ただし、終身施設ではないため紹介するケアマネージャーが少なく、その存在自体があまり知られていません。老健という施設の存在を実はとてもお得で便利に使えるがゆえに、「誰かが秘密にしているのでは?」と思うほどと著者が言うくらいです。

また、老健に入所すると「わたしの20年の体感では8割強の方が元気になります」と著者も述べており、実際、老健に入所した結果、寝たきりの人が歩けるようになったり、認知症が改善したりすることもあるそう。脳や体力が衰え、日々不便を強いられるひとり暮らしの高齢者でも、生活の質が向上する可能性がおおいにあるという老健の効果には注目に値します。

様々な介護施設の特徴がまるわかり!

この老健を筆頭に、サービス付き高齢者住宅(サ高住)や有料老人ホーム、グループホーム、特別養護老人ホーム(特養)など、各施設の特徴やメリット、デメリットも解説しています。先ほど触れた老健も、もちろんメリットだけではありません。老健は、入所中の医療保険が使えないため、医療費を施設が10割負担します。これは施設の負担が大きいので、高い薬を使用していたり頻繁に病院を受診したりする人は入所を断られることがあるそう。また、病院へ入院した場合は老健を退所しなければなりません。

サ高住は「自身である程度生活ができる人、ひとり時間を楽しめる人」に向いている施設。有料老人ホームは、一般的にサ高住より介護が充実しており、費用は大きな差があります。そのため同じような生活を送ってきた人が集まるので友達ができやすいといったメリットも。グループホームは、認知症の診断を受けた人が入居できる施設で、とくに歩ける認知症の方が9人以下のユニットを組んで共同生活をする施設です。ユニットごとに職員が配置されるため料金は特養や老健より割高です。特養は要介護3以上の人が入居できるのですが、介護保険で運用しており安価で入居できるため、待機者が多いという難点も。

予算や要介護レベル、認知症の有無に通院状況など含め、自分が必要としているのはどういった施設なのか。それを探るヒントがたくさん散りばめられているので、施設選びの参考になるでしょう。

現場の医師ならではのアドバイス

老健の施設長である著者だからこそ伝えられる、現場の肌感やノウハウも重要な情報です。たとえば介護認定のコツ。介護認定は年齢や病気の重症度ではなく、「どれだけ介護が必要か」という観点で行われており、ここでポイントとなるのが「排泄」と「食事」だそう。この2点の状況を詳しく認定調査員に伝えるようアドバイスしています。

施設紹介会社を使う際の注意点にも言及。こちらは紹介料ビジネスとなるため、紹介先は民間施設で、紹介料を払わない特養や老健は基本的に対象外。そして施設の良し悪しではなく紹介料を優先して施設を紹介する会社が多いので、紹介された施設は必ず自分の目で確かめるよう促しています。見学中に一般職員が挨拶してくれるかどうかも重要であり、「少なくとも挨拶をおろそかにしている施設に良い施設なし」だそう。

また、入所のタイミングついて著者は「介護者が『施設に入れたい』と思った時が入所を考えるタイミング」と断言します。一般的には、自分でトイレに行けるかどうかがポイントとのこと。その理由は、食事や風呂と違って、「いつ」のタイミングがコントロールできないから。確かに……!

初めて介護と直面する際に、それこそ施設選びからリハビリや治療方針など、大事な選択と向き合う場面も多いと思います。判断に迷う、あるいはその選択に後悔しないかと悩むであろう介護者に向けて、著者が投げかける「どんな決断であっても、その方のことを一番考えている人が下した決断がいつも正解」の言葉が心に刺さります。

要介護者にとってのより良い生活と併せて、介護者の心に丁寧に寄り添い、数多ある選択について確かな情報とともに決断の手助けをしてくれるのが、本書の大きな魅力なのです。

レビュアー

ほしのん

中央線沿線を愛する漫画・音楽・テレビ好きライター。主にロック系のライブレポートも執筆中。

X(旧twitter):@hoshino2009

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