そして国民のほうも、声の大きいものに違和感をかき消され、極端な言説にそそのかされてしまうことはままある。いつしか致命的な想像力のなさまで、彼らから伝染してしまいがちだ。だからこそ、我々はその地に暮らす「普通の人々」の物語を知らなければならない……この絵本はパレスチナ・ガザ地区に暮らす、1人の想像力豊かな少女の物語である。
「おばあちゃん、わたしたちって、この鳥みたいに、かごの中にとじこめられてるのよね」
本書では全編にわたり、あえて幼さと、それゆえの不器用さを再現した筆致と彩色で、少女の純真無垢な内面と感受性の豊かさが表現されている。その手法は、主人公=作者自身の成長を示すようなラストカットの鮮烈なタッチの変貌を、より効果的に見せている。コンセプチュアルアートとしても秀逸な作品だ。
イスラエルにとってガザ地区の「完全奪取」は長年の悲願である。自国民以外の住民を聖地から排除するために、もはや手段を問わなくなってきていることは、この約1年間のガザ地区への執拗な総攻撃を見れば一目瞭然だろう。きっかけは2023年10月、パレスチナ・ガザ地区を実効支配する武装組織ハマスによるイスラエル地区急襲だったが、当初は人質救出を名目としていたはずの攻撃は、もはやその大義名分を失っているとしか思えない。だが、暴力の連鎖を暴力によって止めることは極めて難しい。イスラエルの市井の人々にも戦禍が及ぶことは避けられないだろう(……と書いているさなか、イランによるイスラエルへの大量ミサイル攻撃が報じられた)。
この作品は、ニュースでは映し出されることの少ないガザの日常と、そこに暮らす家族の肖像を、親しみやすく、時にファンタジックな描写で生き生きと伝えている(それは、いまやもう消えてしまった光景なのかもしれない)。ガザに生きる少女マラクの物語は、困難を乗り越える希望にも、過酷な状況を生き延びる術にもなりうる「想像力」の尊さを、世界中の子どもたちにわかるかたちで教えてくれる。そこには政治的・宗教的イデオロギーなどない。あるのは家族を思い、生まれ育った町を愛する少女のピュアな視線だけだ。
そして大人たちに対しても同様に、強いメッセージが投げかけられる。戦場の瓦礫の下に埋もれていく罪なき市民の嘆き、無垢なる幼子の奪われた未来に思いを馳せる、その想像力を失ってはならない。どこに住んでいようと、どれほど遠く離れていようと……。そんな基本的なイマジネーションこそが、いまの我々に欠落しがちな、しかし絶対的に必要な「能力」なのではないだろうか。こんな時代だからこそ、必要な1冊である。







