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2014.11.21

レビュー

小選挙区制がもたらしたものは政治への無関心が生んだアノミー状態と、あるいはその反面のポピュリズムへの傾斜ではないでしょうか

故・伊藤昌也さん(池田勇人元首相の首席秘書官をつとめた後、宏池会事務局長を経て政治評論家)の著書に『自民党戦国史』(現在は筑摩書房より刊行)というものがあります。佐藤栄作政権末期から田中角栄さん、三木武夫さん、福田赳夫さん、大平正芳さん、鈴木善幸さん、中曽根康弘さんの歴代各首相が政権を獲得するまでの権力闘争を描いた名著です。

この『小選挙区制は日本を滅ぼす』はその続編とも読めるものだと思います。「戦国」の後の内乱、その登場人物は竹下登さん、宮沢喜一さん、細川護煕さん、そして小沢一郎さんたちです。彼らの権力闘争が描かれています。といっても伊藤さんの著書の登場人物たちより迫力はだいぶ劣っているように感じられますが……。

浅川さんはこの本で、はっきりと今の小選挙区比例代表並立制という選挙制度は、竹下さんと小沢さんの権力闘争の産物だと断じています。煎じ詰めれば政治生命の生き残りをかけた二人の争いの中で提唱されたものだったのではないかといっているのです。この事実(!)を

「政界には権力闘争劇はつきものである。古くは吉田茂対鳩山一郎、佐藤栄作対河野一郎などがあり、その後の「角福戦争」も激しいものだったが、いずれもカラッとしていてダイナミックだったとの印象が強い。(略)竹下と小沢による「竹小戦争」は、あまりにも陰湿な場面が多かった。さらに、そこから派生した小沢と橋本龍太郎の「一龍戦争」、梶山静六との「一六戦争」も遺恨を残すものだった」
浅川さんはこう結論づけています。

陰湿さや遺恨の中で産声を上げた日本の小選挙区制、一体それがもたらしたものはなんだったのでしょうか。制度に振り回された私たち、それは政治家のエゴに振り回されたことに等しいのですが、それがもたらしたのは政治への無関心が生んだアノミー状態であったり、あるいはその反面のポピュリズムへの傾斜ではないでしょうか。

小選挙区制はなぜクローズアップされたのでしょう。その原因には中選挙区制が生んだ政治と金の問題や派閥政治に誰もがウンザリしたことがありました。では小選挙区制で政治と金の問題はなくなったのでしょうか、派閥はなくなったのでしょうか。少なくとも政治と金の問題は相変わらず起きています。派閥もかつての勢いはなくなったかもしれませんが、とても消滅したとは言えません。

派閥でいえば、党公認ということがより重要な要素になるにつれて、政党の中でも派閥、研究会同士が小選挙区制で公認獲得争いをしているようにみえてしかたがありません。国会の縮小再生産が各党の中で起きているのではないでしょうか。

もともと金権体質からの離脱ということと同時に、政権交代可能な二大政党制というようなことも言われていました。けれど現実に起きたのは浅川さんも指摘しているように多党化現象でした。そもそもこの論議は逆立ちしていたのではなかったでしょうか。先に二大政党ありきの論議だったのではなかったでしょうか。

二大政党という制度を夢のようなものとして喧伝していた人たちは今の日本の現象をどうみているのでしょう。第2次安倍政権誕生の今日まで、この制度でいわゆる死に票が50%を下回った選挙は一度もありませんでした。比例区での自民党の得票率は27%なのに衆議院での与党(自公)の議席は3分の2を越えています。これに違和感を持つのはおかしいでしょうか……。

二大政党というものが初めにあるはずはありません。民意の結果として現れることであり、そのような能力と魅力を民意に訴える中でその形に収斂することもある、ということではないでしょうか。政権交代可能な二大政党というものがあらかじめ存在するはずはないのです。

浅川さんによれば、「小選挙区制」で一番得した(!)のは、この小選挙区制に反対していた小泉純一郎元首相でした。劇場型とも呼ばれた郵政解散選挙です。そしてその次に得をした(?)のが今の安倍政権かもしれません。それが私たちになにをもたらすのか、
立ち止まって考えるときかもしれません。この国にふさわしい選挙制度はなにか、党を選らぶとはどういうことか、そして政治家とはどのような人であるべきかを。政党が変わっても実務官僚が変わらないことも問題ではありますが。(ところでアノミー状態はモラルハザードをもたらします。そして物事の決め方までもが小選挙区制化してしまうようにも思えるのですが……)

レビュアー

野中幸宏

編集者とデザイナーによる覆面書籍レビュー・ユニット。日々喫茶店で珈琲啜りながら、読んだ本の話をしています。

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