謎解きが楽しいだけでなく、さわやかな気持ちになれる本だった。質問者たちが気づいた数々の「植物のふしぎ」に何度も頷き、それに向き合う研究者たちの「真摯な答え」に膝を打つ。読みやすく穏やかな文体と、ごまかしのない知的なやり取りが心に響いた。
タイトルの通り本書は、60のQ&Aをテーマ別に分け、全10章にわたり掲載している。編者は個人ではなく学術団体で、「はじめに」ではこんな自己紹介が載っていた。
わたしたち日本植物生理学会は、植物のなぜについて、仕組みを調べることで理解したい研究者の集まりです。扱う植物、研究テーマ、アプローチは多様です。本会では2003年からホームページ(https://www.jspp.org/)に研究者と一般社会をつなぐ「みんなのひろば」を開設し、広報活動を進めています。2022年、累計アクセスは300万回を突破しました。そのなかの一番の人気コーナーが本書のもととなっている植物Q&Aです。
そのコーナーには、小学生から大学院生、そして一般の社会人まで、植物に関心を持つあらゆる人々からの質問が寄せられる。対する研究者たちは、「現在までにわかっていることをもとにできる限り平易な言葉で、かつ、正確に答える」よう心がけ、回答してきたそうだ。
そうした活動が実を結び、2007年には『これでナットク! 植物の謎』を、2013年には『これでナットク! 植物の謎 Part2』を、それぞれブルーバックス(講談社)から刊行した。だがその後も質問の数は留まるところを知らず、研究者たちの予想を大きく超える反響を呼び、今回の出版へとつながった。といっても本書は前2作の続編ではなく、「これまでのQ&Aから項目を選択し統合」したものとして誕生した。そのおかげで、どこから読んでも楽しめるつくりになっている。
たとえば第1章「食べられる植物」に出てくる問いは、生活の中で触れたことがあるものばかり。「Q1 果物は冷やすと甘くなるのか?」「Q3 ダイコンの辛さが場所によって違うのはなぜか?」「Q5 レタスの切り口がピンクになるのはなぜか?」といった現象は、日常で目にする「ちょっとした謎」だ。
言われてみれば確かに、どれも不思議に感じてはいたものの、その理由を考えてみたことはなかった。だからこそ答えが知りたくなって、ページをめくる。そうして謎が解ける楽しさを味わうとともに、「なぜだろう?」という気持ちを実際の質問に変えて、サイトへ投げかけた人たちに敬意を持った。謎解きにはまず、「謎を解き明かしたい」と思う心が必要なのだ。
また別の場面では、回答者たちの姿勢にも感銘を受けた。わかりやすく丁寧なことにくわえ、彼らはとても正直だ。たとえば第3章「葉」の「Q15 葉の縁のギザギザには、どのような役割があるのか?」という問いに対し、回答者は「これは非常に難問です」という一言から、「鋸歯(きょし)」と呼ばれる葉のギザギザについて、現在の研究で判明している性質や利点などをひと通り解説した上で、その効果を断言することなく締めくくる。
一般論として、生き物のからだの形は、必ずしも必然性からそうなっているとは限らず、特に良くも悪くもないので、とりあえずそういう形をとっている、という事例が多々あると考えられています。
鋸歯も、ある程度は環境に対する適応や役割を持っていると思いますが、細かな種間の差異に関しては、あまり特別な理由がないのかもしれません。
今後、研究が進み、この謎が解けることを期待しています。
「そうか、まだわからない謎もあるんだ」と、あらためて気づかされた。大人になるとつい知ったかぶりをしてしまう場面があるものの、それでは謎と素直に向き合うことは難しい。「わからない」ことをわからないまま受け止めることで、初めて謎解きの土俵に立つことができる。研究者としては当たり前の姿勢かもしれないが、「わかった」顔をしがちな私には、なんだか眩しく見えた。
目次を眺めて気になった謎から読むことも、知りたいテーマから読むこともできる。春の芽吹きを迎えるこれからの時期にもぴったりの本書を、ぜひ楽しんでほしい。
レビュアー
元書店員。在職中より、マンガ大賞の設立・運営を行ってきた。現在は女性漫画家(クリエイター)のマネジメント会社である、(株)スピカワークスの広報として働いている。