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2024.03.21

レビュー

おいかけっこの先にある楽しいおやつの時間に癒される。『おやつにしましょう』

この絵本をひと言でいうならば、「子どもにだけ読ませるのはもったいない!!」です。なんともいえない心地いい穏やかな世界に、きっと誰もが引きこまれることでしょう。

お話は、おやつのケーキをみんなで食べるまでの、ちょっとした冒険が描かれています。
登場するのは、あなぐま、はりねずみ、うさぎ、りす、きつねの5匹。

小さなはりねずみが、椅子に乗ってお湯を沸かしている姿も可愛いのですが、木イチゴのケーキを手にしたあなぐまの姿が妙に似合っていて、一気に心がほぐれます。
           

だけど、ここに出てくる動物たちの中で、私の一番のお気に入りはきつね。

きつねといえば、化けてイタズラをするズル賢い動物というイメージがあるので、何か悪いことをするんじゃないかとヒヤヒヤしながら読み進めたのですが、この子は違います。とっても優しい目をした、いい子なのです。

例えば、ゴツゴツした岩がある急な坂道では、今まであなぐまが持っていたやかんを持ち、一番後ろから仲間たちを見守ります。

その姿がお茶目で愛らしい。
                  

この絵本を読んでいたら、空想ばかりしていた幼稚園生のころを思い出し、ふと懐かしい感覚が蘇りました。

きっと子どもに、読み聞かせをしているうちに“大人も癒されてしまう絵本”ではないかと思うのです。

その魅力はなんといっても、まるで生きているかのような動物たちの温もりが伝わってくる美しい絵!!
動物だけでなく、表紙の木イチゴや、ワタスゲがいっぱいの草原の絵も見ているだけで癒されます。
            

こうした細かいところまで緻密に描く「細密画」は、図鑑など動植物の生態を描くときに用いられる手法で、描くのにとても時間がかかるそうです。

そんな繊細な絵を描くしもかわらゆみさんは、世界から注目を集める絵本作家。
この絵本は、しもかわらさんのデビュー作『ほしをさがしに』のドイツ語版を手がけたスイス人編集者が、しもかわらさんと一緒に絵本を作りたいと熱望したことで誕生しました。

         

『ほしをさがしに』といえば、動物たちに上から覗き込まれているような気分になる表紙がとても印象的ですが、この『おやつにしましょう』にも、この構図を思い出させる絵が出てきます。

あなぐまって、下から見たらこんな顔してるの?と笑ってしまったので、ぜひお手に取って確かめてください!!

もう一つ、あまりにも可愛くて思わず笑ってしまったのが、絵本の裏表紙に出てくる、はりねずみとりす。

         
きっと、おやつを食べて満腹になったところに、いっぱい歩いた疲れも出たのかな? なんて、お話の続きを想像してしまいました。

そして、明日は誰がおやつを作るのかな?  みんなは一緒に暮らしているのかな? 明日は何をして遊ぶのかな? と、子どものころのようにまた空想が始まってしまいました(笑)。

ただ眺めているだけでも頬がゆるむ『おやつにしましょう』。
子どもも大人も、誰もが幸せな気持ちになれる絵本だと思います。

おやつにしましょう

作 : ハンス・テン・ドウルンカート
絵 : しもかわら ゆみ

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レビュアー

黒田順子

「関口宏の東京フレンドパーク2」「王様のブランチ」など、バラエティ、ドキュメンタリー、情報番組など多数の番組に放送作家として携わり、ライターとしても雑誌等に執筆。今までにインタビューした有名人は1500人以上。また、京都造形芸術大学非常勤講師として「脚本制作」「ストーリー制作」を担当。東京都千代田区、豊島区、埼玉県志木市主催「小説講座」「コラム講座」講師。雑誌『公募ガイド』「超初心者向け小説講座」(通信教育)講師。現在も、九段生涯学習館で小説サークルを主宰。

公式HPはこちら⇒www.jplanet.jp

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