第157回芥川龍之介賞を受賞した『影裏』が綾野剛さん主演で映画化もされ、華々しいデビューを飾った沼田真佑さんの受賞後第一作。「群像」に掲載された短編「早春」を起点に、コロナ禍を挟み4年の歳月をかけ書き継がれた連作小説がようやく刊行されました。
自然への、生命への、生きづらさを抱えた者への眼差し。人と動植物、水と土と空気、社会が影響し合って成り立つこの世界を眺め、自然のまま、言葉の流れるまま、音楽に身を任せるように過ぎ行く時間をそのままに描き出す。「執筆の支えになるのは、一に音楽、もうひとつは煙草だった」という沼田さんは大の音楽好き。心地よいリズムと美しい情景描写、季節の情感があふれる文章の流麗さは当代随一です。
「群像」掲載の作家・松浦理英子さんによる書評では「このすぐれて知的で倫理的な小説は、孤独である勇気を持つ者にしか書けないものだろう」と絶賛されました。抑鬱を抱えながら東北地方を淡々として移ろいゆく主人公・木山の佇まいは沼田さんご自身にも重なります。しみじみとした味わいが癖になる、魅力に溢れた作品です。
──文芸第一単行本編集チーム 名原博之
レビュアー
文芸第一単行本編集チーム