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2024.01.22

レビュー

うつ病も新型コロナ後遺症も疲労とウイルスの問題だった! 常識を覆す疲労の正体!

タイトルの通り本書は、疲労とウイルスの関係について書かれている。だが声を大にして伝えたいのは、むしろその先に待ち受ける意外な謎解きだ。次々とつながる研究の先に、大きな驚きが待っていた。

はじめに著者は、「世界の疲労研究が、とても遅れている」という。その原因は、疲労のとらえ方の違いにあるそうだ。

日本では、過労や疲労は社会的な大問題として広く認識されています。
(中略)ところが欧米では、まず「疲れているのに頑張って働く」ことは、よいことだと思われていません。効率の悪い、愚かな行為だと思われているのです。そのため、欧米の人は疲れたときには休んで、仕事の効率を上げようと考えます。疲れているのに無理をして働いている人は、「自己管理のできないだらしない人」だと解釈されます。

この解釈の違いのため、欧米では疲労が医学的に重視されず、研究も進まなかった。その点で、確かに日本はもっとも研究に適した土地だろう。しかし昨今、欧米でも急激に疲労の研究が進むきっかけがあったという。それが「新型コロナウイルス」と、その後遺症だ。これまでよりも速いスピードで解明される研究の成果とその様子を、リアルタイムで伝えたい──本書には著者のそんな願いと、疲労の全体像が詰まっている。

著者は1958年に三重県津市で生まれた。1985年に大阪大学医学部を卒業。大阪大学微生物病研究所助手を務めたのち、1993年から1995年までスタンフォード大学へ留学した。帰国後は大阪大学大学院医学系研究科・微生物学講座助教授を経て、2003年に東京慈恵会医科大学ウイルス学講座教授へ就任し現在に至る。また2021年からは、東京慈恵会医科大学疲労医科学研究センターのセンター長も兼任している。これまでに疲労やうつ病に関する書籍も出版してきた、ヘルペスウイルス研究の専門家だ。

さて全6章から成る本書では、まず疲労と「疲労感」の違いを定義するところから始まっている。

一般的に使用される用語である「疲労」には、2つの意味が含まれています。疲れたという感覚である「疲労感」と、疲労感の原因となる「体の障害や機能低下」です。
このうち、科学の対象としやすいのは、後者のほうです。なぜなら現在の科学はまだ、前者の「感覚」を扱えるほどには発展していないからです。

ここから著者たちの研究チームは、疲労の度合いを測定する方法として、ウイルスを利用した方法にたどりつく。具体的に注目したのは、体力の落ちた人の唇に現れる「口唇ヘルペス」だ。宿主の身体に潜み続けるこのウイルスは、宿主の疲労に応じてそのつど活動を再開する。私もこのウイルスを持っているので、唇の端にぴりぴりする痛みが湧いてくると、「風邪のひき始めだな」と気づかされる。

そんな風に本書では、疲労を科学的に扱うことをはじめとし、その仕組みと病気、ウイルスとの関係を丁寧に解きほぐしていく。ちなみに実は「疲労」にも2種類あって、「生理的疲労」と「病的疲労」に分類されるという。

仕事や運動などで発生し、1日休めば回復するような短期的な疲労を、生理的疲労といいます。
これに対し、何ヵ月も続き、少々休んだくらいでは回復しない疲労は、病的疲労と呼ばれます。

ヘルペスウイルスで測定できるのは前者。そして後者の「病的疲労」の代表格が、「慢性疲労症候群」と「うつ病」、そして「新型コロナ後遺症」だ。ウイルスを手掛かりに、それらの正体に着々と近づいていく様子が、とにかく面白い。特に本書の第3章以降でつづられる、「うつ病」の原因遺伝子「SITH-1(シスワン)」を著者たちの研究チームが発見するまでのくだりと、それが「新型コロナ後遺症」の研究に繋がっていく流れは圧巻といえる。

本書で挙げられているコロナ罹患後の諸症状は、私にも覚えがあった。自分の体内で起きていたことと最新の研究がこんな形でリンクするとは思わず、なにより、後遺症に苦しんでいた当時はまったくわからなかったことが、少しでも解明されていることに興奮した。まだまだ途上ではあるとしても、こうして研究が進んでいることを知れたのも心強い。

合間に挟まる図版や注、そして章ごとにまとめられたポイントも、理解の大きな手助けとなった。その後の「SITH-1(シスワン)」の名を巡る、著者の感慨と考察もいい。専門書としてはかなり読みやすい本書を通して、疲労の正体と研究の最先端にぜひ触れてほしい。

レビュアー

田中香織 イメージ
田中香織

元書店員。在職中より、マンガ大賞の設立・運営を行ってきた。現在は女性漫画家(クリエイター)のマネジメント会社である、(株)スピカワークスの広報として働いている。

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