血圧を(減塩せずに)下げたい!
20代の頃、年に1度の健康診断でいつも「これは、なんなのだろう」と不思議に思っていたのが血圧測定だ。そして30代に突入すると、年上の知人が「“血圧が高い”って病院で言われちゃって……」とドンヨリするさまに出くわす機会が増え、私も一緒になって「そうですか、大変ですね……」と薄暗い顔でリアクションしていたが、薄暗い顔をしているくせに、実は内心その大変さがよくわかっていなかった。
だが、次第に彼らが「血圧を下げるために食生活を変えて、脂質や塩分を大幅にカットしないとダメ」と四苦八苦しているのを知り、「それは本当に大変だ」と焦り始めた。もう大変。私の好物は、ことごとく脂質と塩分でできているからだ(鶏の唐揚げとか)。いやだ、絶対に別れたくない。
しかも運動やウォーキングをこまめにしている人ですら「血圧が高い」と指摘が入ることがあるそうで、筋トレやランニングが大好きな自分には無縁の話だなんて、とてもじゃないが思えなかった。
こうして、いつ来るともしれぬ「あなた、血圧高いですよ」という宣告を恐れて生きている。なので『薬も減塩もいらない 1日1分で血圧は下がる!』は、まさに私のための本なのだ。なにせこんな言葉から始まる。
多くの場合、血圧は簡単な体操で下がります。しかもその体操で血管を若返らせることができ、血圧以外にもさまざまな面で効果が期待できるのです。
簡単な体操と減塩、どっちを取るかといえば断然前者であるし、高齢の家族にもすすめられる。本書の著者は薬剤師で薬学研究者の加藤雅俊先生。医療の現場にいる加藤先生は、降圧剤が処方されている現状を次のように説明する。
日本では本来薬を飲む必要のない人が、厳しすぎる高血圧基準によって長年降圧剤を飲まされ続けているのです。
「血圧高いんだよね」とボヤく人の多いこと多いこと。でも念のために降圧剤を飲んでもいいのでは……?と思ったら、どうも事情はそう単純ではないようだ。
薬を飲んでも何の効果もなくお金の無駄になっている、というだけならまだマシです。問題なのは、その必要のない薬が原因で不調に陥っている人が、今やものすごい数になっているということ。
加藤先生は「副作用のない薬なんてものはありません! 」と、薬剤師ならではの視点で、降圧剤の影響による心身の不調を説明する。これがまた絵に描いたような悪循環の話であり、高齢者の体調不良そのままの事態なので肝が冷える。
本書は、降圧剤や減塩といった対処療法に頼らずに、毎日の生活を送りつつ血圧を根本的に下げる「加藤式降圧体操」の方法と、なぜその体操で血圧が下がるのかを、親しみやすい語り口で解説する。
そして私たちをドンヨリ悩ませる高血圧について、どこを本来心配するべきかを教えてくれる。私のような血圧初心者に大変ありがたい本だ。本書をきっかけに血圧計を買って毎日測るようになったが、加藤先生の解説なしで血圧計デビューをしていたら毎日ビクビクものだったし、測り方すら間違えていたと思う(実際「下の血圧が高い」ことがあり、それはまさに加藤先生が本書で指摘する操作ミスによるものでした)。
NO(一酸化炭素)で血管を柔らかく
加藤式降圧体操の紹介の前に、そもそもなんで体操で血圧が下がるのかについて紹介したい。
心臓の収縮と拡張によって血液が流れるとき、血管壁に強い圧がかかれば、血圧は高くなります。これが高血圧の仕組み。非常にシンプルです。ではなぜ、血管壁に強い圧がかかるようになるのでしょう?
その最大の要因は、血管が硬くなること、そして、それによって心臓が高いポンプ力を必要とするということにあります。(中略)
ですから血圧を下げるには、血管を柔らかくしてあげることが不可欠なのです。
この血管を柔らかくする方法で鍵となる物質が「NO(一酸化炭素)」だ。NOは血管の内皮細胞から分泌されるのだという。
「一酸化炭素」と聞くと、大気中では有毒な危険物質のイメージがありますが、血管にとっては非常に大事な物質です。
そうそう、一酸化炭素って怖いイメージばかりだったが、血管には良い効果がある。
いいことだらけ。NOの分泌量を増やしたい! そこで登場するのが「加藤式降圧体操」だ。NOが分泌される仕組みに沿って設計された体操を毎日行うことで、血管を柔らかくし、降圧剤や減塩に頼らなくてもよい生活になる。
それぞれの体操の方法はカラー写真でコツと共に丁寧に紹介されている。実際にやってみると、非常にシンプルな動作なのに「効く」。効くというのは、楽勝(物足りない)と苦戦(キツい)の、ちょうど真ん中あたりの手応えだ。普段運動をしていても体の全ての筋肉を使っているわけじゃないことがよくわかる。そして体操後は全身がフワッと軽く心地良い。
血圧知識をアップデートしよう
本書の後半では、降圧剤が処方されすぎている現状と、エビデンスに基づいた血圧の最新知識が紹介されている。「血圧ってなんだか怖いわ~」と怯えていた私にとても有効な章だった。生活の質や健康に関わる話ばかりだ。
人間は、歳を重ねるにつれて筋肉量が落ち血管も硬くなっていきますから、若いときより血圧が少しずつ上がっていくのが自然なのです。その場合は、降圧体操(18ページ~)でNOの分泌量を増やすことでかなり改善できますから、少しずつ上がっているという場合は、そんなに心配する必要はありません。(中略)
怖いのは、それがジワジワではなく急激に上がった数値の場合。脳の疾患や心臓の疾患など、どこかに大きな病気が潜んでいて、そのサインとして急激に上がっている可能性が高いからです。(中略)
血圧が高いから病気になるのではなくて、病気が起こっているから血圧が上がっているのです。
心配しすぎて過剰に薬に頼るのも、慢心しすぎてほったらかしもよくない。本書では注意すべき高血圧の状態についても紹介されているのでぜひ読んでほしい。
「正しく怖がる」ことが大切なのだということがよくわかる本だ。ということで私は血圧計を買って、降圧体操も始めた(血圧計はBluetooth対応でグラフを自動で作ってくれるものにしました。後日見返すとちょっと楽しい)。
レビュアー
ライター・コラムニスト。主にゲーム、マンガ、書籍、映画、ガジェットに関する記事をよく書く。講談社「今日のおすすめ」、日経BP「日経トレンディネット」「日経クロステック(xTECH)」などで執筆。
twitter:@LidoHanamori