これだけは知っておきたい美容の話
神崎恵さんはテクニックの人だと思う。「美容家」と呼ばれるひとたちは、毎日いろんな化粧品や美容法を伝えるが、それをスマホ越しに眺めながらこう思ったことはないだろうか。「高価な化粧品を使っているから、美容にたくさんお金と時間をかけているから、そんなにキレイなんでしょ?」と。でもそれは絶対にちがう。
美容には「テクニック」が存在する。そしてテクニックは「知識」から生まれる。知識がなければ、どんなに高価なものを使ったって、望む効果は得られないと思う。
たとえば、神崎さんが本やライブ配信で丁寧に教えてくれる眉の整え方を参考にすれば、たとえ同じアイテムを使わなくても顔立ちが変わる。だから好きなんです。テクニックの上に数え切れないほどの化粧品や美容法があって、それらを愛情たっぷりに語ってくれるから、どんなにめまぐるしく美容の世界が変わっても「神崎さんが一番好き」と迷わず言える。情緒と戦略のバランスが心地良いのだ。
「基本でありながら実は何よりも重要」な話をつめこんだ『一生ものの基礎知識 美容の教科書』は、神崎さんだから書ける本だと思う。スキンケアからメイク、そしてボディやインナーケアにいたるまで、一番大切にするべき120(!)の基本が簡潔な言葉とイラストでまとめられている。今更聞けない話ばかりだ。
この本で私が最初にしびれたのはこちら。
「えっ!そんなこと?」と思うなかれ。実際のところSNSを流し読みしただけで知った気になっていることがあまりに多いのだ。「自己流アレンジをするのはその後で」という言葉に「ですよね?」と思わず反省してしまった。
こちらにも感動した。
いろんな美容院を渡り歩いてはモヤモヤと落ち着かない気持ちを抱えている美容院迷子に捧げたいページだ。
ところで、美容の最先端にいるであろう神崎さんがどうして基本に戻るのか。
ここ数年感じているのは、美容の複雑さです。さまざまな情報を簡単に得ることができるようになった今、美容の楽しさが増えたと同時に、正しい知識や方法を見極め、選択する難しさを感じています。(中略)
基本を知ることで、誰もが簡単に自分を健やかにすることができる。そしてその健やかさこそが、美しさへの近道であり、確実な道であると感じています。
そう、スマホ片手になんだって調べられちゃうが、なんでもありすぎてすべてを見失いそうになる。そんなとき灯台になるような基本知識があれば、この先も迷子にならない。
私の場合、「メイクをがんばりたい季節」が波のように寄せては引いてを繰り返している。でも、メイクをほとんどしない季節でもスキンケアやヘアケアの基本は守りたいし、メイクにカムバックしたときに勘を取り戻すのに時間がかかることもある。だから、流行に左右されないトレンチコートのような、ずっと頼りになる「一生もの」の知識があるとうれしい。
なぜ日焼け止めが一年中大切なのかについても、本書はていねいに教えてくれる。
この本ではメンズメイクなどの男性向けの解説も添えられているので、男女を問わずおすすめできる(とくに洗顔と日焼け止めの項はたくさんの人に読んでもらいたい)。スキンケアの項目を10代の頃の私に教えてあげたいし、やみくもに化粧品を買っていた20代の私にもこの本を送ってあげたいよ……。
なぜアイシャドウを塗るの?
この本は、まずは目次で120の項目をざっと見て、自分が気になるところをピックアップして読むと楽しい。
たとえば私を最近迷わせているのは「アイシャドウ」だ。毎シーズン、ありとあらゆるブランドやメーカーから新色のアイシャドウが発売されて、それを眺めるだけで楽しくなるけれど「私の目は二つだし、そんなに面積もない。塗りきれないし、選べない……」とも思っている。日々たくさんアイシャドウに触れている神崎さんなら、どうするの?
むしろ、塗らないほうがいいことも……? たしかにリップの色が強めな日は、アイシャドウを塗る前のほうが顔が垢抜けて見える。そんなアイシャドウ事情についての神崎さんの基本的な考え方はこちら。
アイシャドウの役割は、まぶたの透明感を引き出し、瞳自体をより印象的に見せること。(中略)必要以上に目を大きく見せようとしたり、色をのせたりする必要はありません。
こうやって言い切ってもらうと、アイシャドウ迷子の私は「そうですよね!」と自信を持って必要最低限の色を自分のために選べる(選び方も本書で説明されています)。
そして、やらなくていいことと同じくらい、絶対やったほうがいいこともちゃんと伝えてくれる。
ちょっと面倒くさいなあと思っていても、神崎さんがそこまで言うなら使ってみるか?という気になる。ドラッグストアにはお手頃かつ優秀な眉マスカラが揃っているし、デパートの化粧品売り場にも必ず置いてありますもんね。
そう、タイムレスな基礎知識が「これは肌や髪の健康によくないよ」「(やらなくても)大丈夫だよ」「やったほうがいいよ」と背中を押してくれる本なのだ。アイシャドウや眉マスカラに限らず、美容は自分で選ぶことの連続だ。誰かに強いられるものでもないし、抗生物質のような薬でもない。だから、何もわからないままスマホをじーっと眺めても、選べる自由は手に入らないし、むしろ息が詰まりそうになる。本来は楽しいもののはずなのに。
美容のファーストステップやおさらいのために、まずは「美容の基本」を知っておくと、自分がやりたいことを見極められるようになるはず。
レビュアー
ライター・コラムニスト。主にゲーム、マンガ、書籍、映画、ガジェットに関する記事をよく書く。講談社「今日のおすすめ」、日経BP「日経トレンディネット」「日経クロステック(xTECH)」などで執筆。
twitter:@LidoHanamori