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2023.11.24

レビュー

恐竜の絶滅後、爆発的な進化を遂げた哺乳類はどのように変わっていったのか!?

古生物ファン必携の「生命の大進化40億年史」シリーズ、早くも登場の第3巻である。今回は「新生代編」ということで、約6600万年前から現代にいたる、哺乳類の隆盛期を中心とした生物史を辿っていく。豊富な化石写真、カラー復元画、そして詳細にして分かりやすい解説文により、今や失われた古生物たちの全貌が明かされる。

簡単に言うと、新生代とは恐竜が絶滅したあとの時代。中生代末期にあたる白亜紀末、巨大隕石が地球に落下し、大規模な気候変動により恐竜類をはじめ多くの生物が絶滅した。わずかに生き延びた生物は、再び温暖な気候を取り戻した地球で劇的な進化と多様化を果たし、また新たにやってきた氷河期の脅威にもさらされながら、いくつもの種が現在まで命脈をつなげることに成功。その中には、人間をはじめとする哺乳類、鳥類、爬虫類、魚類など、我々にもなじみ深い生物が数多く存在する。

なじみ深いとは言っても、その「祖」たる生物のなかには、現在の姿とは似ても似つかない種も多い。たとえば、インドヒウス。「クジラ類に近い偶蹄類」という、一体どういうことか聞き返したくなるような冠とともに紹介される頭胴長40センチメートルほどの動物である。外見的にはクジラ要素などまるでないと言ってもいい。だが、その骨と歯の分析結果や、耳の形状からは“水棲適応の準備”が備わっていたと考えられており、哺乳類が海洋進出する系譜のスタート地点にいる生物なのだという。

この古生物の存在自体も驚きだが、固定観念に縛られずに発見と解析を重ね、こうした思いがけない系譜を形成していく化石研究の面白さにも、心躍るものがある。

なお、クジラ類の進化と変容は、本書における最も魅力的な読みどころのひとつだ。まるで巨大なワニのようなアンブロケトゥス、最も古いヒゲクジラ類といわれるミスタコドン、中新世の頂点捕食者(トッププレデター)級生物とも目されている大型ハクジラ類のリヴィアタンなど、実にバラエティに富んでいる。

バラエティに富んでいると言えば、長鼻類も見逃せない。現在はゾウ類だけが唯一生き残っているが、もともとは多彩で大きなグループだった。その祖にあたる暁新世の大型哺乳類モエリテリウムは、現在のカバのように水棲か半水棲だったといわれ、見た目もカバに近い。が、その系譜にあるフィオミアあたりから、鼻や口あたりの形状が独特になっていく。さらに、中新世には下あごから牙が突き出たプラティベロドン、デイノテリウム、ステゴテトラベロドンなどが登場。あまりに特殊な形状をしているので、どんなふうにこの牙を役立てていたのか、読者のイマジネーションを刺激せずにおかない生き物である。映画『エイリアン』に登場する化石化した宇宙人(スペースジョッキー)の造形は、こうした古生物をモデルにしたのではないかという想像も膨らむ。



現在までの系譜をたどることができる生物がいる一方、現生種とは関係せず、グループ自体が絶滅した動物もいくつか登場する。その消えゆく最後の日々を思うと切ないが、そうした運命も「自然なこと」だと思えば、少し安心もする。特に、人類という種の終末を意識せずにいられない昨今、あるピークを過ぎると発動する「絶滅プログラム」のようなものが遺伝子レベルで仕組まれていたとしたら、今がその時かもしれない……などと妄想してしまうのは、ページを繰りながら「何事にも永遠などない」と痛感するからだろうか。しかし、それぞれの生物たちの営みの日々を思えば、それは決して落ち込むようなことでもない。

メランコリックな気分はさておき、生物史におけるとんでもない逸脱やダイナミズムを感じさせてくれるのも、化石研究の醍醐味である。なかでも新生代後期にあたる第四紀(約258年前から現在まで)には、多くの古生物が人類の祖先と出会っていたとみられ、のちの「空想上の生物」のモデルになったのではないかという仮説は興味深い(著者には『怪異古生物考』という著作もある)。たとえば、サイ類の一員で巨大な角を持つエラスモテリウムについては「ユニコーンの原型?」と語られ、全長約7.7メートルという巨体を誇ったトヨタマフィネイア・マチカネンシス(通称マチカネワニ)は「龍のモデル?」として紹介される。その説得力満点の姿(化石と復元イラスト)はぜひ本書にて確かめてほしい。全長6メートルに達する「オオナマケモノ」としても知られるメガテリウムなども、もし古代の人々が出会ったら十分に「怪獣」として認識されただろう。

そして、やはりこの「新生代編」においては、ヒトの誕生と進化に注目しないわけにはいかない。中新世の終わりごろに「始まりの人類」として登場するのが、アフリカ中央部に生息していたサヘラントロプスだ。全身像の解析・復元はいまだにできていないらしいが、ほぼ完全な頭骨が発見されており、脳の容積は現在のチンパンジーと同じぐらいだったとか。この化石が約720万~600万年前のものとされている。

サヘラントロプスや、アウストラロピテクスといった太古の人類は絶滅するものの、約31万年前には現生人類=ホモ・サピエンスが登場。そして、約30万年前にはホモ・ネアンデルターレンシス(ネアンデルタール人)が現れ、その血脈をホモ・サピエンスに分け与える。それから現在まで、多くの時が流れた――。悠大な地球の歴史から見れば、ヒトは「もう十分に生きた」種なのかもしれない。

これらの生物史のプロセスを知ることで、自分たちを取り巻く世界、営々と築かれてきた文明、人類という種のありようなど、多くのことが今までとは違って見えるだろう(こうして文字と写真が印刷された本を読んでいる自分自身の姿も)。あるいは、時の流れの認識さえも、ダイナミックに変化するかもしれない。「永遠などない。だが何かは続いていく」というような実感も、本書を通して胸に染み入ってくるはずだ。

レビュアー

岡本敦史

ライター、ときどき編集。1980年東京都生まれ。雑誌や書籍のほか、映画のパンフレット、映像ソフトのブックレットなどにも多数参加。電車とバスが好き。

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