この絵本には「言葉」がありません。泣き叫ぶ声も、嘆きや怒りの言葉も。けれど、だからこそ伝わってくるのです。言葉を超えた叫び、嘆き、怒り、絶望、そしてその果ての希望まで。
戦争によって、家族とともに故郷を追われた絵本作家のオレクサンドル・シャトヒンは、このあまりに理不尽で、胸を押しつぶすような現実を、ウクライナの国旗の色である青と黄色、さらには絶望と恐怖を表す黒、そして「命」の象徴である蝶によって描きだしました。
この絵本は、ウクライナで起きていることに無力感を覚え、しだいに慣れてしまってきているわたしたちに、もう一度、自分の身にも起こりうるものとして感じさせる力をもっています。「戦争」の足音に慣れてしまわないように、この絵本の「言葉」を紡ぐのはわたしたち自身なのです。何度もページをめくって、絵を“読んで”みていただけると嬉しいです。
──新事業チーム 吉田幸司
レビュアー
新事業チーム