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南海トラフ巨大地震、そのときいったい何が起こるのか!?  いつか起こる震災のリアル!

南海トラフ巨大地震 1
(原作:biki 漫画:よしづき くみち)
2023.09.14
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関東大震災から100年目のリアル

2023年9月1日、関東大震災から100年が経った。日本で生活する限り、逃げようのない最大級の災害、それが地震だ。阪神・淡路大震災、東日本大震災をはじめ、数多くの地震を経た私たちは、常に震災の合間の「かりそめの平安」を生きている。そして今、警戒すべき危機として繰り返し叫ばれている震災……。

特に警戒すべきは、政府がマグニチュード(以下M)8~9級の地震発生確率を、今後30年以内に70~80%としている南海トラフ巨大地震である。内閣府の被害想定によると、最悪の場合、全国で約32万3000人が死亡し、揺れや火災、津波などで約238万棟の建物が全壊もしくは消失すると想定されている。

南海トラフ巨大地震による経済損失は約220兆3000億円とされているが、そこから20年間での被害額は、最悪1410兆円に達するという推計もある。2023年の日本の国家予算は、一般会計で114兆3812億円であることを考えると、日本経済を吹っ飛ばす十分なインパクトを持っている。

マンガ『南海トラフ巨大地震』は、そんなマクロな視点から離れ、その震災に居合わせた西藤命という一人の青年の目を通して、震災がもたらす状況をミクロに克明に描いていく。主人公の西藤は、将来を見出せないまま日々無為に生きている。パチンコ台に玉が吸い込まれるさまを見て絶望する、そんなヤワな主人公だ。



ここから彼は、本当の絶望がどういうものか知ることになる。
2025年2月11日15時07分、和歌山南方沖、深さ10kmの震源地でマグニチュード9.2を記録した地震が起きる。



厳密に定義付けられているわけではないが、地震の大きさをいう時、わかりやすくM7級を大地震、M8級は巨大地震、M9級を超巨大地震と呼ぶことがある。その呼び方でいうと、阪神・淡路大震災(1995年)はM7.3だったので、いわゆる大地震、関東大震災(1923年)はM7.9で巨大地震、東日本大震災(2011年)はM9.0で超巨大地震というふうになる。

南海トラフ巨大地震で、最も危惧されているのは「津波」だ。このマンガで描かれる津波の描写は、東日本大震災とは異なる津波災害の特徴をよく伝えている。



これは名古屋市で想定されている津波の特徴で、伊勢湾の奥にある名古屋港の地形の影響で、沖合で発生した津波が沿岸部に直接ぶつからず、じわじわと水面が上昇。東日本大震災で見た津波とは異なる様子を見せるという。名古屋の津波は「見えない津波」なのだ。

命大事、極限状態での選択

津波災害においては、なにをおいても一刻も早く高いところへ。それが東日本大震災を経験した私たちが得た教訓だ。しかし、西藤は避難に足手まといとなる老人を見捨てることができない。



津波の水かさが増えるなか、一旦クルマの中に避難するという最悪の選択をして、さらなる危機に見舞われる二人。極限状態での人間性が問われる場面で、西藤がとった行動は、より悲劇的な展開へと繋がっていく。さいとうたかをの『サバイバル』や楳図かずおの『漂流教室』といったパニック漫画の金字塔。さらに富士山噴火が南海トラフ地震を想起させる望月峯太郎の『ドラゴンヘッド』など同ジャンルの漫画はある。しかし、それらの作品がフィクションというフィルターを通して読めたのに対し、本作は徹頭徹尾「実際にこうなるのだ」という近い将来のドキュメンタリーとして読むことになる。主人公の西藤は老人の命にこだわり、自分の命を失いかける。それは「正しい行動」なのか? あの東日本大震災を現実に経験した、もしくはテレビニュース越しに見た私たちは、その答えを今も出せないでいる。このマンガは、その点を容赦なく突き、そして問う。「あなたならどうする?」と。

本書の巻末には、防災・危機管理アドバイザーの山村武彦氏の解説が掲載されているのだが、これがまた非常に恐ろしい。南海トラフ巨大地震は、何度も繰り返し起こり、日本書紀にも記されている。『是の如く地動(なゐふ)ること、未だ曾(むかし)より有らず』と書かれた白鳳地震から、主な南海トラフ地震は13回起きている。

その13回のうちの8回(約60%)は、東海地震などの後に南海地震が連続して起きている。(中略)
このことから東海地震などの固有地震が起きると、同じ南海トラフ沿いの南海地震などの別の固有地震を連動又は誘発してきたものとみられている。

宝永地震の49日後には富士山が宝永の大噴火を起こし江戸にも降灰があった。次の南海トラフ巨大地震発生時に富士山が連動して噴火しないという保証はない。最悪の複合災害への準備も必要になる。

大地震×大津波×噴火。考えられる最悪のシナリオではないか?
実際に南海トラフ巨大地震がどういうものになるかはわからない。しかし、私たちにできることは「備えること」しかない。改めてこのマンガを読み、「あなたならどうする?」という問いに、繰り返し答え続けなければならない。

  • 電子あり
『南海トラフ巨大地震 1』書影
原作:biki 漫画:よしづき くみち

それは、必ず起こる。東日本大震災の約10倍もの被害が予測されている南海トラフ巨大地震。そのとき、いったい何が起きるのか。

「日本」が「衝撃的な有り様」になる
「いつか起こる震災のリアル」
「そのとき」が来る前に知っておかなければならない「現実」

「現代ビジネス」で10,000,000PV超えの異色の話題マンガ!
2025年 2月11日 15時07分、「南海トラフ巨大地震」発生──。
そのとき、名古屋港にいた主人公・西藤 命(さいとう めい)は、変わり果てた街の姿を目にする。
「大津波警報」が発令されるなか、安全な高台へ逃げようとする命。
ところが、そばには「ケガを負って動けない高齢者」が……。
見捨てるか、それとも助けるか。
迫られる究極の決断。
そして襲い来る「見えない津波」の恐怖。
いつか必ず起こる未曽有の災禍。そのとき、いったい何が起きるのか?
どうすれば、生き延びることができるのか?
綿密な取材に基づいて描かれた「いつか起こる震災のリアル」。
これは、「そのとき」が来る前に知っておかなければならない「現実」。

レビュアー

嶋津善之 イメージ
嶋津善之

関西出身、映画・漫画・小説から投資・不動産・テック系まで、なんでも対応するライター兼、編集者。座右の銘は「終わらない仕事はない」。

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